2019年に施行され始めた働き方改革や近年のIT技術の急速な発展により、様々な企業がBPRに注目しはじめています。
しかし、BPRには目的に応じた様々な手法が存在するため、まずは概念や導入時の注意点を把握し、企業ごとに合ったものを選択することが必要です。
当記事ではBPRの意味や目的、導入時の流れや具体的な手法などを解説していきます。
BPRとは
BPRとは「Business Process Re-engineering」の略語で、名前の通り業務上のプロセスを再構築することを意味します。
業務改革とも呼ばれ、企業の今後の経営戦略を成し遂げるために企業方針や組織の構造、業務フローなどを改革することを指し、現代に合ったビジネスをしやすくするために本格的に取り組んでいる企業も多いです。
業務改善との違い
BPR(業務改革)に類似した言葉に業務改善というものがありますが、2つの言葉は影響を及ぼす範囲が大きく異なります。
業務改善は業務の一部分のみを最適化することであり、現状の業務プロセスに合わせて改善していくのが特徴です。
対して、BPRは業務プロセス全体を全く新しいものに改革することを意味します。
企業が業務を行う上でのシステムから見直し、戦略に合わせた戦術を行えるように整えるのがBPRなのです。
具体的には、業務改善では業務に関わる人材や設備、IT技術などを対象に、必要なものの導入やスリム化を行うことで、業務の最適化を目指します。
BPRは商材自体の製造方法や管理方法、組織図や人事制度などを大きく変更し、今後顧客に求められるであろうビジネス志向に向けて、業務プロセス全体を改革することになります。

BPRの目的と注目された背景
BPRという言葉が生まれたのは1990年初頭で、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士によって提唱されました。
マイケル・ハマー博士によると、BPRの目的は既存の業務プロセスを抜本的に改革し、コストや品質、サービスなどの改善することとされています。
元々は当時長期不況に陥っていたアメリカで経営が立ち行かなくなる企業が増えていたのがきっかけで提唱されたものであり、業績の悪い企業が不況に合わせて経営をスリム化するために用いられました。
日本で最初に注目され始めたのは同時期に発生したバブル崩壊がきっかけで、同じく業務改革が必要な企業が増加したことが要因となり、BPRブームが発生しています。
しかし、当時のBPRはリストラによる経営コストの削減を中心に施策が行われたこともあり、大きな成果を出すことはできませんでした。
近年は働き方改革の施行やIT技術の急速な発展などにより、再度BPRの必要性が叫ばれ始めています。
先進的な企業に遅れを取らないためにも、まずはERPシステムの導入などにより業務プロセスに課題がないか検証してみるのが良いでしょう。

BPRを行うメリット
BPRを行うメリットは以下の通りです。

BPRは業務プロセス自体を大きく変更してしまうため、施策直後は従業員に大きな負担を与えることになります。
しかし、新しくなった業務プロセスに組織全体が慣れてしまえば、様々な恩恵をおけることが可能です。
詳しく見ていきましょう。
業務プロセスの改造による業務効率化が望める
BPRの最大のメリットは、業務プロセスの見直しに改造による業務効率化です。
近年はITツールやAIの発達により、人的リソースや時間的なコストを効率化できるようになりました。
しかし、表面的に上記のような技術を業務に取り入れても最大限活かすことができません。
IT技術の利点を最大限活用するためには、ITありきの業務プロセスを組む必要があります。
BPRによってIT技術の活用を前提とした業務プロセスに改革することで、今後の産業の変化にもある程度対応できるような生産性の高い企業に生まれかわることが可能です。
今後ITによってさらに効率化されていく世界に乗り遅れないためにも、現代に合わせて業務改革を検討してみるのも良いでしょう。
組織構造や生産体制を最適化できる
BPRを行えば、組織構造や生産体制を最適化することができます。
BPRは各部署の連携方法や組織構造など、組織の根幹に当たる部分を改革していくので、表面的な部分のみを改善していく業務改善以上に効果的な業務効率化を図ることが可能です。
例えば、生産ラインにAIを利用した設備を導入することで必要となる人的リソースを減らしたり、階層が深くなっている組織構造を簡略化することで意思決定のスピードを改善するなどの施策をとることができます。
しかし、業務プロセスの根本的な改革は、従業員が新しい業務フローに慣れるまでは体制が混乱する可能性がある他、人的リソースに関わる改革を行うことで従業員を減らすことになると、従業員から反感を買う恐れもあるでしょう。
よって、BPRは改革後の余波をある程度視野に入れて行う必要があります。
業務の効率化によって従業員の負担が減る
前述の通り、BPRを行うと業務フローが大きく変わるため、改革直後は従業員に負担を強いる可能性があります。
しかし、施策自体が成功していれば業務効率が大きく改善されているはずなので、新しい業務フローに慣れれば従業員の負担が減り、満足度が高くなる可能性が高いです。
また、業務効率化により残業の低減が期待できるので、企業としても残業費や光熱費の削減などの大きなメリットがあります。
BPR導入の流れ
BPRを行う際の具体的な流れは以下の通りです。

目的の設定や課題点の洗い出し、改善策の立案など、施策を行う際の基本をしっかりと行うことが重要になります。
BPRを行う目的を設定する
まずはなぜBPRを行うのか、目的を明確化します。
目的設定を行う際に重要なのが、あくまで顧客志向で再編することを意識することです。
BPRは業務改善と違い、目的によっては商材やサービスにまで手を加えることになります。
よって、顧客を主体にした考え方ができていないと、BPRを行っても思うような成果が得られない可能性があるのです。
組織改革をするにしても生産体制を変えるにしても、現在抱えている顧客と今後取引を行うことになる顧客のことを考え、顧客の満足度が上がるような目的設定をすることが、BPRを成功させるポイントといえるでしょう。
また、目標設定とともに改革する業務の範囲を設定することも重要です。
改革する事業領域が定まっていないと、不必要な部分にも手を加えてしまう可能性があり、逆に業務効率が悪化してしまう恐れがあります。
BPRの成果を大きくするためにも、目的と改革する業務範囲の設定をしっかりと行うようにしましょう。
現状を把握して組織が抱える課題点などを分析する
目的設定が完了したら、現状の業務プロセスを細かく分析し、課題点を洗い出しましょう。
まずは顧客満足度が最大となるような業務プロセスを策定します。理想的な業務プロセスを作成する際には、IT技術の積極的な導入など先進的な施策を行っている企業や、自社よりも業績の良い競合他社を参考にするのがおすすめです。
理想的な業務プロセスが策定できたら、現状の業務プロセスを細かく可視化していきます。
業務プロセスの可視化によって知りたい情報は以下のようなものです。
業務の一覧
業務フロー
売上高や販売個数などを重要度
業務の工数や頻度
業務のQCD
上記のような情報が可視化できたら、先に策定しておいた理想的な業務プロセスを比較し、改革したい業務範囲の中で大きく差がある部分を洗い出します。
洗い出しが完了したら、戦略立案に移ります。
業務改革の戦略を立案し実施する
課題点の洗い出しが終わったら、具体的な戦略を立案していきます。
戦略の立案では業務プロセスの設計はもちろんですが、導入の方法をしっかりと計画しなければいけません。
導入までに企業の業務プロセスが大きく混乱しないよう、導入の段階や導入完了時期などを細かく計画していく必要があります。
また、アウトソーシングなど外部機関を利用する体制に改革する場合はシミュレーションなども行いつつ、業務プロセスの移行計画を慎重に計画することが重要です。
戦略の立案が完了したら小さなテストを繰り返しつつ、少しづつ導入を実施していきます。
導入は一気に行うと不具合が生じた際に元に戻すのが困難になってしまうので、慎重に行うようにしましょう。
業務改革後のデータを収集し効果測定をする
業務改革の実施が始まったら経過観察を行いつつデータを収集し、効果測定を行いましょう。
従業員の満足度や顧客の評価、生産性の変化などをもとにBPRの成果を確認し、新たに課題が出たら原因を究明し、改善していきます。
効果測定は短期で行ってもあまり意味がないので、データの変遷も確認しつつ、大きく変化が起こるスパンを見極めて期間を設定すると良いでしょう。
BPRで用いられる主な手法
BPRを行う際に用いられる具体的な技法には以下のようなものがあります。

詳しく見ていきましょう。
ERPシステムの導入
ERPシステムとは統合基幹業務システムのことであり、会社の経営資源を包括的に管理できるシステムのことを指します。
財務会計や各部署の予算、人材や在庫などをデータで管理することができるため、BPRを行う上で業務フローの可視化する際に活用されることが多いです。
BPRを行う上で必須とも呼べるシステムであり、近年ではSaaSの発展も手伝って導入が容易になっていることもあり、積極的に利用している企業も増えています。
アウトソーシング
アウトソーシングとは、業務の一部を外部に委託することで、業務の効率化を図る手法です。
人的リソースを他の業務に集中させたい場合や、人的コストを削減したい場合に活用されることが多く、IT分野を中心に導入している企業も少なくありません。
また、業務委託する業者は原則各分野の専門家になるため、アウトソーシングを活用することで業務の質をさらに向上できる場合もあります。
外部機関の選定や委託する業務内容の選定、業務レベルの共有など、導入にはある程度時間がかかりますが、人材の使い方で課題を抱えている企業では検討する価値のある手法といえるでしょう。
BPO
BPOはアウトソーシングの1つで、企業の中核を担う業務以外を外部にすべて業務委託することで、組織の人材を中核事業に一点集中させる手法です。
一般的には経理や人事などの総務部門に当たる業務や、テレアポなどの人的リソースが多く必要となる業務に対して活用されます。
非中核業務を外部に委託することで、委託した業務に割いていた人的リソースを中核業務の強化に活用できるので、グローバル化やIT技術への対応など、改善に時間のかかる課題にも余裕を持って対応することが可能です。
また、アウトソーシングの例に漏れず、委託する業者は各業務の専門家になるので、作業が迅速になり生産性が上がることも期待できます。
業務の移行は慎重に行う必要がありますが、導入する価値のある手法といえるでしょう。
シェアードサービスの導入
シェアードサービスとは、グループ企業内の事務作業やコールセンターなどの業務を同グループの企業に集約することで、グループ全体の業務効率化を図る手法です。
BPOをはじめとしたアウトソーシングとは違い、あくまでグループ内の業務を集約するため、情報が不要に外部に流れる心配がない他、グループ内で打ち合わせれば業務フローを一元化することができるため、より効率的に業務をこなすことができます。
ナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントとは、部署ごとに持っている知識やノウハウなどをを組織全体に共有し、垣根を超えて活用することで生産性の向上を目指す手法です。
従来の日本の企業体制では、特定の部署同士や個人間などで情報共有を行うことはあっても、組織全体に対して大々的に情報を共有することはほとんどありません。
結果的に、自分の部署では不必要で他部署にとって必要な情報などが合ったとしても、共有されることなく終わってしまうことが多いです。
ナレッジマネジメントでは上記のように情報が埋もれてしまうことがないため、組織に内在するノウハウや知識を最大限に活かすことができます。
終身雇用の崩壊が叫ばれる昨今は特に人材の流入が激しくなっているため、知識やノウハウを持っている人材が組織を離れてしまう前に有益な情報を手に入れるためにも重要視されている手法です。
サプライチェーン・マネジメント
サプライチェーン・マネジメントとは、商材の生産から顧客に届くまでの流れをマネジメントする手法です。
部署間や企業間の区分を取り払って業務効率化を考えるのが特徴で、外部の業者の業務に関してもメスを入れて業務を最適化していきます。
例えば、化学製品を製造しているBtoB企業であれば、原料を調達する企業から商品を顧客に届ける企業までをツール等で連携させることで、在庫の最適化や物流コストの低減などを実現することが可能です。
他企業の業務にも切り込むため導入には時間を要しますが、実現できれば大きな成果が期待できる手法になります。
シックスシグマの導入
シックスシグマとは統計学を用いて業務改善を行っていく手法です。
顧客の意見をもとに商材に関する課題点を抽出し、トップダウン式に改善を行っていきます。
顧客満足度をもとにした業務改革を行うことができるため、BPRの手法の中では特に顧客評価の向上が期待できる手法といえるでしょう。
基本的には、統計学を用いて業務上のミスやエラーをデータ化し、原因を是正することで業務改革を行っていくことになります。
例えば、オンラインショップで商品を注文してから商品が配送されるまでの日数をテーマにする場合、着目することになるのは実際にかかっている日数と顧客が満足する日数です。
もし顧客が満足する日数が5日以内だった場合、シックスシグマの考え方では6日以上かかったケースをエラーと見なします。
シックスシグマは上記の条件で100万回注文受けた際に、エラーの数を減らしていくことを目的に業務改革を行う手法です。
データ収集をしやすいBtoC企業では特に効力を発揮する手法といえるでしょう。
まとめ:BPRを進める際にはまず既存の手法を検討してみよう
BPRの目的や導入のメリット、具体的な手法などを解説してきました。
BPRは今後先進的な施策を行っている競合他社に対抗するためにも重要です。
まずはBPRがコストをかけてでもBPRを行う必要があるかを検証するために、業務プロセスノの可視化に少しずつ力を入れてみると良いでしょう。
BPRの具体的な手法に関しては、事業の種類や改革の目的、改革する業務範囲などによって大きく異なるため、実施の検討段階から企業ごとに合っている手法をしっかりと吟味してみてください。