いつの日か自分に死が訪れたとき、「ああ、楽しい人生だった」と思えるような人生を過ごしたいですよね?
「一度きりしかないのだから、楽しい人生を送りたい」と願うのは、洋の東西を問わず今も昔も変わらない人間の心理です。
オードリー・ヘップバーンの言葉、“The most important thing is to enjoy your life – to be happy – it’s all that matters.”「もっとも大事なことは人生を楽しむこと、幸せを感じること、それがすべてです」は、「エンジョイ・ユア・ライフ」という英語を流行させました。
「エンジョイ・ユア・ライフ」のフランス語は“Jouissez de la vie !(ジュイッセ・ドゥ・ラ・ヴィ)”
「セ・ラヴィ」にも使われている“La vie” は「人生」という意味です。
日本では、島耕作シリーズや『黄昏流星群』でおなじみの漫画家である弘兼憲史さんが、人生を楽しむことの大切さをいろいろな本で説いています。
自分に残された時間があとどのくらいあるのかということは、誰にもわかりません。
だからこそ今日、いかにして楽しい人生にするかということを見直してみませんか?
ここでは、弘兼憲史さんの言葉から、楽しい人生の生き方を見直すヒントとなる10カ条を紹介します。
目次
楽しい人生を送るための10カ条
漫画家の弘兼先生は、70歳を超えた今も現役で漫画を描き続け、食通や趣味人としても知られる存在です。
漫画以外にも数十冊に及ぶ著書があり、その中心となっているのは「一度きりの人生、楽しまなければもったいない」という思想です。
考え方ひとつで人生は変わる。
どうせ同じ時間を生きるのなら、楽しい時間を過ごしたほうがいい。
人生は何をしても自由だけど、すべて自己責任。
マイナス思考を忘れさせるのは、プラス思考だけ。
といった言葉を残しながら、いかにして人生を楽しいものとするかを説いています。
多くの事柄は、何か特別なことをしたり、特別なものが必要だったり、多くの資金がなければできないことではなく、ものの見方や考え方というメンタルな要素が中心になっています。
これは、言ってみれば誰にでもできること。
弘兼先生の言葉から、誰にでも実践可能な人生の楽しみ方を10カ条ピックアップして、概要を紹介します。
1. 現実をすべて受け入れる
自分が置かれた状況、身のまわりで起きていること、目の前にある現実をすべて受け入れて、そこからできる最善の方法を選ぶこと。
これが、楽しい人生を送るための基盤です。
「格差社会」が問題視されていますけど、平等な人生などというものはありません。
人間は、生まれながらにして平等ではないのです。
裕福な家庭に生まれる子どももいれば、貧しい家庭に生まれる子もいますよね。
走ることが速い子もいれば、絵を描くのが上手い子もいます。
それが現実。
そうした現実に抗ってみたり、自分の出自を恨んでみたりしても、時間がムダになるだけで、そこからは前向きなエネルギーは生まれません。
ハングリーパワーというのは、現実を受け入れてバネにすることで生まれるのです。
家庭環境や経済状況、職場環境などに不満があったら、変えていけばいいのです。
そのためには、まず現実をすべて受け入れて、ムダなマイナスのエネルギーやストレスを抱えないことが大事です。
2. 楽しんで仕事をする
仕事は、人生において多くの時間を割く要素。
仕事が楽しくないと、人生はつまらなくなってしまいます。
弘兼先生は、漫画を描くことが楽しくて仕方がないくらい好きで、それを仕事にしたので今も仕事をするのが楽しく、どんなに忙しくても仕事でストレスを溜めることはないといいます。
しかし、自分の趣味や好きなことを仕事にしている人は、少数派でしょう。
多くの人は、仕事の中に喜びや楽しみを見つけたいと思っているのではないでしょうか。
誰しも、仕事をする上での目標というものがあるはずです。
それは、業務の成功にかんするものかもしれませんし、役職や地位を目指すものかもしれません。
ですが、楽しい人生を送る上で大切なのは、仕事で何を目指すか、何をするかということよりも、むしろ、どうやって仕事をするかということです。
どんな仕事をしていても、多くの場合は同じことの繰り返しになりますよね。
この繰り返しの中に、楽しみや喜びを見つけるのです。
通勤の途中で楽しめることや、仕事仲間と楽しめること、もしくは楽しい作業方法などを見つけて、楽しい時間を少しでも増やすのです。
3. 没頭できることを大事にする
趣味でも仕事でも何でもいい、没頭できることがあると人生は楽しくなります。
それをしている間は、時間が経つのも忘れ、ほかのものは目に入らないほど集中できることです。
趣味が充実している人生は、楽しいものであることは間違いないでしょうが、「没頭する」ことにはいろいろな効能があるのです。
一番大きな効能は、ストレスの軽減。
ストレスは、マイナスの刺激に対する脳の反応で、「辛い」「悲しい」「苦しい」「痛い」といったマイナスの刺激は自分の意思とは関係なく降り注ぎ、なくしたり消したりすることはできません。
「ストレス解消」という言葉がありますけど、ストレスを忘れようとすれば、その原因になっているマイナス刺激を思い出すことになるので、よけいにストレスを抱えることになります。
ところが、プラスの刺激さえ自分に与えられれば、マイナス刺激を忘れることができます。
プラスの刺激は、好きなこと、楽しいこと、心地よいことなどをすれば、意識的に増やすことができるという特徴があります。
没頭している状態は、最高のプラス刺激になるのです。
ストレスを軽減して生きることは、楽しい人生の大きな要素です。
4. 非日常を楽しむ
非日常を楽しむことは、誰もがやっていることでしょう。
読書、映画やドラマ鑑賞、ゲームなどはみな、日常と違う擬似体験を楽しむものです。
弘兼先生が楽しむ非日常とは、「日常の中に見つける非日常」。
たとえば、いつも歩く道を1本変えてみるだけで、驚くような発見があるかもしれません。
いつも通るけど、入ったことがない地元の居酒屋に入ってみると、知らなかった地元の情報があふれているかもしれません。
毎日やっている行動をちょっと変えてみる。
そうすると、日常の中に興味深い非日常があることに気づきます。
また逆に、「非日常の中の日常」を見つけて楽しくなることもあるといいます。
出張や旅行で新幹線に乗っていると、山間の平地にポツンとひとつ民家の明かりが見えてきて、「ああ、こんなところにも家族がいて、暮らしがあるんだな」と、ふと温かい気持ちが沸いてくるといいます。
旅という非日常は楽しいものですが、その中でふと出会う日常に癒されるのです。
5. 料理をして生き残る
弘兼先生は、かねてから「男子厨房に入れ!」と提言し、食通であると同時に料理好きであることを語ってきました。
今も、ヒロカネプロダクションでは、先生とアシスタントのみなさんが毎日交代で食事をつくっているそうです。
あの弘兼先生が、自転車に乗って近所のスーパーへ食材を買いに行くというのですから驚きです。
料理には、仕事で役立つあらゆる要素が入っているといいます。
今日は何をつくるかという企画力、店で食材を見てアレンジする応用力、頭の中で段取りを組むプランニング、調理を進めるディレクションなどなど、買い物から後片付けまで楽しみながら、スキルアップが図れるのです。
男が料理をすることは、自立して長生きするための条件になるともいっています。
奥さんがある日倒れるかもしれませんし、先立たれて一人暮らしになるかもしれません。
そのときに料理ができない男は、栄養管理ができなくて早死にするのです。
料理の楽しさや、ヒロカネプロのまかないメニューを紹介し、包丁をもったことがない人でもイタリアンのコースがつくれるようになるという、一風変わった料理本も書かれていますから、ぜひ参考にして料理を楽しんでください。
6. 孤独を大切にする
自分だけの時間を大切にして楽しむことも、人生には必要な要素です。
人間、生まれるときも死ぬときもひとり。
本来は、孤独を好む生き物なのです。
孤独感にさいなまれて、つらい人生を送るのは辛いことでしょう。
しかし今、孤独を求め、孤独を楽しむ人が増えています。
「独居老人」という言葉があります。
ひとり暮らしの高齢者のことですが、「孤独死」と同じように暗い響きを感じますよね。
ところが、とくに女性は、自由気ままな暮らしがしたくて自らひとり暮らしを選んでいる人が多いのです。
孤独は寂しいもの、孤独は悪いことという概念は、もう過去のもの。
「おひとりさま文化」などという言葉ができるくらい、孤独は楽しむものになっています。
ネット社会は人間関係が希薄だといわれますが、多くの人は家族や友人とリアルにかかわり、職場ではいろいろな人間と接触しています。
ネット空間だけで生きているような人は別として、普通の生活を送っている人にとって孤独は癒しの時間でもあるのです。
7. 人間関係を整理する
仕事の悩みで常にトップ3に入るのが「人間関係」です。
苦手な上司、どう接したらよいのか悩む部下、好きになれない取引先の担当者。
さらにセクハラやパワハラなど、今の企業は過剰なくらいお互いに気を使いながら仕事をする場所になっています。
すべての人間とうまくやるというのは、とても疲れることですが、自分の頭の中で人間関係を整理することで、ちょっと楽しい人生に変えることができます。
苦手な相手、好きになれない人、嫌いなタイプというのは誰にでもあるもの。
そういう相手とは、ムリに付き合う必要はありません。
そうかといって、仕事上の関係であれば切ることもできませんよね。
そこでみな悩むわけですが、ここで大事なのは「割り切った関係」というスタイルを自分の中につくることです。
仕事をこなすことは自分のために必要なことですから、そのために最低限のコミュニケーションをとればいい。
好きになることも、わかりあう必要もありません。
仕事に必要な関係なのだと割り切れば、相手に対して過剰な期待を抱かなくなりますから、楽な関係がつくれます。
8. 介護はムリのない範囲にとどめる
高齢化社会が到来し、今後も進行していく日本では、親や配偶者の介護という問題に直面する人が増えていきます。
今、大きな社会問題となっている「介護離職」を、ある日、自分のこととして考えなければいけない立場になるかもしれません。
介護離職をして収入がなくなり、共倒れになっていくケースや、親の介護のために子どもの教育費や結婚準備金を使ってしまったというケースは悲劇です。
大切な人の介護は大事ですが、守らなければいけないものには線を引かなくてはいけません。
自分だけではなく、家族の人生まで狂わせてしまうことになるのです。
人生には、辛い判断が必要になることもあるでしょう。
費用の問題だけではありません。
自宅介護は、予想以上に体力を消耗するもの。
介護される人が、家族以外にケアされることを受け入れられないために、ムリをして頑張ってしまい、体を壊すケースも少なくありません。
冷たく聞こえるかもしれませんが、介護が必要になったら、とにかく専門家や経験者に早く相談をして、自分の生活を壊さないようにすることを第一に考えましょう。
自分の人生こそ、限られた大切な時間なのですから。
9. 邪魔なプライドは捨てる
職場が変わったり、部署が変わったりしたときに、過去の自慢話ばかりする人がいますよね。
「前の職場では、営業成績がトップだったんだ」
「前にいた〇〇部では、重要なポジションを任されていました」
こういう話を、ことあるごとに繰り返すのです。
これでは楽しい人生どころか、嫌われる存在になってしまいます。
(なめられてはいけない)という気持ちから、自分のスキルを伝えようとしても、ただの自慢話にしか聞こえません。
楽しい人生を送るために必要な人間関係は、「どんなにすごいことをやってきたか」を説明することよりも、「今、自分は何ができる人間か」を伝えることで構築されます。
小学校へ入学すると、サラリーマンの子も公務員の子も、酒屋の子も八百屋の子も同じ教室で机を並べますよね。
ゼロから人間関係がスタートするわけです。
転職したり、職場が変わったりしたときは、同じようにして新しい環境でゼロから人間関係をつくっていくことになります。
そのときに過去のプライドは邪魔になるだけ。
そこからの人生を楽しくするために、みんな捨ててしまいましょう。
10. 「まあ、いいか」「それがどうした」「人それぞれ」
楽しむことを至上とする弘兼先生の人生観で有名なのが、「まあ、いいか」「それがどうした」「人それぞれ」という3つの言葉です。
生きていれば、壁が立ちふさがることもあるし、苦難や試練に遭遇することが必ずあります。
そういうときでも、人生を楽しんでしまうのが弘兼流です。
考えても変わらないことは、いつまでもこだわっていないで「まあ、いいか」と割り切ってしまう。
現実を受け入れた、いい意味での「あきらめ」です。
それから、「それがどうした」と開き直る。
過ぎてしまったことは、タイムマシンでもない限りどうすることもできないのですから、何が自分に起きたとしても、乗り越えるしかない。
開き直りをそのパワーにするのです。
そして、人生は「人それぞれ」と納得する。
何が幸福な人生かということは、人によって違います。
だから、人生を人と比べても意味がないのです。
自分が楽しかったらそれでいい。
自分の人生が幸せだと思えたらそれでいい。
そのかわり、すべてが自分の責任ですから、自分の中にルールが必要なのです。
弘兼先生は、これを「自立と自律」という言葉でまとめています。
まとめ
自由に生きることは、「楽しい人生」とイコールではありません。
楽しい人生を送るためには、自分を律すること、ルールをもつことが大事なのです。
ここでは10カ条を一例としてあげました。
ルールとはいっても、考え方ひとつで実践できることばかりです。
自分の人生にアレンジして、あなたなりのルールをつくってみませんか?
弘兼先生と同世代の心理学博士で、『楽しい人生を生きる宇宙法則』で知られる小林正観さんも、頑張らないラクな人生を提言していますので、ぜひ参考にしてください。
最後にシェークスピアの名言をひとつ。
「世の中には幸福も不幸もない。考え方ひとつでどうにでもなるのだ」
生まれながらにして幸福ときまっている人も、不幸ときまっている人もいません。
その人がどれだけ幸福になれるかということは、ものの考え方で決まるのです。
【参考資料】
・『50歳からの時間の使い方』 弘兼憲史 興陽館 2018年
・『弘兼流 60歳からの楽々男メシ』 弘兼憲史 マガジンハウス 2017年
・『60歳から人生を愉しむ43の方法』 弘兼憲史 こう書房 2011年