般若心経を写経する7つの手順-心を静めて自分自身と向き合う

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今、写経をやってみたいと思っている人が多いですよね?

写経とは、文字通り「お経」を書き写すことです。
仏教の文献には、仏の教えを説いた「経」、戒律を書いた「律」、道理を書いた「論」という3種があり、これを「三蔵」といいます。

「経」は、経典や教書とも呼ばれ、「般若心経」はもっとも短い経典として、世界中で読まれています。
経題を除いて、わずか262文字の短い漢文ですから、書き写すのはそれほど難しいことではありません。

でも、お寺に行って本格的に行う写経は、作法が難しそうですよね?
たしかに、お寺や宗派ごとに作法や手順が決められているので、それを知る必要があります。
実は、それほど難しいものではないからこそ、写経は全国的に広まったのですが、もっと気楽な入門編として、自宅で行う方法もあります。

ここでは初心者向きに、般若心経や写経の基礎知識に加えて、自宅で写経を行う際の基本的な手順を解説します。

目次

1. 般若心経と写経の基礎知識
1-1. 仏の智慧を凝縮した経典
1-2. 写経に最適とされた般若心経
1-3. 薬師寺から広まった一般的な写経
1-4. 写経の基本形式
① 内題(ないだい)
② 本文(ほんもん)
③ 最終行
④ 奥題(おくだい)
⑤ 願文(がんもん)
⑥ 氏名、年月日

2. 自宅で写経する7つの手順
2-1. 道具をそろえる
2-2. 香を焚いて心を落ち着かせる
2-3. 墨をする
2-4. 墨の色を調節する
2-5. 一文字ずつていねいに写す
2-6. 書き上げたら全体を見直す
2-7. 道具をていねいに片づける

まとめ

1. 般若心経と写経の基礎知識

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仏教は釈迦を開祖とする宗教ですが、今、日本をはじめとする多くの国で信仰されている仏教は、釈迦が実践したものとは違います。

釈迦の仏教は、出家して自己を救済することが目的でした。
しかも、その教えや戒律は口伝で伝えられるものだったので、釈迦が入滅すると弟子たちの間で混乱が起こったのです。

そこで、仏滅後200~300年の間に、釈迦の教えを伝える弟子たちが集まって三蔵が書き残されたのですが、その過程で「根本分裂」が起こります。

あくまでも修行による自己救済を目的とする保守派に対して、大衆の救済を目的とする革新派が現れて、「上座部(小乗)仏教」と「大乗仏教」に分裂したのです。

大乗とは、大衆を乗せる大きな乗り物を意味し、大衆の信仰対象となった大乗仏教は、インドから中国を経て6世紀初頭に日本へと伝わりました。
一方の上座部仏教は、タイやカンボジアなど東南アジアの国々で、今でも信仰されています。

般若心経は正式名を『般若波羅蜜多心経』という、大衆の救済を目的とした大乗仏教の経典のひとつなのです。

1-1. 仏の智慧を凝縮した経典

大乗仏教には膨大な量の経典が存在しました。中国に仏教が伝わると、古代インドのサンスクリット語で書かれた三蔵を漢訳する高僧が現れました。

『西遊記』に登場する三蔵法師のモデルとなった玄奘(げんじょう)も、そのひとりで、三蔵法師とは、「経」「律」「論」のすべてに精通している高僧という意味です。

玄奘は、はるばる天竺(インド)まで苦難の旅をして経典や仏像をもち帰り、大乗仏教の代表的な経典群である「般若経」の集大成として、『大般若波羅蜜多経(大般若経)』600巻を編集しました。

『大般若波羅蜜多経』は、仏の智慧(教え)を説く般若経を凝縮した経典ですが、さらに200数十文字にまで凝縮したものが般若心経なのです。
般若心経が、大乗仏教の究極のエッセンスといわれるのは、そうした成り立ちからです。

1-2. 写経に最適とされた般若心経

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8世紀初頭、遣唐使として唐にわたった法相宗の僧、玄昉(げんぼう)は、735年に5千巻に及ぶ「一切経(三蔵に注釈を加えた大経典群)」をもち帰り、日本の仏教発展に大きな影響をもたらします。

もち帰った経典の中には、法相宗の開祖である玄奘が漢訳した600巻の『大般若波羅蜜多経』とともに、200数十文字から成る『般若波羅蜜多心経』があったのです。

『日本書記』には、それ以前の673年に奈良の川原寺で「一切経」を写させたのが、日本で最初の写経だと書かれています。

玄昉が帰国した後、奈良の東大寺では大仏建立がはじまり、752年には各地に国分寺が立てられて、国家鎮護のために仏教が重んじられるようになります。
お寺が急増したのですから、仏教のテキストである経典も大量に必要とされ、奈良には国家事業として写経所が設けられて、本格的な写経がはじまったのです。

そうした時代の中で、多くのお寺や貴族たちの間で写経が流行しました。
当初は、『法華経』や『金光明経』などの大乗経典が写経の中心でした。
やがて、功徳をつんで仏のご利益にあずかりたいと考える貴族たちの間では、長いお経よりも手軽に何度も功徳をつめる般若心経が、さかんに写経されるようになっていきます。

1-3. 薬師寺から広まった一般的な写経

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平安時代になると、中国から真言を伝えた空海が、密教的な解釈による般若心経を重視したので、広く普及することになります。

しかし、この時代の写経も貴族たちが行うもので、文字を金銀泥で書いたものや、派手な装飾をした装飾経が残されています。

鎌倉時代になり、武士の間に禅宗がさかんになると般若心経も流行しましたが、この時代には印刷技術が発達したので、コピーをつくるための写経は行われなくなります。

写経は、武士たちの個人的な精神集中の手段や、亡くなった人の供養として行われるようになり、現代へとつながります。

現代の写経ブームのきっかけとなったのは、奈良の薬師寺が50年ほど前に、毎日できる「写経道場」を開設したことです。
薬師寺では古くから写経会(しゃきょうえ)を行っていましたが、伽藍復興を目的として般若心経の写経道場を開設したことにより、男女を問わず多くの人が写経に訪れるようになったのです。

『法華経』を根本経典とする日蓮宗と法華宗、『浄土三部経』を根本経典とする浄土真宗は、般若心経を唱えることはありませんが、それ以外の宗派では仏の智慧が凝縮されたお経として、広く読まれています。
現在、般若心経は写経に最適な経典として、各地の寺で多くの人に写経されています。

近年では、指で漢字をなぞるスマートホン用の写経アプリまで登場し、般若心経が一段と親しみやすいものになっています。

1-4. 写経の基本形式

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写経には、古くから決められている基本作法があります。
般若心経の写経にも、独自の書き方があります。

ここでは、市販の写経用紙に般若心経を写経する際の、基本形式を紹介します。

① 内題(ないだい)

経題のことで、写経用紙の右端の1行目をあけて、2行目に「摩訶般若波羅蜜多心経」と書きます。

② 本文(ほんもん)

本文は3行目から書きはじめ、天地の高さをそろえて1行に17文字ずつ書いていきます。
資料として用いられる般若心経は、漢文としてわかりやすいように言葉と言葉の間にスペースをつくりますが、写経では文字を詰めて書きます。

これは中国の初唐(618~712年)のころからの決まりだとされます。

③ 最終行

本文の最終行となる16行目だけは、「羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提僧莎訶」の18文字を4文字、4文字、5文字、5文字と少しスペースをあけて書きます。
これは、般若心経のエッセンスを「真言(マントラ)」に要約した、特別な1行だからです。

④ 奥題(おくだい)

最終行の次には、経題を省略した形で「般若心経」と書きます。
「これで般若心経を終わる」とか、「これが般若心経だ」という締めの言葉で、最終行から1行あけることもあります。

⑤ 願文(がんもん)

何か特別な思いを込めて写経をする場合には、奥題から1行あけて、文頭に「為」または「右為」と書き、スペースをあけてその下に願いの言葉を書きます。
「家内安全」「学業成就」「世界平和」などがよくある願文で、書かなくても構いません。

⑥ 氏名、年月日

最後に自分の氏名と、写経した年月日を元号から書きます。
氏名の上に「写経願主」、下に「謹写」「敬写」「浄書」などと書く場合もあります。

 

2. 自宅で写経する7つの手順

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ここからは、自宅で市販の写経用紙を使って行う写経の手順を紹介します。
お寺によって作法や心得がありますから、ここで覚えた手順は基本として身につけ、お寺で写経をするときは、お坊さんの指導を仰ぎましょう。

2-1. 道具をそろえる

写経に必要な道具は、筆記用具と紙、お手本です。
「手近なものでとにかくはじめてみる」というのであれば、お手本とセットになった写経用紙を文房具店などで購入し、サインペンや筆ペンではじめましょう。
鉛筆だったら、芯の柔らかい4B程度がおすすめです。
般若心経が縦書きになったお手本は、お寺のサイトなどでダウンロードできるpdfもあります。

「どうせはじめるのなら本格的に筆で書いてみたい」という人は、書道の道具をそろえましょう。
具体的には、筆、墨、硯(すずり)、下敷き、文鎮、水、筆置きなどですが、文房具店や書道用品店で、予算や写経用途であることを伝えて選んでもらうといいでしょう。

高価なものをそろえる必要はありませんが、筆と紙は良質なものをそろえた方が書きやすく、書道も上達します。

写経用紙は、表面が滑らかで罫線の入ったものが使いやすく、余白の狭い方が上、広い方が下になります。
最初は、写経用紙の下にお手本を敷いて、上から文字をなぞって写経しましょう。

2-2. 香を焚いて心を落ち着かせる

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和机でも洋机でも構わないので、机の上に道具の準備ができたら、手を洗い、口をすすいで身を清めます。

お寺で行われる写経会では、身体を清めるための塗香を手に少量塗ったり、練香や線香を焚いて空間を清めたりします。
お香は仏教とともに日本に伝わり、荘厳な神秘性を演出するアイテムとして使われてきました。

自宅で写経をするときも、ぜひお香を焚いて心を落ち着かせ、集中できる空間をつくりましょう。

お香の専門店は少ないので、以前は仏具店で売っている線香が多く使われていましたが、今はネットショップで簡単にいろいろなタイプのお香が入手できますから、香炉や線香立てとともに気に入ったお香を探してみてください。

2-3. 墨をする  

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机の高さはおへその少し上くらいで、机と身体は握りこぶしひとつ分ほどあけると、書きやすいとされます。

左右の肩を水平にし、背筋を伸ばして座ったら、墨をすります。
硯の上の平らな部分に水を数滴たらし、ゆっくりと楕円を描くように墨をすります。

ある程度の濃さになったら、すった墨を硯の海(低くなっている部分)に流し入れ、また平らな部分に数滴の水をたらして墨をすり、必要な量の墨液をつくります。
ゆっくり墨をすっていると、墨の香りがさらに心を静めてくれます。

2-4. 墨の色を調節する

墨がすり終わったら、筆で反故紙(書きそこなうなどして不要になった紙)にのせてみて、濃さを調節します。
墨が濃すぎると伸びが悪く、黒光りしてしまいますし、薄いとぼやけてしまい、どちらも品位をそこねることになります。

薄かったら海に溜まった墨液をすり、濃い場合には水を足します。
ほどよい濃さの墨ができても、時間が経つと水分が蒸発して濃くなるので、水を加えて調節しましょう。

2-5. 一文字ずつていねいに写す

筆のもち方には、ペンをもつように人差し指を軸に当てて親指をそえる「単鉤(たんこう)」と、人差し指と中指を軸に当てて親指をそえる「双鉤(そうこう)」があります。

腕の構えは、筆をもつ手首もヒジも机につけない「懸腕」、手首を軽く机につける「提腕」、筆をもたない方の手を筆をもつ手の枕にする「沈腕」があります。

初心者におすすめなのは、単鉤で筆を立ててもち、右利きであったら左手を紙の上に置いて右手をのせる沈腕です。
右手は直接机にはのせずに、左手の指部分に手首を軽くのせるようにします。
細筆は、3分の1くらいを水で柔らかくおろして使います。

準備が整ったら、1-4で解説した基本形式にのっとり、1文字1文字時間をかけてていねいに書いていきます。
上手く書こうとか、美しく書こうなどと考えず、心をこめて書くことが大事。

紙は身体の正面よりも少し右に置いた方が自然な姿勢で書くことができます。
書き進むにつれて不自然な姿勢にならないよう、紙をずらしていきましょう。

2-6. 書き上げたら全体を見直す

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内題、本文、奥題、願文、氏名、年月日とすべて書き終えたら、筆を置いて全体を見直します。
最初はお手本を下に置いて写すので、間違いは少ないでしょう。

お手本を横に置いて写す場合には、誤字脱字や行とばしなどの間違いをしてしまうこともあります。
写経では間違いの直し方にも決まりがあります。

字を間違えたときは、誤字の右に点を打ち、その下に小さく正しい文字を書きます。
1文字抜かしてしまったときは、脱字の前後の文字の間に点を打ち、行の一番下に挿入する文字を書いて、その文字の右に点を打ちます。

同じ文字を重複して書いてしまったときは、削りたい文字の右に点を打ちます。
行を抜かしてしまったときは、抜けた行間の罫線の上部に点を打ち、次の行か最後の行に書き足して、その行頭の罫線の上部に点を打ちます。

書いている最中に間違いに気がついても、訂正を入れて最後まで書くようにしましょう。

2-7. 道具をていねいに片づける

写経を終えたら、道具をていねいに片づけましょう。

筆は洗わず、穂先を少し濡らして紙に墨がつかなくなるまで反故紙で拭い、筆掛けなどに吊り下げて乾かします。
硯はきれいな水で洗い流して、水分を拭き取ります。
墨がなかなか落ちないときは、しばらく水につけておくか、スポンジでこすってください。

墨は濡れているすり口を反故紙で拭い、乾かしてからしまいます。
そのままにしておくと、墨がひび割れる原因になってしまいます。
筆が乾いたら、キャップをして保管すると、曲がったり広がったりすることを防げます。

書き終えた写経は、ぞんざいに扱ってはいけません。
とくに願文を書いたものは、お寺に納めるか、仏壇にまつるのがよしとされています。
納経できるお寺はインターネットで探すことができますから、相談してみましょう。

初心者の場合は、練習しながら何度も書くことになるので、心をこめて合掌一礼してから、焼却するのがいいでしょう。

 

まとめ

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自宅で写経になれたら、ぜひお寺で写経をしてみましょう。
仏教やお経についての法話を聴くことができる写経会もあります。
多くは1000円から2000円程度のお布施をし、中には朝がゆや昼食付というところもあります。

常時、または定期的に写経会を行っているお寺が全国にありますから、インターネットで探してみましょう。
要予約のお寺も多いので、事前に電話をしてから出かけてください。
静かで荘厳な空間で行う写経は、集中力が高まり、内なる自分としっかり向かい合うことができます。

【参考資料】
・『初めての写経』 三玉香玲(監修) マガジンハウス 2013年
・『史上最強 図解 般若心経入門』 頼富本宏(編著) ナツメ社 2012年
・『生きるのがラクになる「般若心経」31の知恵』 枡野俊明 サンマーク出版 2017年

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