多くの企業が導入している「KPIマネジメント」は、専門用語が多く出てきて、本質が理解しにくいですよね?
KPI、KGI、CSF、PDCAといった経営戦略用語を機関銃のように連発されると、拒否反応が出てしまうという人もいるでしょう。
KPIといってもテニスラケットのメーカーではありません。
“Key Performance Indicator”という英語の略で、日本語に直訳すれば、「成績(Performance)のカギ(Key)となる指針(Indicator)」ということになります。
経営戦略用語としては、「重要業績評価指標」と訳されます。
“Key”には、「必須の手段」や「最も重要な」という意味もあり、“Performance Indicator”は「達成指標」と訳され、「指標」は物事を判断したり評価したりするための目印という意味ですから、「業績を達成するために最も重要なプロセスを『見える化』したもの」という意味になるのです。
ここでは、そのKPIを運用する「KPIマネジメント」の基礎を、用語と設定手順などからわかりやすく解説します。
目次
1. KPIマネジメントの基本用語
1-1. KGIとは最終的な数値目標
1-2. CSFはKGI達成に最も必要なプロセス
1-3. CSFを数値目標化したKPI
1-4. プラン改善に必要なPDCAサイクルの意味
1-5. トップダウンとボトムアップ
2. KPIの基本的な設定手順
2-1. KGIの確認
2-2. 現実とKGIのギャップ確認
2-3. 達成プロセスの確認
2-4. CSFを絞り込む
2-5. KPIの設定
3. KPIの運用と管理のポイント
3-1. 整合性、安定性、単純性の確認
3-2. 達成度合いの評価システム
3-3. 事前の対策検討
3-4. 関係者間の合意
3-5. 運用と情報収集
3.6. 振り返りと改善
1. KPIマネジメントの基本用語
研修会やセミナーで、KPIマネジメントを取り上げる機会が多くなっています。
ところが、経営戦略の基礎知識がある程度備わっているビジネスパーソンを対象として行われる場合が多いので、基本的な用語を理解していな
いと、途中でつまづいてしまいます。
まずは、基本用語の意味を知り、「KPIとはなにか?」という基礎知識を身につけましょう。
1-1. KGIとは最終的な数値目標
KGIは、KPIと混同しやすい用語です。
KGIは、“Key Goal Indicator”の略。
KPIが、“Key Performance Indicator”の略で、「業績を達成するために最も重要なプロセスを『見える化』したもの」という意味ですから、KGIは、「最も重要なゴールを『見える化』したもの」という意味になります。
わかりやすく訳すと、「最終的に到達したい最も重要な数値目標」という意味です。
一般の企業では利益目標の数値、営業組織であれば売上目標の数値、スマホアプリやソフトウェア開発部門などであればユーザー数の目標数値があてはまります。
1-2. CSFはKGI達成に最も必要なプロセス
設定されたKGIを達成するために、最も重要なプロセスがCSFです。
CSFは、“Critical Success Factor”の略で、直訳すれば「重要な成功要因」という意味になります。
KGI達成のためにやらなければいけない「プロセス=過程」はいくつもありますが、その中で最も重要なものがCSFなのです。
営業活動であれば、KGIである売上目標を達成するために行なわなければならない顧客訪問や、提案活動といったプロセスの中から、最も重要とされるものが選ばれます。
CSFは、実行すればKGIが達成できるプロセスであり、現場の力で可変させられるものでなければいけません。
KFS(“Key Factor for Success”)も同じ意味で使われる用語ですが、こちらの「成功のためのカギ」という直訳の方がわかりやすいかも知れません。
1-3. CSFを数値目標化したKPI
成功のためのプロセスであるCSFを、どの程度行えばKGIが達成できるかという目標を表す数値がKPIです。
例にあげた営業組織が顧客訪問のアップをCSFに設定したとすれば、300とか500といった具体的な訪問数がKPIということになります。
KPIは、達成することによって、期末時にKGIが達成されなければ意味がない数値です。
KGI、CSF、KPIの3つは、KPIマネジメントの最重要ファクターですから、最初にこの3つの関係をしっかり覚えておきましょう。
最終目標であるKGIを達成するために絞り込まれた重要成功要因がCSFであり、そのCSFを管理するための具体的な数値がKPIということです。
KPIマネジメントとは、プロセスの中から最も重要な数値だけを絞り込んで行うマネジメントです。
1-4. プラン改善に必要なPDCAサイクルの意味
KPIマネジメントは、KPIを設定して運用を開始したら、振り返って改善しながら管理することが欠かせません。
この振り返りのサイクルを示す言葉として使われるのがPDCAです。
PDCAは、“Plan ? Do ? Check – Action”の略で、リーダーがPDCAを回しながら目標の達成をフォローしていきます。
リーダーとは、事業責任者や部門責任者、管理者などで、マネジメントにおけるマネージャーのことです。
計画をつくって(Plan) → 実行して(Do) → 振り返って(Check) → 改善する(Action)というサイクルが、KPIマネジメントの質を向上させるのです。
「P」だけをいくらしっかり行っても、「DCA」が弱ければ目標は達成できません。
とくに大事なのが、「A」まで行って「P」に戻ること、実行の後にしっかり振り返って次のサイクルに活かすことなのです。
1-5. トップダウンとボトムアップ
KPIマネジメントのアプローチ方法には、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチがあります。
トップダウンアプローチは、経営目標に基づいた企業全体のKPIをまとめてから、各部門のKPIへ、さらには各現場活動のKPIへと落とし込んでいく手法。
ボトムアップアプローチは、各部門、各現場のCSFに焦点を当てて、個別にKPIを設定してから企業全体の整合性を整理する手法です。
トップダウンアプローチは、経営目標から現場目標へと落とされていくので、誰もが納得しやすいというメリットがありますが、経営目標が抽象的である場合などは、実行に移すまでに時間がかかるという難点があります。
一方のボトムアップアプローチは、各部門で現場に即したKPIを設定しやすいというメリットがありますが、機能別の設定が行われることにより、全体のKPIに整合しにくくなるという難点があります。
どちらのアプローチを選択するかは、企業の状況やそのときの活動目的などから判断されます。
企業レベルでのKPIマネジメントを考える場合は、トップダウンアプローチが多くなります。
2. KPIの基本的な設定手順
ここからは実践編として、PDCAに基づいてKPIマネジメントを運用する手順を解説します。
最初の5ステップはKPIの設定手順で、すべてPDCAでは「P」に当たる部分です。
2-1. KGIの確認
KGIは、企業であれば利益目標、営業組織であれば売上目標、システム開発であればユーザー数などで、自分たちの組織は何を最
終目標とするかで決まる数値です。
このステップで重要なことは、関係者全員に確認がとれるということです。
KGIはゴールとなる数値目標ですから、ゴールがずれていたのでは正しいKPIを設定することなどできません。
2-2. 現実とKGIのギャップ確認
KGIの確認ができたら、現状のまま活動して期末になるとどうなるかという予測数値を導き出します。
この予測数値と目標数値であるKGIのギャップを把握するのです。
この時点でギャップがないのであれば、そのまま事業運営すればKGIを達成できるということですから、新たなアクションを起こす必要はありません。
しかし、多くの場合は、予測数値とKGIにギャップが生まれるので、KPIマネジメントが効果的なのです。
2-3. 達成プロセスの確認
次に、予測数値とKGIとのギャップを埋めるために、どうすればよいかを考えます。
通常、利益は売上から費用を除いたものですから、利益を上げる方法は、売上を上げるか、費用を削減するかの2つになります。
営業部門を例にあげると、売上は「提案する顧客数」×「成約率」×「客単価」で表すことができます。
利益を上げるプロセスとしては、顧客訪問数を増やす、営業担当の人数を増やす、営業担当の教育時間を増やす、正価を上げる、値引きを小さくするといった変化が考えられます。
このように、組織の状況に応じて、予測数値とKGIのギャップを埋めるプロセスを数値化してみるのです。
2-4. CSFを絞り込む
たくさんのプロセスが考えられる中で、最も重要なものを絞り込むのが、CSFの設定です。
プロセスを絞り込む手法は、2つのステップで行うと明確になります。
まずひとつめは、定数と変数を分けることです。
変化しない数値を除外するのですが、まったく変化しないわけではなくても、変化の幅が小さい、現場活動でコントロールしにくい、といった数値は除外してしまいます。
残った変数の中からCSFを設定するのですが、先の営業部門にあてはめてみると、価格にかんする要素は現場レベルではコントロールできないので除外、提案する顧客数を増やすためには人員や費用が必要になるので、これも除外すると、残りは成約率のアップということになります。
成約率をアップさせるための具体的なプロセスを追求したら、データ分析の結果、自社の商品をひとつ提案するよりも複数提案した方が、成約につながる可能性が高いことを確認できたとしましょう。
これがCSFになるわけです。
2-5. KPIの設定
絞り込んだCSFをどのような数値目標にするかが、次のステップです。
これがKPIの設定になります。
的確なCSFが絞り込まれていれば、KPIの設定は難しくありません。
受注の平均単価が10万円で売上目標を1000万円とした場合、従来の成約率が10%であれば、1000万円÷10万円÷10%で、提案する顧客数は1000になります。
商品を複数提案で成約率が倍になった場合を考えると、1000万円÷10万円÷20%で、500顧客に提案すればいいことになります。
この500がKPIになるのです。
成約率を倍にするための、複数提案というCSFによって、500というKPIが設定されたということです。
3. KPIの運用と管理のポイント
ここからは、設定したKPIを運用するマネジメントが、きちんとできるためのステップになります。
3-1. 整合性、安定性、単純性の確認
まず、設定したKPIの正しさと、実際に運用できるものかという運用性を3つのポイントから事前に確認しておきます。
整合性の確認とは、絞り込んだCSFが変化するとKGIも変化するか、KPIを達成するとKGIも達成されるのかといった正確さの確認です。
KPIの数値が安定的に取得できることも重要です。
現状におけるKPIの数値を入手する日程が、他業務のスケジュールをかぶっていないか、データのアウトプットが外部に依存しないでできるかといった点を確認します。
3つめは、現場のメンバー全員が理解できる単純な数値目標かどうかという確認です。
理解できないメンバーがいたのでは、安定した運用は望めません。
3-2. 達成度合いの評価システム
振り返りのタイミングでKPIの達成度合いをどのように評価するか、という評価システムを決めておきます。
達成度の評価は、KPIの達成見込みを関係者全員に伝えるものです。
ひとつの例としては、月ごとにCheckした見込みを「Green」「Yellow」「Red」のシグナルで評価し、社内報などで知らせる方法があります。
① Green
当月までの実績は計画どおり達成されており、この状態を維持できれは目標数値は達成される。
② Yellow
当月までの実績は計画を下回っているが、20%未満なので期末には目標が達成できる見込み。
③ Red
当月までの実績が目標を20%以上下回っており、このままでは目標を達成できない。
全員が理解しやすく、情報を共有しやすい3段階評価が適してします。
Yellowが2回続いたら、次項で解説するリスク対策をとる、というような設定をすることも可能です。
3-3. 事前の対策検討
次のステップでは、KPIが想定していた数値よりも悪化した場合、先の例でいうと評価がRedになった場合のリスク対策を検討しておきます。
事前に決めておくポイントは4つ。
① いつ
② どの程度悪化したら
③ どうするか
④ 最終判断者は誰か
1ヶ月ごとにチェックして、KPIが想定よりも20%以上低かったら、最終判断者の決済で他部署から10名の人員を投入する、というようなことです。
最終判断者は通常、組織のトップになりますが、これが確実に決まっていなければ、改善のための追加施策を実行するまでに時間がかかることになってしまいます。
これらの4項目を決定しておくことにより、PDCAの「Check」と「Action」が短時間で行えるようになるのです。
3-4. 関係者間の合意
ここまでのステップで確定した、KGIとKPI、振り返りのタイミング、リスク対策と最終判断者、達成度合いの評価システムを、関係者間で確認します。
合意が得られない場合は、修正を行って再度コンセンサスを得る必要があります。
いよいよKPIマネジメントの運用をはじめるときには、社内報や組織トップからのメッセージなどを活用して、関係者全員に伝えます。
3-5. 運用と情報収集
PDCAの「Do」と「Check」では、必要なタイミングでKPIのデータを収集して分析し、意識決定やアクションがしっかり行われている状態をめざします。
KPIを設定したのに、PDCAがうまく回らないというケースは、データ収集作業を定常業務に組み込んでいないことが多いのです。
継続的にデータ収集を行うためには、なぜデータ収集が必要なのかという理由を現場で活動する全員に説明しておく必要があります。
スムーズなデータ収集と分析を行うには、データをグラフなどにして「見える化」し、関係者全員が現状を認識できるようにすると有効です。
振り返りは、やみくもに行っても現場が混乱するだけですから、事前に検討したチェックのタイミングを守り、担当者や現場の負担を考えて運用するようにします。
3-6. 振り返りと改善
PDCAの「Do」における定期的な「Check」によって、データを収集、分析した結果、追加の施策が必要とされた場合には、事前に決定したリスク対策(Action)に基いて早急なプランの修正(Plan)を実施して、悪化した状況を改善します。
PDCAの「Check」と「Action」においては、KPIマネジメントの運用を振り返って、時間をかけずに次のPDCAサイクルへとつなぐことが重要なのです。
期末には、KPIの達成いかんにかかわらず、しっかりと振り返りをして、次期、次年度に向けた改善プランを計画します。
マネジメント能力が低い組織では、振り返りがしっかりと行われないために、未達成の理由が次年度に反映されません。
まとめ
KPIマネジメントの大きな特徴として、「成果をあげるためにプロセスを重視する」という考え方があります。
KGIは、どこの企業や組織でも「見える化」が行われているので、目標数値の管理というとどうしてもKGIばかりに目がいきがちで、CSFというプロセスをよく考えないままのマネジメントに留まっているケースが多いのです。
また、目標達成のためのプロセスを検討、設定していても、単にそのプランを実行する組織と、それを数値化している組織とでは、目標達成の可能性に大きな差が生まれることはいうまでもありません。
KPIマネジメントは、企業の様々な問題の解決策を提案するソリューションにおいても、常識とされるマネジメントのひとつとなっています。
KPIマネジメントについて、もっと詳しく学びたい方は、こちらもぜひご覧ください → 数字でビジネスを最大化し続けるリクルートでKPI講師を務めた現場のプロが実践してきたノウハウを公開!『最高の結果を出すKPIマネジメント』
【参考資料】
・『最高の結果を出すKPIマネジメント』 中尾隆一郎 著 フォレスト出版 2018年
・『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』 大工舎宏、井田智絵 著 日本能率協会マネジメントセンター 2015年