なにもしたくないし、なにも考えたくない。
「まったくやる気が出ないな……」
ストレスの原因であふれる現代社会に生きていれば、誰だってそんなときがありますよね?そういう時間も心身の健康を保つために必要であることは間違いありません。
でも、もしそんな気持ちのまま長い時間を過ごすようなことになったら問題ですよね。時間がもったいないですし、生活に支障をきたすことにもなりかねません。
実は、自分の体がやる気の出ない状態になっていることには原因があります。
ストレス?
脳疲労?
栄養のバランス?
ここではまず、その原因を探って「やる気」のシステムを明確にします。その上で、やる気が出るようになるための対処法15選をご紹介します。
目次
1 やる気が出ない原因を知る
1-1 やる気とはなにか?
1-2 「やる気が出ない」を誘発する三大神経伝達物質
1-2-1 ドーパミンの働き
1-2-2 ノルアドレナリンの働き
1-2-3 セロトニンの働き
2 「やる気が出ない」は脳が管理している
2-1 意識下で管理されている「やる気」
2-2 管理システムが壊れると起こす病気
3 脳がやる気を出す状態とは
3-1 緊急事態に備える脳
3-2 社会的意義の高い行為
3-3 達成が確信できる行為
4 「やる気が出ない」をなくし、三大神経伝達物質を増やす方法15選
① やる気が出ないをなくすには「睡眠」をとる
② やる気が出ないをなくすには毎日「朝日」を浴びる
③ やる気が出ないをなくすには「適度な運動」をする
④ やる気が出ないをなくすには朝晩5分の「リズム運動」をする
⑤ やる気が出ないをなくすには「不安」を直視する
⑥ やる気が出ないをなくすには「褒めてくれる人」を探す
⑦ やる気が出ないをなくすには「小さな目標」をいくつも設定する
⑧ やる気が出ないをなくすには「1週間の予定表」を作る
⑨ やる気が出ないをなくすには「明るい気持ち」になる
⑩ やる気が出ないをなくすには「ワクワク」する
⑪ やる気が出ないをなくすには「ときめく」
⑫ やる気が出ないをなくすには「歌」をうたう
⑬ やる気が出ないをなくすには「笑う」
⑭ やる気が出ないをなくすには「趣味」に没頭する
⑮ やる気が出ないをなくすには食事で「原料」を摂取する
まとめ 「やる気が出ない」は簡単な方法から対処していく
1 やる気が出ない原因を知る
やる気が出ない状態になっていることには、誘発する引き金になっている原因と、直接の原因になっている身体的要因があります。
引き金になっている原因は、重度のストレスや精神的ショックなど多岐にわたり、なかなか特定するのは難しいものです。しかし、身体的要因は特定できます。
1-1 やる気とはなにか?
人間の脳内でやる気を起こさせているのは、「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」という神経化学物質です。
これら2つの物質の分泌には、安定や安らぎの要因となる「セロトニン」も大きくかかわっていることから、この3つを合わせて三大神経伝達物質と呼びます。
「やる気」とは、こうした脳内物質による精神エネルギーなのです。
1-2 「やる気が出ない」を誘発する三大神経伝達物質
三大神経伝達物質はそれぞれ影響し合いながら、人体の維持に重要な役割を担っています。
神経細胞(ニューロン)の中では電気信号として情報の伝達が行われていますが、神経細胞と神経細胞の間で情報をやり取りするために放出される化学物質が神経伝達物質です。
神経伝達物質はその働きによって形が違い、鍵穴のような受容体には、その形に合った神経伝達物質だけが受け入れられるしくみになっています。
1-2-1 ドーパミンの働き
ドーパミンは脳を覚醒させる働きをします。ドーパミンが側頭葉を刺激すると喜びや快楽が生じるので「快楽ホルモン」とも呼ばれます。
前頭連合野で活動すると創造性などの精神機能が活性化し、あらゆる行動を起こす動機付けや学習を活発にする因子となります。
健全な精神を維持するためにはとても重要な物質で、不足すると無気力やパーキンソン病の原因になり、過剰になると総合失調症になるといわれます。
1-2-2 ノルアドレナリンの働き
ドーパミンから合成されるノルアドレナリンは、やはり脳内で強い覚醒作用をもちます。
激しい感情や強い肉体作業などで人体がストレスを感じたときに脳内で放出されたり、副腎髄質からホルモンとして放出されたりします。
脳内では気分を高揚させ、恐怖や驚きの因子にもなることから「怒りのホルモン」とも呼ばれます。
体内では交感神経を活性化させて基礎代謝率や血圧を上昇させます。
不足すると神経症やパニック障害、うつ病の原因となり、過剰になると躁状態を引き起こして高血圧などの原因になるといわれます。
1-2-3 セロトニンの働き
精神を安定させるので「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンの分泌をコントロールしています。
セロトニンが不足すると、ドーパミンやノルアドレナリンのバランスが崩れて攻撃性が高まったり、不安やうつ病などの原因となったりします。
体温維持や睡眠を司るセロトニンは、心身を健全な状態で保つためにとても重要な物質です。
セロトニンを増やすことは、ストレス解消ややる気アップにつながります。
2 「やる気が出ない」は脳が管理している
「やる気」が、脳内の神経伝達物質が大きくかかわっていることがおわかりいただけたことと思います。神経伝達物質は消費すれば働きが鈍くなり、睡眠などによってリサイクルされます。
「やる気」を起こす神経伝達物質は使えば減るということですね。ですから「やる気」には限りがあり、コントロールしなければ大事なところで使えなくなる可能性があるということなのです。
2-1 意識下で管理されている「やる気」
人間の脳は意識下で「やる気」の管理をしています。
「やる気」が過剰になれば躁状態になり、総合失調症や慢性疲労症候群などを引き起こすので、防衛本能が働いて小出しにするわけです。
やる気を出そう、出さなければいけないと思っても簡単にできないのは、この管理システムが働いているからですね。
2-2 管理システムが壊れると起こす病気
脳の「やる気」管理システムが壊れてしまうと神経伝達物質のバランスが崩れてしまい、その状態が続けば病気を引き起こします。
神経伝達物質の分泌量と脳の管理システムの働きという2つの要素の相対関係によって次のような病気が引き起こされます。
3 脳がやる気を出す状態とは
脳の管理システムが「やる気」放出の判断を下すのは、「緊急事態」「社会的意義の高い行為」「達成が確信できる行為」という3つの機会です。
「やる気」の管理は意識下で行われていますが、この3つの機会を意識的に作りだすことができれば、やる気のコントロールが可能になるということですね。
3-1 緊急事態に備える脳
緊急事態とは「火事場のバカ力」を想定していただければいいでしょう。人間の脳が「やる気」を管理しているのは、緊急事態に備えるためでもあるのです。
意識的に緊急事態を作り出せれば「やる気」が起こることになりますが、「緊急事態を作るぞ」という意識が強くなると、脳はそれを緊急事態と判断しなくなってしまいます。
3-2 社会的意義の高い行為
社会の役に立つことをしたり、家族のために働いたりして、承認されたり共感を得たりする行為です。
人間の遺伝子には多くの人類から広く認められるようになりたいと望む「承認欲求」が組み込まれており、それを満たすためにやる気を起こすのです。
3-3 達成が確信できる行為
脳内にドーパミンやノルアドレナリンがスタンバイされていても、管理システムは失敗しそうなことに「やる気」を放出しません。
「やる気」の放出はギャンブルのようなものですから、何度か痛い思いをすると確実なリターンが見込める行為を優先するようになるのです。
必ずドーパミンやノルアドレナリンの分泌が望める睡眠や、セロトニンの分泌が望めるリズム運動などが代表的な行為となります。
4 「やる気が出ない」をなくし、三大神経伝達物質を増やす方法15選
脳が「やる気」を放出する3つの機会を意識的に作り出す方と、「やる気」に必要な三大神経伝達物質を増やす方法を取り混ぜて、具体的な15の方法を紹介しましょう。
①やる気が出ないをなくすには「睡眠」をとる
脳が「やる気」を管理しているのは起きている間です。眠っている間に脳内の神経伝達物質は働きを回復します。
充分な睡眠をとることは健全な心身を保つために必要なことですが、ここでは睡眠を脳へのリターンと考えます。
「この仕事を終えたら眠ることができる」という状態を作りだせば、脳は「やる気」を放出してくれます。脳と、「やる気」を放出してもすぐに回復させるという約束をするようなものですね。
②やる気が出ないをなくすには、毎日「朝日」を浴びる
セロトニンは朝に作られます。朝日を浴びるのがセロトニンをもっとも活性化させる方法です。
太陽の光を浴びるのは30分程度が効果的。あまり長い時間にわたって光刺激を受けるとセロトニンの自己抑制機能が働いていまいます。
毎日朝日を浴びることによって体内時計がリセットされ、質の良い睡眠をとることにも効果があります。
朝起きたら、朝日を部屋いっぱいに取り込んで、それから家の近所を散歩しましょう。
③やる気が出ないをなくすには「適度な運動」をする
マラソンでもジョギングでもそうですが、最初は辛くてもある程度走るとフッと楽になることがあります。
これは、強引にスタートしてまった行為に対して、脳の管理システムが後追いで仕方なく「やる気」を放出し始めた状態と見ることができます。
身体に必要以上の負担をかけ続けることはよくありませんが、ジョギングなどで「やる気」のコントロールを身に着けることはとても意味のあることです。
④やる気が出ないをなくすには朝晩5分の「リズム運動」をする
深呼吸やウォーキング、ストレッチなど単純な動きを繰り返す運動を朝晩に5分ずつ間行います。これもセロトニンを活性化させる効果があります。
効果が高い呼吸法をひとつ紹介しましょう。
息を吸うことから始まる横隔膜呼吸ではなくて、息を吐くことから始まる腹筋呼吸を5分間、ゆっくりと腹筋を意識して行います。この腹筋呼吸法は座禅やヨガにも用いられます。
雨で野外に出られない日は室内で有酸素運動を行ってください。ガムをかむことも租借のリズム運動ですから、セロトニンの活性化に効果があります。
⑤やる気が出ないをなくすには「不安」を直視する
不安は脳が「やる気」を溜め込んで過剰になってしまった状態です。
過剰になったドーパミンやノルアドレナリンを持て余した脳は、心拍数を高めたり、汗をかかせたり、手足を震わせたりして消費しようとします。
ですから過剰になった神経伝達物質をパッと使ってしまえば不安は払拭できます。そのためにはあれこれと考えていないで、とにかく行動を起こすことなのです。
とりあえずは、目の前の道を一歩踏み出してみましょう。
⑥やる気が出ないをなくすには「褒めてくれる人」を探す
脳に社会的意義の高い行為であると知らせるために褒めてくれる人を探しましょう。
「人は褒めて伸ばせ」などと言いますが、褒められて気分を悪くする人は少ないでしょう。共感してくれる人を探すのは、やる気をだすためには有効な方法なのです。
褒めるという行為がなくても、意義を認めてくれる人の存在が重要です。
普段から誰かを励ましたり認めたりすることを意識してみてください。共感を得ることができますし、自分を認めてもらうことにもつながります。
⑦やる気が出ないをなくすには「小さな目標」をいくつも設定する
小分けにした目標をいくつも設定することによって、小さな緊急事態を作り出します。
10ページの企画書を作る仕事であれば、1ぺージごとに細かく締め切り時間を設定します。
ひとつの目標を達成するとすぐに次の締め切りが迫っているという状態を作り出すと、その締め切り効果によって、脳は緊急事態と判断します。
さらに、達成までの時間を正確に見積もることで、達成が確信できる行為であると判断させることもできます。
⑧やる気が出ないをなくすには「1週間の予定表」を作る
1週間の予定表を作ることで、脳が「やる気」放出の予定を組めるようにしてやります。
仕事のスケジュール表を作ることはいろいろな面で効果がありますが、もっとも意味があるのは、やる気を維持することなのです。
脳が神経伝達物質の配分を把握していれば、最後まで「やる気」の管理をしながら放出を続けてくれるでしょう。
そのためにどのような予定表が最適かということは、一概には言えません。いろいろと試して、自分に合ったスタイルを見つけだしてください。
⑨やる気が出ないをなくすには「明るい気持ち」になる
人間の脳は未来のことを考えるときに現状をベースにします。暗い気持ちで考える未来は暗いものとなりがちなのです。
やる気が出ない状態で未来のことを考えても、脳は「やる気」をなかなか放出しません。この悪循環を断ち切るためには、とにかく明るい気持ちになることなのです。
きっかけは「どうにかなるさ」という現実逃避でもいいですし、好きなものを食べる、趣味に没頭するなどなんでもいいので、まずネガティブな状態から抜け出しましょう。
理由や状況はどうあれ、明るい気持ちになって次のことを始めれば脳は「やる気」を放出しやすくなります。
ポジティブシンキングは神経伝達物質を活性化させる効果もあるのです。
⑩やる気が出ないをなくすには「ワクワク」する
ワクワク、ドキドキといった感情は、ドーパミンを増やします。
ただし、ワクワク、ドキドキという感情はあまり長続きしないことが多いものです。早ければ数秒間で消えてしまうこともあります。
これは気分が高揚すると脳が防御態勢を強化するからなんですね。
ですからワクワクしたらすぐに行動することが大切。ワクワクを感じた直後がもっともモチベーションの高い状態だからです。
⑪やる気が出ないをなくすには「ときめく」
異性にときめく感情もドーパミンを増やすといわれています。
片思いでも恋愛をしていれば、相手のことを考えるだけで気持ちは高揚するものですよね。
リアル恋愛ではなくても効果があります。3次元であろうが2次元であろうが関係ありません。
好きなアイドルの写真や動画を見る。
好きなキャラクターのイラストを見る。
そんな簡単なことでもやる気を起こすきっかけになります。
⑫やる気が出ないをなくすには「歌」をうたう
カラオケなどで歌をうたうとドーパミンが分泌されます。
好きな歌を熱唱するのがもっとも効果の高い方法ですが、鼻歌でも、大きな声をだすだけでも効果があります。
「快楽ホルモン」と言われるだけに、普段、気持ちいいと感じるときには脳内でドーパミンが作用しています。
ですから、端的に言うと気持ちいいことをすればいいわけです。好きな音楽、ノレる音楽を聴くだけでもドーパミンは増えるんですね。
⑬やる気が出ないをなくすには「笑う」
「笑い」はドーパミンやセロトニンの分泌を促すばかりでなく、遺物細胞やがん細胞などを攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞というリンパ球を増加させて免疫力を向上させることがわかっています。
「笑う門には福来る」と言いますが、笑うことが心身にもたらす好影響は計り知れないものがあるんですね。
腹の底から笑うことがもっとも心身に良い影響を与えますが、作り笑顔をするだけでも効果があると言われています。
⑭やる気が出ないをなくすには「趣味」に没頭する
もう、これは理由がわかりますね。好きなこと、気持ちいいことに没頭するのですから、ドーパミンやセロトニンが増えます。
「達成が確信できる行為」でもありますね。
何事にもやる気が起きないときに、なんでもいいから一歩動き出すきっかけとして趣味の世界を利用しましょう。
趣味をもつということは大切なことなんですね。
⑮やる気が出ないをなくすには食事で「原料」を摂取する
必須アミノ酸が神経伝達物質の原料となりますから、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品など必須アミノ酸を多く含む食材をバランスよくとりましょう。
神経細胞間で神経伝達物質の受け渡しが行われるときに、受容体がある膜を柔らかくして情報伝達をスムーズにするのがオメガ3やオメガ6の脂肪酸です。
とくに青魚、えごま油、亜麻仁油、シソ油などに含まれるオメガ3は、生活習慣病予防にも高い効果を発揮するので意識的に摂取しましょう。
血糖値の急なアップダウンが起こると、下がった血糖値を上げるためにノルアドレナリンが過剰に分泌され、それを緩和するためにセロトニンが消費されます。
血糖値を急上昇させる白砂糖は避けてブラウンシュガーを常用し、神経伝達物質の無駄遣いを防ぎましょう。食事の最初に野菜を食べることも血糖値の急上昇を防ぎます。
まとめ 「やる気が出ない」は簡単な方法から対処していく
ここで解説してきた「やる気が出ないときの対処法」とは、自分の脳内で起きていることをコントロールしようとするものです。意識下で行われていることを意識的にコントロールすると聞けば、不可能なことのように思えますよね。
ところが、科学的な発想で「やる気」を分析すると、ここで紹介したような簡単な方法で対処できるケースも多いのです。あなたにも、気楽に一歩踏み出す方法がきっと見つかるはずです。
【参考資料】
『一瞬でやる気がでる脳のつくり方』(ソーテック社・2007年)
『「やる気」が出るコツ、続くコツ』(ダイヤモンド社・2010年)
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