職場の人間関係は、ストレスの元になりがちです
人間関係は、「仕事の悩み」のランクで常にトップに入る問題です。
それぞれ違う育ち方をした大勢の人間が、1カ所に集まって仕事をする職場では、人間模様が無数の渦をまいているといってもいいでしょう。
学校を卒業して企業に入社し、めでたく社会人となった瞬間から、同期の人間関係や上司との人間関係に悩むことになります。
そして後輩が入社してくると、さらに部下との人間関係も悩みのタネになるのです。
相手のことが好きになれない、うまく対応できないといった人間関係の悩みは、ジェネレーションの違いや性格の違いなど、様々な要因が絡んでいます。
しかし、1歩あゆみ寄って相手の心理を知ることができれば、なぜそのような行動をとるのか理解できたたり、対応方法が見つかったりするものです。
ここでは、部下から見た上司、上司から見た部下、同僚同士という3つの視点から問題となる行動をピックアップして、三者の心理を分析してみます。
ぜひ、新たな人間関係を築くために役立ててください。
目次
1. 上司の心理を知る!
1-1. 部下の失敗を必要以上に叱責する
1-2. 手柄だけは自分のものにする
1-3. 部下に対して過剰に優しい
1-4. 「忙しい」を連発する
1-5. 上司に服従して部下を攻撃する
1-6. 若者に迎合しようとする
1-7. ボディタッチしたがる
2. 部下の心理を知る!
2-1. 何を考えているのかわからない
2-2. すぐに手抜きをする
2-3. 言われたことしかやらない
2-4. 言い訳ばかりする
2-5. 自己評価が低すぎる
2-6. 孤立してひきこもる
2-7. すぐにキレる
3. 同僚の心理を知る!
3-1. 同僚と自分を比べてしまう
3-2. 同僚の成功を喜べない
1. 上司の心理を知る!
1-1. 部下の失敗を必要以上に叱責する
部下の些細な失敗を叱責し、部下の人間性までも否定するような罵倒を浴びせる上司がいます。
人間は誰でも失敗し、そこから学びながら成長するものですから、上司は失敗の原因を究明して対策を立て、部下の成長を促すべきです。
それが企業の成長につながるのです。
このようなことは、会社という組織の中で生きてきた人間であれば、誰でもわかっていることです。
それなのに、なぜ部下を叱責するようなことをしてしまうのかといえば、上司本人が生い立ちや学歴、容姿やスキルなどに抱いているコンプレックスから目を背けるために、部下を責め立てることで、精神の安定を図ろうとしているケースが多いのです。
問題は自分の心に中にあるのですが、部下の失敗と重ね合わせて、外にあると思い込むことによって、コンプレックスから逃れているのです。
1-2. 手柄だけは自分のものにする
プロジェクトや企画が成功すると自分の能力を自慢するのに、失敗したときは部下の無能を訴える上司がいます。
これは心理学的に分析すると、その上司には自分の精神の安定を図るために自尊心を維持したいという欲求があり、成功の原因は内的要因、失敗は外的要因ととらえることによって、自尊心を維持していると考えられるのです。
逆に、成功すれば部下の協力に感謝し、失敗したら自分の戦略がまずかったと反省するような上司もいます。
こういう上司は、部下からの信頼を得ることができますが、中には自分の管理能力を示すために演出しているケースもあります。
とくに日本人は、組織内の協調を優先して自己を抑制する傾向が強いとされ、よい管理職の条件として謙遜をあげる傾向があります。
1-3. 部下に対して過剰に優しい
部下は、上司からどう見られているか気になるものです。
しかし、それ以上に、上司は部下からの評価を気にするといわれます。
部下との関係が悪くなることを恐れるあまり、部下によく思われたい一心で優しくする上司もいます。
こういう上司は、長所も短所も含めて自分自身をかけがえのない存在であるとする「自己肯定感」が低いのです。
自己肯定感が低い上司は、叱ったら嫌われるのではないかと不安になり、よい上司を演じて精神を安定させようとします。
ところが、そういうタイプは我慢を続けているので、ある日、不満が爆発して「いいかげんにしろ!」などと怒鳴ってしまい、一瞬にして人望を失うことになりがちです。
1-4. 「忙しい」を連発する
ことあるごとに「あー忙しい」「今、忙しいんだよね」と、忙しがる上司がいます。
これは、「自分はできる人間なので、たくさん仕事をまかされている」という周囲へのアピールです。
本当に仕事ができる人は、「忙しい」などという言葉は口にしません。
同じ職場で働いている人たちは、その上司が効率のよい仕事をできない人間で、その人に仕事を頼んでも、期限までに終えることができないのではないかと思っています。
本当に忙しい人は、時間管理能力とスキルを併せもっていて、多くの仕事を依頼されるようになるので、ますます短時間で効率よく仕事をする能力を高めていきます。
「忙しい」が口グセの人は、そうした能力がないので、忙しさをアピールして仕事の遅さをカバーしようとするのです。
1-5. 上司に服従して部下を攻撃する
上司にへつらう一方で、部下には過剰にいばる中間管理職は、どこの会社にもいるものです。
心の根底に抱えている劣等感をほかの手段で補おうとする行為は、自己防衛の1つで、「補償」と呼ばれます。
自分より権威のある者への絶対的服従と、自分より弱い者に対する攻撃性が一体となっている人間は、権力をもつと他人をコントロールして支配欲求を満たそうとします。
そうした性格の管理職は、部下を地位や権力を得るための手段と考えてしまうのです。
権力を乱用して部下の自主性や意欲を失わせるので、会社の業績を悪化させます。
1-6. 若者に迎合しようとする
「今どきの若者は」と若者批判をする上司もいれば、若者に迎合したがる上司もいます。
自分から部下にあゆみ寄って若者から歓心を買おうとしたり、部下が仕事に乗り気でないことを察知すると、自分で仕事を引き受けたりして、部下に取り入ろうとします。
こうした、特定の他者の好意を得るための言動を「迎合」と呼びます。
上司は部下と上下関係にありますが、部下のほうが人数が多いので、部下が思う以上に孤独への不安を抱えています。
迎合することによって、部下の評価を得たい、嫌われたくないと思うのです。
迎合で人間関係を築く人は、「いい人」を印象づけて、関係が浅いうちは円満であることが多くても、時間が経ってから信頼を失う傾向があります。
1-7. ボディタッチしたがる
部下を励ますときや、ねぎらうときに、言葉をかけながらさりげなく相手の体に触れる上司がいます。
コミュニケーションには、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションがあり、「タッチング」は非言語的コミュニケーションの1つです。
タッチングには、身体的距離を縮めることによって、心理的距離を縮める狙いがあります。
失敗をしたときに、「気にしなくて大丈夫」と声をかけられるのと、そのときにポンと肩をたたかれるのでは、タッチングをともなう方が部下の気持ちは軽くなるものです。
タッチングをうまく使う上司は信頼を高めますが、相手が異性である場合はセクシャルハラスメントになる可能性があるので、相手や状況を見極める能力が求められます。
2. 部下の心理を知る!
2-1. 何を考えているのかわからない
部下との関係に悩む管理職のもっとも大きな問題は、「何を考えているのかわからない」
ということでしょう。
単なるジェネレーションギャップであれば、あゆみ寄ることでコミュニケーションを深めることも可能ですが、ほめても叱っても反応が薄く、意見を求めても言葉が少なくて黙り込んでいるようなときは、接し方を考えなければいけません。
人は誰でも、他人からどう思われているかという不安を抱えています。
この傾向が強い人間は、仕事の失敗や、上司からの否定的な評価に対して、著しく自尊心や自信が低下してしまいます。
自分の失敗で上司に迷惑をかけてしまったという思いが、自責の念となってますます不安が募り、対人恐怖症に発展することもあるのです。
こういう部下に対しては、人格を否定しない会話が大事です。
2-2. すぐに手抜きをする
企業の規模が大きくなるほど、意欲のある社員でも「自分がやらなくても誰かがやってくれる」と考えて、無意識に手を抜いてしまう集団心理は、「フリーライダー現象」と呼ばれます。
企業が大きくなると、自分の仕事が業績にどのように結びついているのか見えにくいので、仕事の成果を実感しにくくなるのです。
低い地位にいる若手社員ほど、この傾向が強くなります。
こうした手抜きの心理を乗り越えるためには、プロジェクトチームや、セクションを少人数にして、社員全員が自分の役割と責任を把握できるようにするのが効果的です。
2-3. 言われたことしかやらない
現在、50代の人間は高度経済成長期に生まれて、バブル経済も経験しており、終身雇用と年功序列の中で、「言われなくても求められていることを考えて、言われる前にやる」という世渡りのテクニックを身につけてきました。
しかし、現在の20代はバブル崩壊後に生まれ、30代でも物心がついた頃にはバブル崩壊の時期ですから、一度も好景気というものを経験していません。
ですから彼らは、もはや過去のような経済成長が期待できない世の中で、自分の昇給や昇進に夢や目標をもつことが難しいのです。
言われないことをやってマイナス評価になる可能性があったら、最初からやらない方がいいという、きわめて現実的で合理的な判断をするのです。
仕事をやる能力はあるのですから、上司には、部下に何をやってほしいのか明確に伝えることが求められます。
2-4. 言い訳ばかりする
仕事でミスをすると言い訳ばかりする人間がいます。
これは、目標が達成できなかったことを自分の責任ではなく、都合よく自分以外の何かのせいにして自分を慰める行為で、心理学では「合理化」と呼ばれる心理です。
また、失敗をする前から、「忙しくて時間がなかったから、今回の昇進試験はだめかも」「ほかの仕事が入っていたから、この企画はあまりよくないかも知れない」などと、事前に言い訳をする人間もいます。
これは、失敗しても自分が傷つかないように、あらかじめ自分にとって不利な条件を設けておく、「ハンディキャッピング」という心理です。
どちらも、傷つくことが怖くて自分を守ろうとする行為であり、自信をもてないことが一番大きな要因となっています。
2-5. 自己評価が低すぎる
水が半分入ったコップを見て、「半分しか入っていない」と悲観的にとらえる人と、「半分も入っている」と楽観的にとらえる人がいるという、「コップ半分の水」という有名な理論があります。
「半分も入っている」ととらえる人は、物事のポジティブな面に意識を向けるので、自分のことも肯定的な自己評価をします。
一方、「半分しか入っていない」と、物事のネガティブな面に意識を向ける人は、自己評価が低くなります。
自己評価が低い人は、たとえ成功してもネガティブな面ばかりに意識を向けて、自己嫌悪に陥るので、自己評価を下げる悪循環から抜け出せません。
周囲からは認められているのに、自分の実力だとは思わず、周囲の人間が自分のことをだましているのではないかと考えてしまう人さえいるのです。
とくに女性は、自分の実力を過小評価する傾向があるといわれます。
2-6. 孤立してひきこもる
遅刻も欠勤もせず、仕事はしっかりこなすのに、上司や同僚との接触を避けて孤立してしまう人がいます。
昼休みもひとりで過ごし、昼食もひとりで食べます。
自分からはほとんど言葉を発せず、同僚と会話をするときに敬語を使う傾向があります。
こういう人は、他人との交流によって傷つくことを極端に恐れているのです。
人を拒絶するので集団から孤立してしまい、自分にも社会にも批判的なので孤独感が強くなって、周囲からは気難しい人と思われるので、ますます孤立を深める悪循環にはまっていきます。
社会生活を送りながらも心を閉ざす状態は、自宅に引きこもる「社会的引きこもり」に対して、「準引きこもり」とも呼ばれます。
近年は孤独を楽しむという風潮があり、孤独に見える人の誰もが孤独感を抱いているわけではありませんから、よく部下のことを見て判断しなければいけません。
2-7. すぐにキレる
「キレる」という言葉が使われるようになったのは1990年代ですが、「堪忍袋の緒が切れる」ということわざがあるように、不満や怒りの感情をしまっておいても、許容量を超えると爆発してしまうのは、昔から誰にでもあることでした。
他者に対する攻撃や破壊などの衝動は、フラストレーション(欲求不満)反応の1つである「攻撃的反応」と呼ばれるものです。
しかし、その許容量が低いために、ちょっとしたことでキレてしまう人間がいるのです。
この許容量は「フラストレーション耐性」と呼ばれ、自分で高めることができます。
そのためにはまず、フラストレーションの原因を分析することが大事。
同僚や上司に相談しやすい環境をつくることも大切です。
3. 同僚の心理を知る!
3-1. 同僚と自分を比べてしまう
人は誰でも、集団の中で自分の位置づけがわからないと不安になるものです。
年齢や容姿、能力などを他人と比較して自分の位置を確認しようとします。
とくに職場では、学校のテストのように客観的な判断基準がないので、他人との比較が自分の位置を確認する手段になってしまうのです。
通常、人間は他人と比較するときに、同じ程度のレベルの相手を選んで自尊心が傷つかないようにする傾向があります。
ところが、自信があるときには、より自分を高めようとする向上心から自分より優れている人と比較し、自信がないときには、安心感を得るために自分より劣った人と比較します。
自分にも同僚にも、無意識のうちにこうした心理が働いていることを理解しておきましょう。
3-2. 同僚の成功を喜べない
たとえば、同じ部署の同僚が、趣味である絵画で入選したら、ほかの部の同期に対して、まるで自分のことのように自慢しませんか?
これは「栄光欲」と呼ばれる、自己評価を高める手段です。
ところが、その同僚が自分より早く昇進したら素直に喜ぶことはできないものです。
嫉妬心が生じて、上司が自分を低評価したことに憤慨するかもしれません。
自己評価とは、「比較する相手との心理的距離」「比較する分野の自分にとっての重要度」「その分野においての相手の成績」の3つで決まるといわれます。
親しい相手が、自分にとってあまり重要ではない分野で好成績を収めても、栄光欲で自己評価が上がりますが、自分にとって重要な分野で好成績を収めると自己評価が下がるので、相手を非難したり、その分野が重要ではないと思い込もうとしたりします。
人は誰でも、自己評価を高く維持したいという願望をもっているものなのです。
まとめ
仕事の悩みとしてもっとも多い職場の人間関係は、傷が浅いうちに手を打つべきです。
毎日、顔を合わせるわけですから、放置すればお互いにストレスが大きくなっていきます。
人間関係の修正に不可欠なのが、「対話」。
対話とは、相手の話をよく聞き、自分の意見もしっかり伝える行為です。
十分な対話ができれば、相手の立場や意向がわかってきます。
ムリに共通点や妥協点を探そうとするのではなく、お互いの立場や心理を認め合うことが大事なのです。
苦手な相手とは、早めの対話を心がけて、仕事の悩みを1つでも減らしていきましょう。
【参考資料】
・『面白いほどよくわかる! 職場の心理学』 西東社 齊藤勇 2013年
・『職場の理不尽 めげないヒント45』 新潮社 石原壮一郎・岸良裕司 2012年