15分で理解する「うつ」の実態-発症のしくみと最先端の治療法

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「うつ」や「うつ病」になる人が増えていて、自分は大丈夫だろうかと心配になりますよね。

厚生労働省は2011年に重点的に対策すべき「5疾病」として、「がん」「脳卒中」「心血管疾患」「糖尿病」「精神疾患」を指定し、新しい医療計画を進めてきました。

このひとつ、精神疾患の中でもっとも現代社会の問題となっている病気が「うつ病」です。
厚生労働省の患者調査では、うつ病の受診者数は、1999年には44万人だったものが2014年には111万人を超えたといいます。

うつ病であるのに受診していない人は、その数倍に及ぶといわれ、10人にひとりが一生のうちに一度は発症するものと考えられているくらい、うつ病の実態は深刻化しているのです。

ここでは、最新の情報に基づいてうつ病が発症するしくみや、その症状と診断、最先端の治療法の実態を紹介します。

目次

1. うつ病が発症するしくみ
1-1. 2種類に分かれる気分障害
1-2. ストレス反応で分泌されるストレスホルモン
1-3. ストレスホルモンが脳に与えるダメージ
1-4. 遺伝よりも環境による影響が大きい
1-5. 従来のうつ病とは違う「新型うつ」

2. うつの症状と診断
2-1. 生活習慣におけるサイン
2-2. 仕事におけるサイン
2-3. 精神に現れる症状
2-4. 身体に現れる症状
2-5. 年齢や性別による特徴
2-5-1. 学童のうつ
2-5-2. 働き盛りのうつ
2-5-3. 老年期のうつ
2-5-4. 女性特有のうつ

3. 最先端の治療法
3-1. 「抗うつ薬」で神経の情報伝達を改善
3-2. 考え方を調整する「認知行動療法」
3-3. 悩みから離れる「マインドフルネス」
3-4. 注目されている「磁気刺激治療」
3-5. 重度のうつ病に効果がある「通電療法」

まとめ

1. うつ病が発症するしくみ

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「うつ」とは、日常的に憂うつな気分を意味し、挫折、心配、不安、失敗、ねたみなどが、要因となっています。
「抑うつ」も同じ意味で使われる言葉です。

「うつ」が強い状態になり、日常生活や人との接触に大きな影響が出るようになると、「うつ病」と診断されることになります。

「うつ病」は、「うつ」という精神の症状が悪化して身体的な症状にまで及ぶ、精神障害のひとつなのです。

1-1. 2種類に分かれる気分障害

「うつ」の気分が2週間以上続き、さらに身体を動かすことが面倒に思え、不安や気力の減退などが表れて社会生活に支障をきたすようになると「うつ病」と診断されます。
この病気は、医学的には「大うつ病」と呼ばれるもの。

うつ病は、精神障害の一種である「気分障害」という病気のひとつに分類されます。
気分障害は、「うつ病」と「躁うつ病」に大別され、うつ病には気分が落ち込む「うつ状態」だけが表れるのに対し、躁うつ病は、うつ状態と、気分が過度に高揚する「躁状態」の両方が表れます。

うつ病は、「中年の病気」と思われていた時代もありましたが、学童から老年期まで、どの世代でも起こることがわかっており、その要因となるのが、「環境の変化によるストレス」だということが解明されています。

1-2. ストレス反応で分泌されるストレスホルモン

人間の身体は、ストレスを受けると、ストレスの原因から身を守るために防御反応を起こします。

ストレスを感じると、自律神経やホルモンの分泌をコントロールしている脳の「視床下部」という部位から「CRH(コルチコトロピン遊離促進ホルモン)」というホルモンが分泌されます。

このホルモンが分泌されると、その情報は脳の「下垂体」から血液を介して腎臓の上にある「副腎皮質」へと伝達され、この情報を受け取った副腎皮質は「コルチゾール」と呼ばれるホルモンを分泌。

コルチゾールは全身を巡って血糖値や血圧を上げたり、免疫反応を抑えて炎症を鎮めたりして、身体がストレスに立ち向かえるようにします。
そのため、コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれています。

1-3. ストレスホルモンが脳に与えるダメージ

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ストレスホルモン「コルチゾール」は、視床下部や下垂体にも働くのでCRHの分泌を抑え、その作用によって体内のコルチゾールが減少するので、身体は元の状態に戻ります。

ところが、強いストレスが続くと、コルチゾールが分泌され続け、これがうつ病の直接の原因となります。

最新の研究データによると、コルチゾールの過剰な分泌によって、脳で記憶を司る「海馬」のニューロン(神経細胞)が壊されることが明らかになっています。
ストレスを受けると記憶力が低下するのは、このため。
この状態が続くと、海馬は委縮していきます。

ニューロンがダメージを受けると、精神を安定させるセロトニンや、意欲をもたらすドーパミンといった神経伝達物質の機能が低下することもわかっており、さらにストレスは、喜怒哀楽 の感情を司る「扁桃体」の働きを高めて、不安や恐怖、悲しみ、怒りを強調してしまうのです。

1-4. 遺伝よりも環境による影響が大きい

国立精神・神経医療研究センターでは、兄弟や近親者にうつ病の人がいると、うつ病の発症率は1.5~3倍になるというデータがあるといいます。

しかし、確実にうつ病の発症に影響を与える遺伝子は発見されておらず、遺伝に要因があることを説明できる部分も限られているため、遺伝子の関与よりも環境要因のほうが大きいと考えられているのが現状です。

一方で「躁うつ病」にかんしては、遺伝の影響が大きく、一卵性双生児では80%もの発症一致率があったことも報告されています。

1-5. 従来のうつ病とは違う「新型うつ」

最近は、従来のうつ病とは違う「新型うつ」という症状を示す人が増えているといいます。

「新型うつ」は、従来のうつ病と同じように「抑うつ」気分が続くものの、買い物や趣味といった自分の好きなことに対しては意欲がわくという状態が特徴。

不眠や食欲低下といったうつ病の典型的な症状を示さないので、今まではうつ病と診断されなかったのですが、最近は患者数が急増しているため「非定型うつ病」という病名で診断されるケースが多くなっています。

新型うつに対しては、抗うつ剤などがあまり効かず、「躁うつ病」に用いられる気分安定薬の方が効果があるという報告もありますが、精神医療に携わる専門家の間でも、まだ見解が分かれているといわれます。

 

2. うつの症状と診断

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うつ病の症状は年齢層や性別、環境によって様々なものがあり、「うつ症状」が現れる病気には、うつ病以外にも「気分変調症」や「重篤気分調節症」「月経前不快気分障害」といった抑うつ障害もあります。

適切な診断をするためには、個人が置かれている状況や経緯、性格的な問題などを総合的に診なければいけません。

2-1. 生活習慣におけるサイン

生活習慣に現れるうつ病のサインには、次のようなものがあります。

・ 顔つきが暗くて元気がない
・ 口数が減ってタメ息が多い
・ 服装などの外見を気にしなくなる
・ 食欲がなくなるのにアルコール摂取量が増える
・ 否定的な発言が増える
・ 毎日やっていたことをやらなくなる

2-2. 仕事におけるサイン

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一方、仕事に現れるうつ病のサインには、次のようなものがあります。

・ 作業効率が落ちて残業が多くなる
・ 判断力が低下する
・ 遅刻や欠勤が増える
・ 仕事を自分ひとりで抱え込むようになる

2-3. 精神に現れる症状

精神に現れるうつ病の症状には、次のようなものがあります。

・ 憂うつな気分が続き、何に対しても興味や関心がなくなる
・ 必要以上に劣等感や罪悪感を抱くようになる
・ 思考力や集中力、決断力や判断力が低下する
・ 上記の症状によって、日常生活に支障をきたす

2-4. 身体に現れる症状

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身体に現れるうつ病の症状には、次のようなものがあります。

 

・ 食欲低下や食欲亢進(拒食や過食)
・ 不眠や過眠
・ 頭痛、肩こり、腰痛
・ 動悸やめまい、全身の倦怠感
・ 嘔吐や便秘

2-5. 年齢や性別による特徴

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2-5-1. 学童のうつ

いじめや孤立が原因で学校生活がうまく送れなくなり、不登校、引きこもりになるケースが多くみられます。

また、過激な受験活動を終えた後に、「燃え尽き症候群」を起こして発症するケースもあります。

2-5-2. 働き盛りのうつ

従来、もっとも多かったのがこの年齢層で、就職や転職の失敗、リストラといったわかりやすい要因だけでなく、仕事の内容や役職が変わって環境の変化に対応できず、発症することもあります。

「昇進」という、他人から見るとポジティブな環境の変化で、うつ病を発症することも珍しくありません。

うつ病を原因とする過労死や自殺が増えたため、2015年12月から、従業員50人以上の事業所ではストレスチェックが義務付けられました。

2-5-3. 老年期のうつ

近年、高齢化社会の中で増えているのが、高齢層のうつ病です。
定年退職による生き甲斐の喪失や、配偶者の病気や死亡がきっかけとなって発症するケースが多くなっています。

脳梗塞や認知症などでも、うつ病と同じような症状を示すことが多いので、老年期うつ病を見分けるのは難しいといわれます。

2-5-4. 女性特有のうつ

結婚や出産は、他人から見れば幸せそうな環境の変化ですが、家事、姑問題など家庭内で続くストレスや身体の大きな負担が原因で、うつ病を発症することがあります。

子育てに過度な責任を感じることで発症する「産後うつ」や、仕事と家庭を両立させようと頑張ることで発症してしまうケースもあります。

 

3. 最先端の治療法

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うつ病が社会的問題になりはじめると、「うつ病はこころの風邪。早く薬をのんで休養をとりましょう」という啓発活動が行われました。

その結果、安易に薬で治そうと考える患者が増えてしまい、その前に考えなければいけない心の問題を軽視する傾向があると、厚生労働省は勧告しています。

現在は、2週間にわたって抑うつの症状が続き、それが身体疾患によるものではなく、さらに薬物乱用や投薬によるものではない場合に、抗うつ薬療法を検討するというのが一般的な薬物療法の考え方になっています。

抗うつ薬治療に加え、心の問題解決を目指す治療法、電気的なショックを与える治療法など、うつ病治療の最先端を紹介しましょう。

3-1. 「抗うつ薬」で神経の情報伝達を改善

ニューロン(神経細胞)とニューロンは直接つながっているわけではなく、それぞれの間には「シナプス間隔」と呼ばれるすき間があります。

脳の視床下部からニューロンを伝わってきた電気信号がこのシナプスに届くと、セロトニンなどの神経伝達物質が放出されてシナプス間隔を越え、次のニューロンでは受容体と呼ばれるタンパク質にくっつくことにより、情報が伝えられていきます。

シナプス間隔に放出されたセロトニンは、分解されるか、「セロトニントランスポーター」という通路を通ってもとのニューロンに回収されます。

うつ病を発症すると、シナプス間隔に放出されるセロトニンの量が少なくなるので、ニューロンの情報伝達が十分にできなくなるのです。

そこで、セロトニントランスポーターにフタをしてしまい、シナプス間隔にセロトニンが回収されないようにして、シナプス間隔のセロトニンを増やすのが、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」。

セロトニンの量が増えると、ニューロンでは「脳由来神経栄養因子(BDNF)」というタンパク質の分泌量も増え、ニューロンの成長を促すことも、うつ病の改善につながります。

SSRIを服用すると、数時間でシナプス間隔のセロトニンを増やすことができますが、抑うつ状態を改善するためには、少なくても数週間の服用を続けなければいけません。
多くの場合、数か月から1年間は服用を続けることになります。

3-2. 考え方を調整する「認知行動療法」

多くのうつ病患者には、自分の失敗を過剰にとらえるマイナス思考や拡大解釈、物事を二極化して考えてしまう白黒思考、完璧主義といった、思考法の偏りがみられます。

マイナス思考や悲観的な考え方が、さらにネガティブな考えを生むという、悪循環に陥っているケースが多いのです。

こうした患者が、自然と浮かんでしまうネガティブ思考に歯止めをかけて、現実的な考え方ができるようにと導くのが、「認知行動療法」です。

強くストレスを感じた状況や場面を特定して、そのときの考えや感情、行動、身体的変化を書き出し、その考えが思い込みでないか再検討する「認知再構成」が知られています。

そのほかに、避けていることに少しずつ行動することで慣れるようにする「曝露療法」や、悩みを細かく分けて具体的にたくさん挙げ、それぞれの長所と短所を考えながらベストな立ち向かい方を見つける「問題解決療法」などがあります。

また、腹式呼吸による深呼吸や、意識的に筋肉をゆるめることで緊張を緩和する「リラクゼーション」は、身体変化に対する治療として用いられます。

3-3. 悩みから離れる「マインドフルネス」

Googleなどの巨大IT企業が、従業員のストレス軽減や創造性の向上を目指して導入している「マインドフルネス」も、認知行動療法のひとつとされます。

マインドフルネスは、呼吸法や瞑想によって、今の瞬間に意識を集中させることにより、自分を縛っている思い込みやこだわりから一度離れ、客観的になる手法。

マイナスの要素を抑え込むのではなく、たんたんとありのままを受け入れることによって、自分の中でネガティブな感情が連鎖し、やがて断ち切ることができるのだと考えられています。

3-4. 注目されている「磁気刺激治療」

近年、磁気を用いたうつ病の治療「磁気刺激治療(TMS)」が、注目されています。

これは、喜怒哀楽を司る脳の扁桃体の働きを調整する「背外側前頭前野(DLPFC)」に、磁気発生装置で強い磁場の変化を与えることで活性化させ、扁桃体の活動を抑えるもの。

磁気刺激治療でも、SSRIと同じように「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の増量が確認されています。

さらに、磁気刺激治療はうつ病だけでなく、頭痛や脳梗塞にも効果があるとされ、背外側前頭前野にピンポイントで磁気を照射するので、薬物療法のような全身に影響を及ぼす副作用が現れにくいというメリットも。

磁気刺激治療は、薬物療法や認知行動療法にとって代わるものではありませんが、抗うつ薬の投与を最小限に抑えることが可能になります。

3-5. 重度のうつ病に効果がある「通電療法」

患者の頭部に電極を取り付けて100ボルト前後の電圧をかけ、脳内の特定の部位に電流を流すのが、「通電療法」または「電気けいれん療法」と呼ばれるものです。

通常は10秒以内の電流を流すことによって、ニューロンを活性化させます。
通電療法は、抗うつ薬が登場する以前から行われていましたが、安全性の問題がありました。

しかし近年は装置の進歩によって安全性が確立され、うつ病治療の重要な選択肢のひとつとなっています。

抗うつ薬が効かない重度のうつ病に対しても効果が認められているので、自殺の危険性が高いと判断されたときなどに行われるケースが多くなっています。

 

まとめ

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「うつ」と「うつ病」の実態について解説してきました。
うつ病を発症する人は、ストレスを受けやすいという特徴があります。

うつの傾向がある人が、うつ病を予防をするためには、まず自分がストレスを受けやすいことを自覚し、気分転換の方法を見つけることが大事。

ストレス反応を起こす脳に、プラスの刺激を与えてストレスの原因を忘れてしまうのが、一番の気分転換です。

心地よいこと、楽しいこと、美味しいものなど、好きなことや気持ちいいことを日頃からひとつでも多く見つけることが、うつ病の最大の予防策なのです。

 

 

【参考資料】
・『ニュートン別冊 現代人をむしばむ五つの大病』 ニュートンプレス 2018年
・『新版 入門 うつ病のことがよくわかる本』 野村総一郎 監修 講談社 2018年
厚生労働省web site

 

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