「アサーション」という言葉を聞いたことはありますか?
アサーションとは、英語で「自己主張」という意味です。相手の考えを尊重しながら、対等に自己主張をしていくコミュニケーションスキルを指します。アサーティブなコミュニケーション、アサーティブネスとも言います。
感情をそのまま爆発させて相手を言いなりにしたり、また逆にむりやり抑え込まれたりされることなく、気持ちをきちんと言葉で表現しながら、しっかり自分の考えを伝える方法です。
ビジネスの場では、交渉の際に欠かせないコミュニケーションスキルで、家族・学校・職場など人間関係においても効果が高い方法です。
これを身につけることで、仕事もプライベートも、充実した毎日を送ることができます。
ここでは、あなたのアサーティブ度テストで自分のコミュニケーションパターンをチェックし、実際にアサーション・トレーニングで言いづらいこと、断りづらいこと、自分の主張をしっかり伝えながら人間関係を築く方法をご紹介します。
1 アサーションとは
アサーションとは、英語で「assertion」という名詞です。これは、動詞「assert」からきており、辞書で引くと「断言する」「力説する」「強く主張する」と書かれています。
でも、ここで言うアサーティブとは、強引に主張するということでなく、お互いの立場や考えを尊重しながら、主張をしっかり伝えるという考え方です。
強気な相手との会話をアサーションで克服
あなたは、このような悩みを持っていませんか?
「ミーティングで発言したけれど、うまく伝えられなかった」
「部下が言うことを聞いてくれない」
「思春期の子どもが、最近話をしてくれなくなった」
「頭ごなしに怒る上司に、何も反論できなかった」
「取引業者の強気の姿勢に逆らえず、相手のいいなりになってしまった」
自分の本音を相手に言うことができずにいるのは、辛いですね。
もし、相手が自分をもっと尊重して話を聞いてくれたらどんなにいいか・・・でも、残念ながら、相手は変わってくれません。
そんなあなたに、アサーション・トレーニングが味方になります。
特に、自己主張が苦手な人は、相手の感情や強い態度を優先してしまいます。その結果、自分の本当の気持ちを言わずに我慢してしまいがちです。
一方で、感情を爆発させやすい人は、自分の言いたいことを相手にかまわず言ってしまいがちです。その時はすっきりするかもしれませんが、相手が自分を避けるようになったり、信頼してくれなくなったりして、最後は孤立してしまうことがよくあります。
そんな、ギクシャクした状態を変えることができるのが、アサーションに基づいたコミュニケーション法です。
相手も自分も大切に扱うことで、感情や主張したいことを抑えることなしに、お互いのためになる結論を引き出すことを目指します。
なぜ、アサーション・トレーニングが必要なのか?
多くの人が人間関係に悩みや不安を抱えていますが、特に、職場や家族・友人の間では、強く主張する人が弱い性格の人を押さえつけるパターンになりがちです。
一見うまく収まったように見えるかもしれませんが、これを放置すると、押さえつけられた側にストレスが溜まります。
その結果、夫婦なら離婚することになったり、親兄弟では断絶したり、仕事や職場でうつになったり、悪い結果をもたらす可能性があります。
そんな時に、どちらかが我慢するのではなく、お互いを尊重して本音を出し合う関係ができれば、家族であれば仲の良い居心地の良い家庭になり、職場なら組織としてのパフォーマンスが上がり、辞める人も少なくなるはずです。
また、取引先との交渉では、上下関係や利害関係がある場合、立場の弱い人は自分の主張が言いにくいということが起こります。交渉で「No!」と言ってしまうと、今後の取引が無くなってしまうのではという不安から、泣く泣く相手の主張を飲み込むことにもなりがちです。
もし、「No!」と断っても良好な関係が続けられる交渉術があれば、怖がることなく自己主張することができるようになります。
アサーションと人権思想
アサーションという考えは、1950年代に行動療法という心理療法の中から生まれました。
その後、1960~70年代に、アメリカで黒人差別に対して起こった公民権運動や女性の権利を求める社会の動きの中で、それまで権利や発言が制限されてきた人がどうやって自己主張するかという方法を探る中で発達しました。
こんな逸話があります。
1960年代のアメリカ。とあるレストランに、ある黒人が食事をしようと入りました。彼がチキンを食べていると、そこへ白人が何人も彼を取り囲みました。
「ここは黒人の来るところじゃない!出て行け!さもないと、お前がそのチキンにするようなことを、俺たちもお前にやってやる」
と言いがかりをつけてきました。
「お前がそのチキンにすること」とは、普通にナイフとフォークで小さく切って食べることです。
それを聞いた黒人の彼は、違うことをしました。
いったい何をしたのでしょうか?
怯えて逃げ出したでしょうか?それとも、売られたケンカとばかりに立ち向かったでしょうか?
いいえ、どちらも違います。
彼は、チキンにキスしたのです。それを見た白人たちは、何もすることができず諦めて去って行ったそうです。
相手の脅しに屈せず、彼らの言うことを逆手に取って自分の主張を暗に表した彼の行動は、今でも語り継がれています。
アサーションは、このような、差別をなくそうという運動の中から生まれました。ですから、立場の弱い人間が強い人に対してどういう切り口で意見を述べていったらいいか、そのヒントがたくさん詰まっています。
自分よりも強い人についつい従ってしまったり、自己主張が苦手で言いたいことが言えない人には、とても使いやすいスキルだということが、おわかりいただけると思います。
2 あなたのアサーティブ度をチェック
性格が千差万別であるように、コミュニケーションのパターンも個人差があります。あなたはどちらに最も近いか、以下のチェック表を試してみてください。
アサーティブ度チェックシート
あなたのコミュニケーションパターンは、どれに当てはまるでしょうか?「はい」か「いいえ」にチェックを入れてください。
【チェック1:自分から働きかける言動】
- 自分の長所や成果を人に言うことができる (はい・いいえ)
- 自分が緊張したり神経質になっている時、そんな自分を受け入れられる (はい・いいえ)
- 見知らぬ人との会話に入ることが好き (はい・いいえ)
- 自分が間違った時、認めることができる (はい・いいえ)
- 知らないことやわからないことがある時、そのことについて説明を求めることができる(はい・いいえ)
【チェック2:人に働きかける言動】
- 人から褒められた時、素直に受け入れられる (はい・いいえ)
- あなたに対して好意でやってくれる行動が煩わしい時、はっきり断ることができる (はい・いいえ)
- 不当な要求をされた時、断ることができる (はい・いいえ)
- 長電話や長話を、自分から終わらせることができる (はい・いいえ)
- レストランで注文した料理が違っていた時、それを知らせて交渉できる (はい・いいえ)
いかがでしたか?
また、「はい」が5つ以上になった人は、そんな時に感情的になっていたり相手を無視しがちであるなら◎をつけておいてください。
- 「はい」が5つ以上
⇒自己表現度は普通以上。「はい」に◎があるなら、自分中心で相手を考えない“ジャイアン”タイプ。
- 「いいえ」が5つ以上
⇒自分より他人を優先して自分は後回し。自己主張が苦手な“のび太”タイプ。
解説:3つのコミュニケーションタイプ
アサーションでは、コミュニケーションタイプを以下のように分類しています。
- 攻撃的なジャイアンタイプ
相手を尊重せず、一方的に自分の意見を相手に押し付ける - 受身的なのび太タイプ
相手の意見を尊重することだけで、自分の意見を後回しにしたり言わずに我慢してしまう - アサーティブなしずかちゃんタイプ
相手の意見も、自分の意見も同じように大事にする
あなたは、どのタイプでしたか?
アサーションが目指すものは、攻撃的でも、受身的でもない相互的なコミュニケーション。このスキルを身につけると、嫌な上司や今まで全然話を聞いてくれなかった人、パートナーとの人間関係も変化が起きます。
とはいえ、今までのコミュニケーション法がクセになっている人が、急に態度や言葉使いは変えられない場合もあるでしょう。
そこで、これからアサーション・トレーニングの実践に入りますが、その前に、アサーションを実行するためのマインドセット(心構え)をお伝えします。
この心構えがアサーションの柱となります。
3 アサーションのための基本的な考え方(アサーティブ・マインド)とは
アサーションでは、考え方の土台(前提)があります。この考え方の基本をアサーティブ・マインドということもあります。
コミュニケーションをするときには、このアサーティブ・マインドを常に意識することです。何か迷ったり困ったりしたときには、この考え方に立ち返って判断します。
それでは、土台となる4つのアサーティブ・マインドを見ていきましょう。
アサーション・マインド1|誠実であること
自分の感情に正直であることです。
周りの人にどう思われるかが気になる人には、案外難しいことです。
自分に嘘をつかず、本当の気持ちを認めること。その一方で、相手の気持ちに対しても自分と同じように扱う必要があります。
アサーション・マインド2|対等であること
自分も相手も、等しく人間としての尊厳を持っているということを意識します。
相手によって態度を変えることなく、誰にでも同じように接することが、あなたと相手とを同時に尊重するための基本です。
アサーション・マインド3|率直であること
率直であることのために、アサーションでは、自分と相手の両方を大切にすることをベースに考えます。
感情や主張したいことに率直である、と言っても、自分の感情にだけ正直であっては、相手の感情を尊重しないことになってしまいます。
相手の感情を尊重しつつ、自分の主張を率直に言うことが求められます。
アサーション・マインド4|自己責任
自分の意見を率直に言ったところ、自分が望んでいなかった反応が返ってくる場合もあります。
その結果に対して、あなたは自分が発言した結果だと受け入れる必要があります。だからと言って、自分が悪かったのかもと自分を責める必要はありません。
なぜなら、相手が受け入れるか拒否するかは、相手の判断であってあなたの領域ではないからです。
自分と他人の領域を分けて考える、そしてどんな結果になったとしても、自分の気持ちも相手の気持ちも尊重する、そんな姿勢が必要です。
いかがでしたか?
アサーションの考え方に、少し馴染んできたところで、実際のアサーション・トレーニングに入っていきましょう。
4 実践!アサーション・トレーニング
アサーションは、知識だけでは出来ません。毎日のコミュニケーションで実際にアサーションを使ってみることです。
ここでは、日常でよくある事例を挙げて、どんな会話ができるかを考えてみます。これを参考にアサーション・トレーニングを実践してみてください。
事例1:上司から急な仕事を頼まれたが断りたい時のアサーション
今抱えている仕事でも手一杯なのに、これ以上仕事が増えたらパンクしてしまう・・・
そんな時、あなたはどう答えていますか?
答え方その1|✖ 「今忙しいので、無理です!」とすぐに断る
あなたはいいかもしれませんが、断られた上司はあなたが自分勝手に嫌がっているという印象を受けてしまうかもしれません。
答え方その2|✖ 「はい・・・わかりました」と、断れずに引き受けてしまう
仕事が多すぎると納期も間に合わず、質が落ちたり、心身の健康も損ないかねません。
このタイプの人は、
「『No』と伝えると嫌われるのではないか?」
「自分の評価が下がるのでないか?」
という心配をしてしまいがちです。そう思ってしまうと「No」と言えなくなってしまいます。背負い込んでしまい、ストレスや心身の負荷が蓄積されていきます。
そんな時は、相手の気持ちにフォーカスするのは一旦止めましょう。相手に好かれなくてもいい、と意識してみることです。自分の現状を振り返ってみましょう。
本当に引き受けて大丈夫なのか?
本当に断らないと仕事に支障が出るのか?
今後どういう工夫をしたら引き受けられるのか?
そして、冷静かつ客観的に見て、この仕事は断らないと無理だと判断したら、断り方を考えましょう。
答え方その3|◯ 新たな提案や代替案を提示する
「明日提出しなければならない企画書があるので今は難しいのですが、明後日から取り組んでもいいでしょうか?」といったような代替案を提案する形で、相手も理解できるように返答します。
これなら言われた上司も自分の今の状況に共感してもらえたり、その解決策や代替案を一緒に考えてくれたりもします。
きつい頼まれごとを受けた時のアサーションのポイント
ポイント1|自分の気持ちや現在の状況を伝える
今、自分が思っていることを、相手に率直に伝えます。けれども、相手の感情にも配慮して、的確に、冷静に伝えることです。
この時、相手と自分は対等だという態度で話すこと。自分を卑下したり相手を怒らすのではとビクビクして話したりすると、きちんと伝わりません。堂々と主張します。
ポイント2|相談してみる
この仕事を受けるとどうなるか、こちらの立場を上司と一緒に考えてもらいます。
今受けている仕事が終わらなくても、完成度が落ちても、引き受けるべき仕事なのか?などと優先順位について相談してみると、解決策が見つかる可能性が出てきます。
ポイント3|譲歩案を提案してみる
この例で言えば、「明後日なら引き受けられる」と提案しています。相手が受け入れられるような、代替案があれば、お互い納得の上で解決できます。
事例2:人に褒められた時のアサーション
人から褒められた時の対応は、一見アサーションと関係ないように見えるかもしれません。けれども実は、自己表現が健全にできているかどうかを測るバロメーターになります。
人に褒められた時、あなたはどんな反応をしていますか?
褒められた時の対応1|✖ 「そうなの、私はこれが得意でこっちもできて・・・」と自慢話が始まる
過度な自慢話は、コミュニケーションを妨げます。
会話をキャッチボールに例えた時、相手が受け取れないボールを投げたような状態です。行き過ぎた自慢は、実は自己肯定感が低いことの表れです。あなたは本当に自分を肯定できているか、考えてみましょう。
また、自己肯定感が低いと感じる人は、『自己肯定感とは|すぐに低い自己肯定感を高める方法』を参照してください。
褒められた時の対応2|✖ 「いえ、そんな褒められるようなことじゃないんです。」と謙遜する
受身的なタイプの人に、よく見られる反応です。
この場合、自分に自信がなく自己肯定感が低く、褒められたことをそのまま受け取れないでいます。
日本人は謙遜の美徳という考え方がありますが、自分を卑下しすぎるのは自分を大事にしていませんので、少し注意が必要です。
また、謙遜しすぎて相手の褒めた言葉を受け取らないということは、褒めた相手に対して、その気持ちを受け取っていないということになってしまいます。
特に、外国人との会話では、褒めたことに対する敬意を伝えないと、相手は気持ちを拒否されたと感じてしまいます。
褒められた時の対応3|◯ 「ありがとうございます!」と感謝する
褒めてくれた相手に対して、最大限の尊重を表す態度が、感謝です。
シンプルですが、「ありがとう」と言うことで相手の気持ちへの配慮と、褒められた自分を肯定することの両方を一度に表現することができます。
褒められた時のアサーションポイント
ポイント1|自己肯定感
できることがあっても、また、できないことがあっても、自分はいつも等しく価値ある存在だと思うことです。
ポイント2|相手に感謝すること
褒めてくれた人は、あなたに尊敬の念をプレゼントしてくれていま。きちんとお礼を言って、それを受け取りましょう。
ポイント3|素直な気持ちを表現すること
褒められた時のうれしい気持ちは、今までいつも謙遜していた人には居心地の悪いことかもしれません。理想が高い人には不本意であるかもしれません。
でも、他人が褒めてくれたということそのものに対して、童心に帰ってうれしい気持ちになることを思い出してください。
事例3:夫が、帰る約束の時間より大幅に遅れて帰ってきた・・・
夫の帰宅時間から食べごろを考えて食事を作って、お風呂も準備して待っていたのに、何の連絡もせずに遅くなる・・・
家庭でよくあるパターンですね。
そんな時、あなたはどういう態度を取っていますか?
夫への態度1|✖ 「なんで遅いの!あなたはいつもそうやって連絡せずに遅くなるのね!」と、帰るなりいきなり怒る
ご主人も、遅くなったという後ろめたさがあるはずです。けれども、いきなり怒られてしまうと、謝る気持ちや許してほしい気持ちを出せず、反発心が先に出てしまう場合もあります。
また、こういった恐怖が蓄積されたり、家族が夫の仕事や夫自身に関心を示さなくなっていくことで、夫が精神的に追い詰められ、うつ状態や帰宅恐怖症を起こす例も増えています。
夫への態度2|✖ また口をきいてくれなくなると困るので、言わずにいる
ご主人が口をきいてくれなかったらどうしようと思っているということは、ご主人に主導権を握られているということです。
夫婦の力関係で夫の方が強いというのは、妻にとって居心地が良くないでしょう。
夫への態度3|◯ 「私はあなたの帰る時間に合わせて計画を立てていたの。それが無駄になってしまって悲しい」と言う
自分の感情を「私は」を主語にして話しています。
これなら、自分の気持ちが正しく伝わるでしょう。「あなたは」など相手のことを主語にして責めていないので、言われても反発する気持ちは起きにくくなります。
自分のしたことを悪かったと思ってくれるかもしれません。
ただし、相手がアサーティブに答えてくれないこともあります。疲れやストレスで余裕がないかもしれません。
また、ご夫婦の日常生活の中で、どちらかがいつも我慢しているような状態なら、たった1回の会話では簡単に関係改善というわけにはいかない場合もあります。
ですので、常日頃からアサーションを意識して、自分と相手を両方とも尊重することを、日々の生活から積み重ねていきましょう。
反発する時のアサーションポイント
ポイント1|「私(I=アイ)」メッセージ
私メッセージとは、「私は」を主語にして伝えることです。
「私は〜と思う」と言うことで、自分の感情を素直に表現でき、相手への攻撃も避けることができます。
それと反対が、Youメッセージです。「なぜ(あなたは)遅くなったの?」と言ってしまうと、詰め寄ってこられたように感じます。
ポイント2|相手がいい反応をしないときもありのまま受け止める
相手あってのコミュニケーションです。相手の感情を尊重し、なぜそう思うのかを想像してみましょう。
また、ネガティブな態度を取られた時の自分の気持ちも尊重し、ありのままを受け止めましょう。自分を責めず、相手も責めず、相手にどんなボールを投げるとキャッチしてくれるのかを考えながら、建設的な会話を心がていくことです。
まとめ アサーションは日々のトレーニング
いかがでしたか?
ちょっと難しいなあと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、アサーション・トレーニングは、日々のトレーニングです。最初は簡単にできなくても心配いりません。少しずつ意識しながら取り入れていきましょう。
あなたのコミュニケーション能力がアサーションに近づいていけば、人間関係や環境が豊かになっていくはずです。