どんな形態であれ、会社設立の際には定款の作成が必要になります。認証の有無に違いはあれど、株式会社でも合同会社でも定款を作成します。
定款作成の際には、記載すべき事項が決まっています。その中でも会社の目的、つまり、どのような事業を行っていくのかというのは、決まってはいるものの、しっかりと分かりやすくまとめるのは難しかったりします。
定款に記載の目的を変更する際には費用が発生します。はじめはなるべく変更が発生しないようにしたいものですよね。
定款作成の際に必要となる事業の目的を決めるための役立つ情報をご紹介していきたいと思います。
目的
1 定款に目的を記載する理由は?
2 定款に記載する目的と登記簿謄本の関係
2-1 登記簿謄本の提出が必要な場合
2-2 登記簿謄本と定款の目的からチェックすること
3 定款の事業目的を決める際のポイントとは
3-1 適法であること
3-2 営利的であること
3-3 明確であること
3-4 具体性があること
4 定款の事業目的を決める際に押さえておきたい実質的なポイント
4-1 事業展開の将来性を見据える
4-2 数は多ければ良いというわけではない
5 定款を作る
5-1 定款の作成から認証までの流れ
5-2 定款の構成
5-3 定款を変更するときに必要な手続き
6 電子定款でコスト削減
6-1 電子定款作成の流れ
6-2 本当にお得? 実は節約出来ていない可能性も
まとめ
1 定款に目的を記載する理由は?
定款を作るときに必要になる事業目的。なぜ記載の必要があるのでしょうか? その理由は、取引の安定性を保証するためです。民放43条によると、会社は、会社法において、定款記載の事業の目的の範囲内で行う法律行為についてのみ、権利能力を有することとされています。
会社を設立しましたと言われても、会社の存在は目に見えるものではありません。会社の事務所、会社のメンバーは目に見えますが、会社が何をしているということ、なぜその会社があるのかというのは、見た目には分かりません。会社の存在を確認できるものは、登記簿ということになるでしょう。
しかし、その登記簿も、よくよく見てみれば、会社の存在を記録しているもの、つまり、データでしかないのです。定款に記載される事業の目的は、登記簿に記録されます。つまり、連動しているのです。
登記簿のコピー、登記簿謄本を見れば、会社の実態が分かる、確認できるということになりますよね。その登記簿に書かれている事業目的を見れば、その会社についての実態を確認することができるわけです。
登記簿謄本は、誰でも入手・閲覧可能です。新規取引先となる会社の情報をきちんとした形でチェックしたいときに有効な書類です。
2 定款に記載する目的と登記簿謄本の関係
登記簿謄本に記載されている事業目的で、取引前に取引相手についての情報を入手できることは安心にも繋がります。
このように説明すると、定款の事業の目的は、登記簿謄本に載せるためのものと思ってしまうかもしれません。しかし、定款の事業の目的というのは、それ以外にも重要な役割を果たしているのです。
2-1 登記簿謄本の提出が必要な場合
会社設立をして、事業がスタートすると、さまざまな場面で登記簿謄本の提出を求められます。例を挙げてみると・・・
■銀行から借入をするとき
■大口の取引先との取引開始時
■許認可、事業免許取得などの手続きをするとき
■補助金や助成金の申請をするとき
などです。かなり重要なシーンで必要になってくるということが分かります。
2-2 登記簿謄本と定款の目的からチェックすること
登記簿謄本の提出を求められたとき、相手側はどの部分をチェックしているのか、気になりますよね。こういった場合、ある程度見るところというのは決まっています。
■誰が会社を経営しているのかの確認
■何をしている会社なのかという事業内容の確認
定款に記載する「何をしている会社なのか」という事業内容の確認は、とても大切です。
もし登記簿謄本に記載されている事業目的が分かりづらかったとしたら、一気にその会社に興味への興味はなくなりませんか?もし、あらゆる可能性を考慮してからなのか、事業目的に溢れた登記簿謄本だったとしたら、「怪しい」と思ってしまいませんか?その感覚が大切なのです。その感覚さえあれば、事業目的を間違った形で作成しないでしょう。
さて、提出した登記簿謄本を実際にチェックする人はどんな人でしょうか?
■取引先の総務部の職員や、信用調査会社の職員
■補助金や許認可を出す役所の職員
イメージとしてどんな人たちでしょう。会社の情報をしっかりとチェックする人たちですよね。事務的で保守的、そんなイメージもあります。見る人の立場に立って作るというのもひとつの方法です。マイナスイメージに働く要素はすべて排除して、さらっと審査に通るような事業目的を記載するというのもひとつの方法です。
あらゆる可能性を考慮して、また変更手続きをしたくない、その費用を払いたくないという気持ちだけで、とにかくたくさんの事業目的を記載してしまったら・・・、変更費用として必要な登録免許税30,000円以上のマイナスイメージを背負ってしまう可能性があります。
定款に記載する事業目的は、的確に厳選されたものに絞るように心がけてください。
3 定款の事業目的を決める際のポイントとは
さて、定款に記載する事業目的がどこでどのような形で見られるのか、影響するのかというところが見えてきたところで、実際に定款に記載する事業目的を決める際のポイントをみていきましょう。
3-1 適法であること
事業の目的として登記ができるものは、当たり前ですが、違法性のないものです。違法性のあるもの、公序良俗に違反したものは事業の目的として登記することは不可能です。
会社法という法律があることからも、当然のことなのですが、会社を設立する目的を考えたときには「適法性」は押さえるべきポイントです。
3-2 営利的であること
なぜ会社を立ち上げるのか。それは、事業を行い利益を得たいからです。
営利性のない事業目的を登記することはできません。もし、営利を追求しないのであれば、NPO(非営利活動法人)を設立することをおすすめします。
3-3 明確であること
事業の目的は、誰が見ても分かる内容であることはとても重要なポイントです。登記する際に、業種を記載しておけばOKと思っている人もいるかもしれません。
しかし、業種だけで会社の内容は分からないですよね。行っている事業の内容がパッと思い浮かぶように、明確に記載することが大切です。
3-4 具体性があること
イメージが湧きやすい、分かりやすいことも大切ですが、具体性がないと、説得力にかけます。例えば、業種だけ記載すると、見た目はこんな感じになります。
「サービス業」
「販売業」
確かに、イメージとしてはふんわりですがカテゴリ分けは出来ますよね。でも、そこで何を作っているの? という質問が次に浮かびます。このように記載されていたらどうでしょうか。
「イベント会場における商品・サービスの代行」
「施設で利用する家具の販売」
業種と製品、またはサービス名が入ることでグッと具体性が出てきます。ポイントは、「○○○○で使用する(に関する)▲▲▲▲の提供」といった形にすることです。よりイメージが湧きやすくなることが重要です。
4 定款の事業目的を決める際に押さえておきたい実質的なポイント
定款の事業目的を決める際には、3章で述べたように、こんなケースに必要だからという理由を考える必要があります。ここからは少し実質的な話にフォーカスしていきます。
4-1 事業展開の将来性を見据える
現在は行っていないけれど、将来的に行う可能性がある事業目的を記載すること、これは特に違和感を感じるものではありません。事業を展開していけば、将来的に派生する事業が出てくるのは当然のことです。
将来の事業展開の可能性があるもの、もし必要になったらやっても良いと考えているもののなどは、あらかじめ入れておいてもまったく問題がありません。
もし、その記載について、登記簿謄本を見た人が質問をしてきたら、可能性をきちんと説明できるとプラスの印象を与えることもあります。将来を見据えて事業に取り組んでいると。
記載の際に違和感を感じさせないために、事業内容の前に「現在行っている事業に関連する」と前書きを付け加えるだけで、既存の事業との関連性があるように見えるので、テクニックのひとつとして覚えておくと良いでしょう。
4-2 数は多ければ良いというわけではない
定款に記載する目的をあらゆる可能性を考慮してとにかく数多く書くこと、これは避けるのが良いということはよくわかったという方も多いでしょう。いろいろ述べてきましたが、基本的には実際に行う事業を記載する、これにつきます。
とはいえ、よほど特化していることだけを行う会社であるということでもない限り、会社が上手く回るようになれば、事業の追加はあり得ることです。将来的な可能性については追加しておきたいものです。数で言えばどの程度が、「適当」なのかというのも気になりますよね。そこで基準にしたいのが、登記簿謄本の枠のサイズです。
枠からはみ出ているというのは、どんな理由であれ、あまり良い印象を与えない気がしませんか?キレイにまとまっているものは好印象を与えがちです。見た目ではなく大切なのは中身ですが、迷ったときには、どう見えるか、というのも考慮するのもひとつの判断基準かと思います。
定款の目的は、量ではなく質です。内容であることを忘れずに。
5 定款を作る
定款を作る際に以外と悩んでしまうのが「事業目的」ですが、その目的が決まったら、実際に定款を作る作業に入ります。
改めて、「定款」とは何か、を確認しておきましょう。「定款」とは、会社の組織、そして運営方法といった基本的なルールを定めたもので、いわゆる会社の憲法といった立場のものです。会社設立の手続きを行う際には、“必ず”作成しなければなりません。会社設立準備のさまざまなステップの中でも重要な位置づけです。
会社設立の手続きを外注するのであれば、定款も外注するという方法があります。会社の基本的なルールですから、専門家に相談しながら、オリジナルのものを作成するという方法もあります。予算と時間とすべての状況を考慮した上で、ひな形をベースに自分で作成するのか、外注にするのかを決めましょう。
定款の作成が意味すること、それは、これから設立する会社の“重要なルールを決める”ということです。記載すべき基本項目としては、
■事業の目的(ここまでいろいろと説明して来た内容を踏まえて作りましょう)
■組織
■資本金
といったものになります。記載事項には“必ず”記載すべき項目だけでなく、記載の有無を選べる項目もあります。ポイントは、自分の会社にとって適切な定款を作成することです。ここを意識していれば、目的に合った定款が出来上がること間違いなしです。
5-1 定款の作成から認証までの流れ
会社の形態により、必要の有無がありますが、例えば株式会社であれば、定款作成後に公証役場での認証が必要になります。認証を受けた定款を用いて、会社の設立登記という流れになるからです。
会社設立の手続きの際には、印紙代、手数料などとにかく何事にも実費がかかるようになっているので、ムダなお金を使わない、時間をムダにしないということを心がけながら、なるべくスムーズに進むように、どのステップも進めていくことが大切です。
定款作成の流れを簡単にまとめると下記のようになります。
(2)発起人全員の実印と印鑑証明の準備をする
(3)発起人全員の同意による定款作成をする
(4)公証役場で定款の認証を受ける(認証前に内容を確認してもらうと、その後のステップがよりスムーズに進みます)
(5)定款の謄本の取得をする
定款の作成が完了したら、資本金の払込を行い、登記の手続きへと進みます。
5-2 定款の構成
定款の記載事項を分けると下記のように3つに分けることができます。用語としては少し小難しい感じがしますが、内容を理解すれば特別難しくない項目です。
■相対的記載事項
■任意的記載事項
まず、絶対的記載事項とは、読んで字のごとく、定款の中に必ず記載しなければならない項目です。よく見ると、当たり前の内容です。会社の基幹となる重要な項目ばかりです。
2 本店所在地
3 資本金
4 発起人の指名または名称及び住所
そして、この絶対的記載事項に準ずるものとして、
があります。発行可能株式総数は、登記までに決定すればOKとされています。
次に相対的記載事項です。単語だけを見たら何だかふんわりとしたイメージが浮かぶという人も多いのではないでしょうか?これは、決定したら定款に記載しないと効力が認められない事項を指します。
2 役員の任期の延長
3 株式発行の定め
そして、決定しても記載するかどうかは自由に決めていい事項、任意的記載事項です。
2 株主総会の議長
3 定期株主総会の召集日
押さえておくべきなのは、絶対的記載事項は必須、相対的記載事項は、記載することで効力を持たせたいものであるということです。
任意的記載事項は、記載してもしなくても良いものなので、深く考えなくても大丈夫ですが、決まったことであれば定款に載せておくとすれば、後々トラブルになった際などに定款がその役割をしっかりと果たしてくれるので、社員1人のときは不要ですが、人数が増えて来たときには会社のルールとして、しっかりと作っておきたいものです。
専門的なことにもなるので、内容がこまかくなりそうな業種であったり、会社組織である場合には、エキスパートに作成をお願いすることをおすすめします。専門家に頼めば、変更、追加といった面倒な作業もスムーズに進みます。
5-3 定款を変更するときに必要な手続き
一度作った定款は、なるべく変更したくないと思ってしまうかもしれませんが、会社を経営していく上で、こういった書類の書き換え、変更はつきものです。会社設立後に定款記載内容を変更する必要が出て来た場合には、株主総会で定款の変更を決定し、その内容を議事録に残す必要があります。
定款の変更のために公証役場で再度認証を受ける必要はありませんが、変更が合った際には“法務局”での定款変更の登記申請を行うことになります。手間もかかりますが、費用もかかります。
ムダに変更をしないように、変更が発生するときにまとめて申請が出来るようにするために、チェックしておくべき項目は・・・
(2)商号変更
(3)会社の住所変更(本店)
(4)株式に関する事項
(5)公告方法の変更
(6)機関設計の変更
(7)支店の移転、設置と廃止など
(8)取締役会の設置や廃止
(9)監査役の設置や廃止
となります。変更が発生する可能性のある項目については常にきちんとチェックしておくことを忘れずに。
6 電子定款でコスト削減
定款を作る際にチェックしたいのが電子定款です。定款の作成は従来、“書面”で行うものでしたが、平成19年より電子定款でも認証を受けることが可能になりました。
メリットは、書面での作成で必要だった収入印紙代40,000円が不要になることです。
会社設立時の初期費用で40,000円のコストカットは、とても魅力的です。しかし、実質40,000円の節約が出来ているかというと、実際のところ答えはNOです。電子データにするためのソフトは有料であること、慣れない面倒な画面での処理など、コスト削減に見合うだけのメリットを感じないというのが実情です。
6-1 電子定款作成の流れ
電子定款作成の流れを簡単にまとめると・・・
1 定款を作成
書面で作成するのと同じで、文書作成ソフトで作ります。
2 電子定款に変換
署名挿入機能付きのPDFへ変換。ここでソフトが必要になります。約35,000円ほどで購入可能です。
3 住基カードの申請・取得
手数料500円です。
4 公的個人認証サービス電子証明書の取得
手数料500円です。
5 ICカードリーダライタによる電子証明書の読込
2,000〜6,000円程度
6 電子証明プラグインソフトでの定款(PDF)への署名
これは無料でダウンロードが可能なソフトです。
7 電子定款認証手続き
法務省オンライン申請システム(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html)
8 定款受取後に設立登記
公証役場にて行います。
6-2 本当にお得?実は節約出来ていない可能性も
ステップを簡単にまとめましたが、電子定款に変換するためのソフトというのが高額のようです。さまざまなソフトの入手(購入、ダウンロードなど)の手間と、費用をすべて見てみると、あまりお得な気はしません。しかし、例えば、購入したソフトが他の作業に使えるものであれば、購入を検討しても良いのでは?とも思いますよね。
しかし、もうひとつ気になるのは、使い慣れないソフトやシステムを使うときの手間隙です。すべてを考慮すると、電子定款がいまいち定着しない理由が見えてくるのではないでしょうか。
この費用も含めて、定款作成のサービスを提供している社労士事務所などもあります。コストと時間をしっかり見比べて検討してみましょう。
まとめ
定款の目的を決める上でのポイントを中心に、ご紹介しました。会社の事業目的はすべての取引に影響してきます。
熟慮した上で、定款に記載するようにきちんと準備することをおすすめします。
【参考図書】
「らくらく株式会社設立&経営のすべてがわかる本」(あさ出版)
「オールカラー 一番分かる会社設立と運営のしかた」(西東社)
「ダンゼン得する 知りたいことがパッとわかる 会社設立のしかたがわかる本」(ソーテック社)
「[会社法対応] 定款の変更・作成の正しい実務」(中経出版)
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