昨今、「老後貧乏」「老後格差」「下流老人」などと言う言葉を耳にすることが多くなりました。
65歳まで働いたあとに、少ない年金と貯蓄で最低限の暮らしを強いられる人々は、これからどんどん増えていくと見られています。
果たして、私たちはこれまでの老後の「常識」によって、自分たちの老後を安泰なものにすることができるのでしょうか?
もし、これまでの常識が通用しないのなら、何を頼りに老後の計画を立てればいいのでしょうか。
ここでは、投資コンサルタント・神樹兵輔氏の著作から、お金に困らない老後を作るために今すぐやるべきことをご紹介します。
目次
1 お金に困らない老後を送るにはどうしたらいいのか?
1-1 時代遅れの常識が「老後貧乏」を生む
1-2 将来的に年金は減額、生き残り年数は延びる
1-3 ほんのちょっとの心がけと実践で老後の生活を安泰に
1-4 常に「収入ゼロ」のリスクを考えて行動する
2 実際のところ老後にはいくら必要なのか?
2-1 定年までに入ってくるお金、出ていくお金を把握する
2-2 現在の多くの「高齢者」はどんな生活をしているのか?
2-3 いざというとき、生活保護は頼りにならない
3 安心して老後を送るための考え方
3-1 住宅ローンを組んでマイホームを買うのをやめる
3-2 あまりにも税金のかかりすぎる「マイカー」を卒業する
3-3 保険に入るくらいなら貯蓄に回した方がマシ
まとめ
1 お金に困らない老後を送るにはどうしたらいいのか?
昨今、よく耳にするようになった「下流老人」という言葉。自分に限ってはそんなことにはならないと思っている方も多いことでしょうが、本当にあなたの老後は安泰なのでしょうか。
実際に、数十年先の老後がどんな形でやってくるか、正確に思い描けている人はそう多くはないはずです。よく考えてみれば、あなたの楽観的な予想をことごとく覆すような現実が待っているのかもしれません。
ここでは、まず、私たちの老後が実際にどのような形でやってくるのか、その実態について学んでいきます。
1-1 時代遅れの常識が「老後貧乏」を生む
あなたは、以下に挙げる考え方を読んで、どういう感想を持つでしょうか。
「定年までに住宅ローンを完済できれば、老後のいざという時にも安心」
「定年までに預貯金3000万円を貯めることができれば何の問題もない」
「持ち家と賃貸住宅ならば持ち家の方が資産になるので断然オトク」
「定期保険よりネットで加入する終身保険のほうが安くて貯蓄につながる」
そうそう、全くその通りだと頷くことしきりだったという方は、要注意です。
これまで「常識」だと思われていたこういった考え方は、もはや時代遅れになりつつあるのです。
1-2 将来的に年金は減額、生き残り年数は延びる
私たちを待ち受けている老後は、上に挙げたような考え方ではとても太刀打ちできないレベルにまで深刻さを増しています。
例えば、年金についても65歳からの受給開始年齢は後ろ倒しされることが見込まれているばかりか、現在よりも2~3割も受給額が減額される可能性があることを御存知でしょうか。
しかも、2013年時点での日本人の平均寿命は男性が80歳、女性が87歳でしたが、これはその時点での0歳児があと何年生きられるかを示したもの。
生存率という観点から見れば、男性は90歳時点で23%、女性は47%ですから、相当な数の人が90歳を超えても生きていくことになり、そうした寿命はこれからも延びていくかもしれないのです。
そのことを踏まえると、65歳以降25年間以上続くかもしれない老後を、預貯金3000万円で生き抜いていくのはとうてい不可能だということがおわかりになると思います。
まさに今、これまでの常識は全て捨てて、老後についての計画を練り直す必要があるのです。
1-3 ほんのちょっとの心がけと実践で老後の生活を安泰に
それでは、これから迫り来る老後を安泰なものにするためには、どうしたらいいのでしょうか。
まず、必要なのは「お金のリテラシー」です。リテラシーとは、情報を正しく理解し、取捨選択する能力のこと。お金に関する誤った情報に踊らされていては、70歳、80歳になったときに「こんなはずじゃなかった・・・」と後悔するかもしれません。
老後は1度しかやってこない、やり直しのきかないものですから、30代、40代のうちから老後を視野に入れて人生設計をしましょう。
そして、老後に安心できる資産を築くためには、まず「人生の3大無駄遣い」から脱却することが必要です。3大無駄遣いとは、
2 生命保険加入
3 マイカー所有
のことです。「えっ、マイホームもマイカーもダメなの?」と驚かれる方は多いと思います。これについてはのちに詳しくご説明しますが、この3つは明らかな無駄遣いなのです。
2 実際のところ老後にはいくら必要なのか?
さて、ここまで読んでこられた方の何割かは、それでも、「そうは言ってもそこまで真剣にならなくても、老後は安泰なのではないか」と楽観視されているかもしれません。
ここでは、本当に私たちの老後が安泰なものになりうるのか、いったい老後にはどれだけのお金がかかるものなのかについて見ていきたいと思います。
2-1 定年までに入ってくるお金、出ていくお金を把握する
まず、老後に対する計画を立てるうえで必要になるのが、「私たちの老後にかかるお金はいったいいくらなのか?」という問題です。それを算出するためには、私たちが定年までにいくら稼いで、いくら使うのかを知らなければいけません。
給与生活者の生涯収入は、学歴や企業規模によって異なるものの、学校を出てから同一企業に勤めた場合、およそ1億7000万~2億9000万円になるとされています。
その収入に対して、どれだけのお金が支出として出て行くのでしょうか。30歳で結婚して子供を一人もうけた人を例とすると、
住居支出・・・5000~6000万円(購入した場合)
3600~4500万円(賃貸した場合)
教育支出・・・子供1人当たり1000~1500万円
生命保険・火災保険料・・・1100~1500万円
となります。つまり、持ち家の人なら1億6500~2億4000万円、賃貸の人なら1億5100~2億2500万円が、60歳までにかかるコストであるということなのです。
その結果、老後の貯蓄額は、2014年の段階で勤労者世帯の平均が1290万円、高額貯蓄世帯の影響を排除すると「中央値」がおよそ1052万円ほどとなっているのです。
貯蓄がある世帯でも、1000万円そこそこの貯蓄で老後数十年間を生きなければならないのです。
果たして、これで足りるでしょうか?
2-2 現在の多くの高齢者はどんな生活をしているのか?
それでは、ここで現在の高齢者夫婦の無職世帯がどういった水準の生活ができているのかを見てみましょう。
厚生労働省のデータによると、高齢者夫婦無職世帯の家計収支は約27万円(年金約19万円+貯蓄約6万円+その他収入約1万7千円)だといいます。そのうち教養娯楽に使われるのが11%、交際費が12%となっており、まったくと言っていいほど潤いのない慎ましい生活を送っていることがわかります。
毎月の貯蓄取り崩し額が約6万円ということは、年間約72万円。仮に貯蓄額が1400万円あったとしても、これでは19年間しか持ちません。65歳をスタート地点とすると、84歳で貯蓄が底をつく計算です。84歳まで生きている人は男性で40%、女性に至っては60%にも達します。
医療技術の進歩によって長寿化が進んでいるのに対し、貯蓄額がこの程度ではとてもではありませんが老後を安心しながら送ることはできないでしょう。
2-3 いざというとき、生活保護は頼りにならない
さて、ここまで読んで不安に駆られた人の中には、「どうしても困窮したら、生活保護に頼ればいいのでは?」と考える方もおられるかもしれません。
確かに、生活保護費は受給額だけを見れば、「えっ」と驚いてしまうくらい魅力的です。2014年度の受給額は年間約340万円(月23.8万円)で、日本の全労働者の平均年収414万円の手取り約330万円を上回っています。
おまけに、生活保護世帯は、健康保険料・介護保険料・年金保険料を支払う必要がなく、医療費・介護費もタダ、公立学校の教材費・給食費もタダ、そのうえ都営地下鉄・都営バスの運賃もタダになるのです。
これならむしろ65歳から年金をもらうよりも、50歳くらいから生活保護費をもらったほうが老後が安心なのではないか?と考える人がいてもおかしくありません。
ところが、現在、生活保護という制度自体の根幹が危うくなってきているのです。2014年度の生活保護支給総額は3.8兆円にものぼり、受給世帯数は年々増え続けて留まるところをしらず162万世帯(217.4万人)にも達しました。これは、日本の全世帯の3%に相当する数値です。
そのようなわけで、生活保護受給審査は年々厳しくなっており、支給額もこれから減少に向かっていくと見なされています。また、一見するとトクに見える生活保護受給ですが、審査が通るためには「働くことができない」状態でなければならず、また、借金のある人は自己破産しなければならないなど、さまざまな前提条件をクリアする必要があり、実際の受給者の生活はさほど余裕のあるものではありません。
ですから、生活保護の受給は、どうしても追い詰められたときの最後の最後の手段なのです。
3 安心して老後を送るための考え方
それでは、安心して老後を送るためには、具体的にどうしたらいいのでしょうか?
大切なことは先にも述べた通り人生の「3大無駄遣いをやめること」です。ここでは、3大無駄遣いについて詳しく説明します。
3-1 住宅ローンを組んで「マイホーム」を買うのをやめる
「持ち家」が得か、それとも「賃貸」が得か?というのは、長らく多くの人々が論争をかわしてきたテーマです。
老後に家賃を支払わなくてよくなるから、マイホームを持ったほうが安心だと考えている人はかなり多いのが現状です。ところが、そういう人たちの大多数は、そのマイホームを取得するにあたって「住宅ローン」を組んでいます。
一例として、4200万円の住宅を頭金500万円、住宅ローン3700万円で取得した場合でシミュレーションしてみましょう。
全期間固定金利2%で35年ローンを組んだ場合、毎月の返済額は12万5879円で、最終的に頭金を含む取得価額は5786万9180円にものぼります(税金・手数料は除外)。
さて、この住宅はローンを支払い終わる35年後には中古住宅としてどの程度の価値を有しているかというと、だいたい1470万円ほどでしかありません。ということは、最終的に取得価額に対して中古住宅の価値はマイナス4317万円になってしまうということを意味しているのです。
それでも、住宅ローンを支払ってしまえば、それ以降の家賃はかからなくなる、だから得ではないかと思う方もおられるでしょう。
しかし、人口減少の影響で地価が右肩下がりになりつつあるこの時代に、これほど価値が激減するものを、借金を背負ってまで購入するということは、人生の大損失であると言わざるをえません。
しかも、一度マイホームを取得してしまうと、途中で物件を売却しようにもローンの残債額よりも物件としての価値が下がってしまっていたら、売りたくても売れないという状況に陥ることもあります。また、ただでさえマイホームは収入の増減、家族の増減、転勤などに対して柔軟な対応が難しいものです。
ですから、マイホームはできるだけ価値が高い状態で「売り逃げ」て、賃貸で生活して貯蓄に勤しんだ方が結果的にははるかにお得なのです。
3-2 あまりにも税金のかかりすぎる「マイカー」を卒業する
マイホームと同じく「マイカー」も長い目で見れば、あなたの人生にとっての損失になるかもしれません。
タバコを1日2箱吸うヘビースモーカーは、およそ年間20万1845円もの税金を支払っていますが、実はマイカーを所有している人にもべらぼうと言ってもいい税金がかかっています。
例えば、180万円のマイカーを13年間保有した場合、消費税・自動車取得税・自動車重量税・自動車税・揮発油税・消費税など税負担の合計は何と173万円にものぼるのです。
これに駐車場代、ガソリン代などを含めれば、気が遠くなるような金額に跳ね上がってしまいます。駐車場代が月3万円なら13年間で468万円、毎月5万円なら780万円、ガソリン代も年間1000リットル消費するとした場合、13年間で112万円にものぼります。
つまり、マイカーを13年間所有した場合、コストだけで990~1122万円もかかってしまうのです。これを貯金に回せば、どれだけ老後の心配が少なくなるかお分かりいただけると思います。
3-3 「保険」に入るくらいなら貯蓄に回した方がマシ
私たちが保険会社に月々支払っている保険料が、どこに消えているか御存知でしょうか。
どこの保険会社も高額な広告料を払って連日連夜テレビCMを流せるのはなぜか、よく考えてみた方がいいでしょう。また、それだけ多くの広告料を支払っている保険会社にとって不都合なことや、悪い噂が出回らないのは当然と言えば当然です。
ところで、日本の保険は諸外国のそれと比べ、2~3倍の高額商品であることを知っている人はどれだけいるでしょうか。しかも肝心の補償はというと、諸外国の2分の1から3分の1程度しかカバーしてくれないのです。
それなのに、日本人の1人当たり年間生命保険料は、世界でもダントツの1位。そのうえ特約が付いていたのにもかかわらず、申告がなかったために保険料を支払わなかった悪質な事例も世界で最も多いのです。
そうは言っても万が一の時のために保険に入ることは必要だと考える方も多いでしょう。しかし、そもそも人間はそう簡単には死にません。
2010年に厚労省が発表したデータによれば、60歳時に死亡した人の割合は8.7%、70歳時に死亡した人の割合は19.1%でした。60歳の時ですら、じつに91.3%の人が生きているのです。また、よく耳にする「先進医療特約」ですが、ガンに罹患した人で先進医療が必要になるのは1000人に1人でしかありません。
本当に保険というものが必要かどうか今一度よく考えてみてください。保険に使うはずのお金を貯蓄に回し、不測の事態が起きたらそこから医療費を捻出するというライフスタイルの方が結果的には得かもしれないのです。
まとめ
これから私たちが高齢者になっていく時代には、これまでの「常識」はほとんど通用しなくなるかもしれません。
最も望ましいのは、貯蓄をするだけでなく、60歳を超えても働いてお金を稼ぎ、稼いだお金を殖やすことですが、まずは「三大無駄遣い」について本当に必要なのかどうか検討し、できる限り貯蓄額を増やすことにチャレンジしてみましょう。
三大無駄遣いについて考え直す過程で、あなたの「お金のリテラシー」が自然と磨かれていき、安心な老後を送るためのプランがより明確に見えてくるはずです。
【参考書籍】
『40代から知っておきたい お金の分かれ道』(神樹兵輔著・フォレスト出版)
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