社会人として多くの仕事をこなしたり人間関係の幅が広がるほど、感情をコントロールしなければいけない状況や、感情をコントロールしきれない場面も増えてきます。
「部下の言動についイライラしてしまう…」「苦手な人と関わるだけで混乱しそうになる…」
こうしたストレスを抱える方は、自分の感情をコントロールする術を身につけることが重要です。
感情を脳で自在に操ることができれば、普段なら怒ってしまうはずの場面でしっかり冷静になれたり、嬉しいことを素直に嬉しく感じられるようにもなります。
この記事では、感情を自在にコントロールし、仕事や私生活に有効活用する具体的な方法を解説していきます。
感情は強みにも弱点にもなる
感情は、自分次第で強みとして活かすことも、反対に弱点となることもあります。
よく切れる包丁も、一流のシェフが使えば絶品の料理を作れますが、それで人を傷つけることもできてしまいます。
このように感情も、使い方やコントロール方法次第でいくらでも自分のメリットに置き換えることができるのです。
例えば、感情をコントロールできずに悩む人に最も多い「怒り」の感情も、自分の人生を好転させるスパイスになります。
怒りの感情は爆発的なエネルギーを生み出し、怒りを糧に努力の質と量を高めて自分の目標を達成することも可能です。
この怒りの感情を、ただ「イライラする」「こんなことで怒る自分はダメな人間だ」とネガティブに考えてしまうと、怒りのエネルギーは持て余したままで、怒ったことの原因すら解決できません。
感情とはコインの表裏であり、自分のメリットにもデメリットにも変えることができます。
そして感情をコントロールできる能力とは、さまざまな感情を自分のメリットにする力のことなのです。
感情のコントロールにはメリットしかない
感情をコントロールできることには、実はメリットしかありません。
コントロールすることとは、「ロボットのように冷徹で無感情」という意味ではなく、次のように喜怒哀楽を理性的に操ることを指します。
・仕事への活力を出したい時に情熱を生み出し、モチベーションを上げられる
・嬉しい時に素直に喜ぶことができ自己肯定感が高まる
・つらい時は思いっきり悲しんで、ストレスをすぐに発散して引きずらない
英語を話せないことのメリットが何一つないように、感情もコントロールできるほうが自分にとって必ず有益なのです。
続いては、感情をコントロールすることの具体的なメリットを2つ見ていきましょう。
メリット①快適な人間関係を築くことができる
感情をコントロールできることの1つ目のメリットは、他者との関わり方が上手になること。
仕事・恋愛・家族や友人関係・隣人・地域などなど、感情をコントロールできる能力は、すべての人間関係に有益です。
例えば、部下が期日までに仕事を終えることができなかった時、焦りや怒り・不安を感じることが普通です。
しかし、その感情に飲まれて部下を怒鳴ってしまえば職場内の関係は悪化し、焦ったままでは「次に何を優先すべきか?」といった冷静な判断ができません。
不安や焦り・怒りを感じることはこの時の人間にとって正常な反応ですが、それを問題の解決に活かすことができる能力こそが、感情をコントロールすることなのです。
他にも、人間関係において様々なメリットがあります。
【人間関係におけるメリット】
・相手の立場で物事を考えられる
・リーダーシップを発揮できる
・自分にとってメリットのない言動を回避できる
・包容力が生まれる
・他人に好かれる
・嫌いな人、相性の悪い人に悩まずに済む
人間関係をシンプルに突き詰めると、人は他人を「快か?不快か?」の二択で判断します。
感情をコントロールすることで、相手にとって「快適」な部分を読み取ったりすくい取ることができ、自分にとってもメリットのある人間関係を構築できるのです。
メリット②自己肯定感が高まり自己実現が可能になる
感情をコントロールすることの2つ目のメリットは、自己肯定感や自己実現など、自分自身に対するメリットです。
感情を操る能力といっても、例えば「押せば一瞬で幸せになれるスイッチをいつでも自由に押せる」といったことは不可能です。
しかし、自分の感情と上手に向き合えることで、一見すると幸せに結びつかない出来事にも、次のようにポジティブな意味づけができるようになります。
・今の山積みの仕事を片付ければ、必ずスキルアップできる
・好きな人に振られたけど、振られる原因が分かったから次の告白に活かせる
このように感情をコントロールできることで「失敗を成功の糧にする力」が鍛えられ、自分の言動を肯定して前向きに捉える自己肯定感が高まり、あらゆる体験を経験値に変えて成長し続けることで自己実現の速度も早まるのです。
このように感情には、自分の人生を良くも悪くも変える力があります。
感情のコントロールが自己にも他者にも良い影響を与えることは、2つのメリットからお分かりいただけたことと思います。
続いては、感情を自在にコントロールするための第一歩として、具体的な方法を学んでいきましょう。
感情をコントロールする3つの方法
感情のコントロールは英会話の練習のように、一朝一夕で身につくものではありません。
少しのストレスでついカッとなってしまったり不安を感じてしまう人は、まずは「反射的に出てしまう言動や感情」を抑えることから始めましょう。
その最初のステップとして誰もが実践可能な方法が、次の3つです。
①体を動かす
②TPOを変える
③感情的になった時のルールを作る
感情は、体や環境によっていくらでも左右されます。
そのため、まずは目に見えない感情へのアプローチではなく、体の動きや場所などの目に見えるところから感情のコントロール能力を鍛え始めましょう。
方法①体を動かす
条件反射で感情的になってしまう人におすすめの感情を落ち着ける第一の方法が、体を動かすことです。
『心身一体』という言葉の通り、心と体は次のように、お互いに密接につながり合っています。
【感情と体のつながり】
怒っている時…全身に力が入る、眉間にシワが寄る、脈が早くなる
落ち込んでいる時…目線が下がる、猫背になる、ため息をつく
幸せな時…目線が上がる、胸が張る、口角が上がる
このように、心の状態は表情や姿勢・動きにダイレクトに現れます。
そしてこの関係は「逆もまた然り」で、表情や姿勢を変えることで望む感情を表出させることができるのです。
落ち込んだ時は「目線を上げて背筋を伸ばす」、イライラした時は「ストレッチで脱力したり深呼吸で脈拍を下げる」など、感情とリンクする動きと真逆の姿勢や表情を作ることで、冷静さを自然に取り戻すことができます。
方法②TPOを変える
感情を自在にコントロールする2つ目の方法は、「感情的になったらTPOを変える」というクセをつけること。
TPOとは、Time(時間)・Place(場所)・Opportunity(機会)のことで、人間関係のマナーなどに用いられる用語です。
例えば、会社の同僚に営業成績に関してマウントをとられた時、その場でカッとなって声を荒げたり手を出すことは得策ではありません。
この「声を荒げる」「手を出す」というマイナスの言動は、冷静に考えれば無意味だと分かりますが、感情的になった瞬間は冷静に判断することができず、自分のデメリットにしかならないことも実行できてしまうのです。
そこで有効な方法が、時間・場所・機会を変えること。
時間を変えれば、頭を冷やして自分の状況を俯瞰できます。
場所を変えれば、同僚に直接手を出すことはなくなります。
機会を変えれば、後日に理性的に反論できたり、今回の出来事を成長の糧にもできます。
このように環境を変えてしまえば、怒るに怒れなくなったり落ち込む暇がなくなったりと、負の感情に飲まれることを事前に防げます。
方法③感情的になった時のルールを作る
感情的になった時のルールを事前に作り、そのルールに従うことで、感情のコントロール能力を高めることができます。
上で紹介した「体を動かす」「TPOを変える」という2つの方法も、例えば次のようにルールに当てはめることができます。
【感情的になった時のルール】
・カッとなったらすぐに深呼吸をする
・落ち込んで目線が下がったらすぐに天井を見る
・緊張した時は背伸びをして筋肉をほぐす
・焦りが抑えられそうにない時はいったん思考を止めて目をつむる
・嫌なことを言われたらすぐにその場から離れる
このように事前にルールを決めることで、感情が爆発しそうになった時に、感情を抑える行動を反射的にとれるようになります。
さらに、反射的に負の感情が湧いた時も「ルールを守る」という理性的な思考に切り替えることができるため、この方法自体も感情のコントロールに有効です。
①体を動かす
②TPOを変える
③ルールを作る
この3つの方法で、まずは感情をコントロールするコツを掴んでみてください。
感情をより上手にコントロールするための訓練方法
感情のコントロール能力は、「自転車の練習なら自転車に乗った時だけ」「英会話のスキルなら英語を話している時だけ」ではなく、いつでもどこでも訓練が可能です。
ここからは、感情のコントロール能力を高めるために毎日できる訓練方法を、3つご紹介します。
【感情のコントロール能力高める訓練方法】
①相手の気持ちを考える
②メタ認知能力を高める
③ポジティブな意味づけを心がける
訓練①相手の気持ちを考える
感情をコントロールできなくなる原因の1つは、目の前の相手に実際に嫌なことをされた場合と、事実に関係なく「嫌なことをされた」とネガティブに解釈してしまう場合の2つがあります。
客観的に見て相手が悪い場合は、感情をコントロールする必要がないこともあります。
しかし、後者の主観的な想像だけで感情的になることは、自分にも相手にも何もメリットを生みません。
まずは、感情的になることの原因を探る力を養うために、相手の気持ちを考えるクセをつけましょう。
相手の気持ちを考えることで自分勝手な解釈を防ぐことができ、冷静さを保てるようになります。
訓練②メタ認知能力を高める
メタ認知能力とは、第三者の視点で物事を考える思考力のこと。
相手の立場とは別に、第三者目線で物事を俯瞰する力をつけることも、感情のコントロールに大いに役立ちます。
「自分の考え」「相手の考え」の2つに加えて、その他大勢の思考を加えることで柔軟な思考が生まれ、事実を客観的に捉えることができます。
多様な考え方を持つことで「怒る必要はない」「落ち込む状況じゃない」と自己を俯瞰し、感情を冷静にコントロールできるようになります。
訓練③ポジティブな意味づけを心がける
感情をプラスの方向に働かせ、失敗を糧にするために、様々な出来事にポジティブな意味づけをしてみましょう。
心が落ち着いている時から物事を前向きに捉えるクセをつけることで、突発的なイライラや焦りに対処するための心の基盤ができあがります。
また、この訓練によって自己肯定感も高まり、ストレス耐性が上がることで感情が爆発する機会を減らすことにもつながります。
感情をコントロールできないのは脳の病気なのか?
感情をどうしてもコントロールできない人は、性格なのか、病気なのか、治せるものなのか悩んでしまうことも多々あります。
感情をコントロールできない理由は、その人の精神状態や価値観によって様々です。
その中には、病気の可能性ももちろん存在します。
この章では、今すぐに対処すべき次の2つの可能性について探っていきます。
①病気の可能性
②脳疲労(病気予備軍)の可能性
①病気の可能性
感情をコントロールできない原因の1つに、うつ病のような病気の可能性が考えられます。
うつ病と聞くと、「落ち込む」「元気がなくなる」といった抑うつの症状のイメージがありますが、イライラや焦燥感・過度の緊張もうつ病の症状に含まれます。
うつ病の症状は「コップの水が溢れるようなもの」と例えられることがあります。
コップの容量は本人のストレス耐性であり、コップに入れられる水はストレスを表します。
注いだ水(ストレス)がコップから溢れると、感情をコントロールできなくなりうつ病の症状を発症してしまうのです。
突発的にイライラしたり焦りを感じる人は、コップの水が表面張力ギリギリで保たれているようなもの。
そのため少しのネガティブな刺激でストレスの許容値を超えてしまい、反射的に怒ったり不安に襲われるなどの感情の暴走が起こり始めるのです。
これはあくまで可能性であり、「すぐイライラする=うつ病」と断定はできません。
一時的に落ち込んだり悩むことは、人間なら誰しも起こり得る自然な感情です。
しかし、その症状が二週間以上ほぼ毎日続く場合は、うつ病や他の精神的な病気の可能性は否定できません。
無理をするほどコップの水は溢れ続けてしまうため、心当たりのある方は早めに精神科や心療内科を受診し、医師の診察を受けましょう。
②脳疲労の可能性
急なイライラや不安が増えた時は、うつ病などの病気を発症する前の「兆候」の可能性も考えられます。
突発的な怒りや焦りは、脳に疲労が溜まっていること(脳疲労)が原因かもしれません。
脳に疲労が溜まると、冷静な思考や判断の際に活発化する「背外側前頭前野」の活動が低下します。
物事を冷静に判断する能力が衰えるため、いつもなら対処できるレベルの問題に対応しきれず、意図せず感情に身を任せて怒鳴ったりパニックに陥ってしまうのです。
脳の疲労を休める方法は、「睡眠」と「思考の切り替え」です。
まずは次の3つのことを確認して、脳の疲労を解消する生活を心がけましょう。
【脳疲労解消のチェックリスト】
・睡眠時間はしっかり確保しているか?
・仕事漬けでノイローゼになっていないか?
・ストレスをその時々で解消できているか?
感情のコントロールを学べるおすすめの本2冊
感情のコントロールを科学的・心理学的に学んだり、専門家による具体的なメソッドを知りたい方におすすめの本を、2冊に厳選してご紹介します。
感情を自在にコントロールする方法を、次の2冊の書籍から詳しく学んでみましょう。
おすすめの本①人生うまくいく人の感情リセット術
精神科医であり「日本一、情報発信する医師」として多くの書籍を出版している樺沢紫苑氏による、「感情リセット」の方法を学べる一冊です。
本書の魅力は、脳科学と心理学に基づいた具体的なメソッドを学べること。
例えば次のように、気持ちを切り替える具体的な方法を、その効果とともに学ぶことができます。
・気分を数値化する
・良かったことを3行で書く
・過去の自分と比較する
また「返報性の法則」や「のれんの法則」など心理学的なアプローチも紹介されているため、感情のコントロールに悩む人それぞれに合うリセット術を見つけることができるでしょう。
おすすめの本②「つい感情的になってしまう」あなたへ
慶應義塾大学医学部・大学院を修了し、対人関係療法専門クリニックの院長を務める水島広子氏による、「感情のコントロールとは?」について分かりやすく学べる一冊です。
【目次】
第1章…なぜ人は「感情的」になってしまうのか?
第2章…感情を活用すれば「自己肯定感」は高まる
第3章…お互いの「領域」がわかると心がすっとラクになる
第4章…「正しさの綱引き」から手を離してみませんか?
第5章…「つい感情的になってしまう!」がなくなる7つの習慣
第6章…「感情的な人」とのつき合い方
この目次を見ると分かる通り、感情的になる理由や感情をコントロールすることのメリット、感情的な人とのコミュニケーション術など、知りたいポイントが具体的かつシンプルに説明されているため、感情コントロールの入門編としておすすめです。
まとめ
感情をコントロールできることにはメリットしかなく、仕事や恋愛、ひいては人生が今より豊かになることは間違いありません。
感情を自分のメリットになるように操ることは、他者との関係を円滑にするだけでなく、理想の自己実現にもつながるからです。
自身のあらゆる感情を味方につけて、仕事や私生活の問題解決や理想の追求に役立てましょう。