あなたは、部下の育成で悩んでいませんか?
雇用形態が様変わりし、短期で人材が入れ替わる現在の労働状況下において、管理職が部下の育成に消費するエネルギー量は激増しています。そして、中間管理職のストレスは大きな問題となっています。
この状況に対応すべく取り入れられたのが、マニュアルを導入した効率化です。ところが、業務のマニュアル化は、「報告やチェックの増加」「やらされ感の増加」「人間的な関係の欠如」といったマイナス要素を生み出し、生産性の低下を招いてしまいます。
この原因のひとつが「モチベーションの低下」だといわれています。部下のやる気のなさや能力不足を彼らのせいにしていませんか?そうではなく、上司であるあなたに、部下のモチベーションアップが求められているのです。
ここではモチベーションという視点から、リーダーに求められる仕事術を解説します。
目次
1 部下のモチベーションを上げるためのリーダーの役割
1-1 2種類のモチベーション
1-2 外発的動機づけの3点セット
1-3 内発的動機づけの3原則
2 部下のモチベーションを上げるための3つのシーンと20のコツ
2-1 「叱る」シーン
モチベーションを上げるコツ1 メールで叱らない
モチベーションを上げるコツ2 叱るときはすぐ叱る
モチベーションを上げるコツ3 場所を変えて叱る
モチベーションを上げるコツ4 「叱る」と「怒る」の違い
モチベーションを上げるコツ5 人格を否定しない
モチベーションを上げるコツ6 笑顔でしめくくる
2-2 「褒める」シーン
モチベーションを上げるコツ7 部下の短所を長所に変える
モチベーションを上げるコツ8 プロセスを認める
モチベーションを上げるコツ9 自己重要感を感じさせる
モチベーションを上げるコツ10 タイミングを外さない
モチベーションを上げるコツ11 原則は1対1
モチベーションを上げるコツ12 具体的に褒める
モチベーションを上げるコツ13 感謝の言葉を添える
2-3 「教える」シーン
モチベーションを上げるコツ14 力を抜いてもいいところを教える
モチベーションを上げるコツ15 作業と仕事の違いを教える
モチベーションを上げるコツ16 仕事をする意味を教える
モチベーションを上げるコツ17 今やっている仕事の意味を教える
モチベーションを上げるコツ18 会社のことを教える
モチベーションを上げるコツ19 自分の将来像を描かせる
モチベーションを上げるコツ20 失敗から学ばせる
あとがき
1 部下のモチベーションを上げるためのリーダーの役割
リーダーに求められる最大の役割とは、「部下の仕事が楽しくなるように演出していく」ことです。目標達成のために「やらなければいけない」ことを、いかにして「やりたい」と感じるようにするかということです。
1-1 2種類のモチベーション
「モチベーション」は、心理学用語で「動機づけ」と訳されます。一般的には「やる気」や「意欲」という意味で使われる言葉です。
動議づけは、学術的に「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の2種類に大別されます。
内発的動機づけとは、人間が本来もっている好奇心や関心によってもたらされる動機づけ。外発的動機づけとは、アメとムチを上手に使い分け、外部から刺激を与えることによる動機づけのことです。
外発的動機づけは「やらなければ!」という気持ちにさせるものであり、対して内発的動機づけは「やりたい!」という気持ちにさせるものです。リーダーには、この2種類の動機づけを上手く使い分けることが求められるのです。
1-2 外発的動機づけの3点セット
「アメ」「ムチ」「監視」は、外発的動機づけの3点セットです。強いインパクトを与えて、より早く部下をやる気にさせたいときに適しています。
「アメ」とは、ご褒美のこと。ご褒美だけで効果がない場合もありますから、成績が上がらなければ上司が叱責する、給料が下がるといった「ムチ」も用意しなければなりません。ムチで打たれる恐怖心によって、人はコントロールされるのです。
アメとムチを上手に使うために必要なのが「監視」です。行動や実績をしっかり監視することによって、怠けることを防ぎ、一生懸命に仕事をさせることにつなげます。
しかし、権力によるコントロールを繰り返すのは仕事をつまらなくさせ、モチベーションを低下させてしまいますから、内発的動機づけを優先させるべきです。
1-3 内発的動機づけの3原則
「自律感を与える」「有能感を育てる」「信頼関係をつくる」。この3つが内発的動機づけの3原則です。
この3つをうまく使いこなせば、外発的動機づけをしなくても、部下は自主的に「やろう!」という気持ちになり、積極的に行動するようになります。
内発的動機づけは、質の高いモチベーションアップ術だといえます。3つの要素を具体的に解説しましょう。
1-3-1 自律感を与える
誰かにやらされているのではなく、「自分がやりたいからこの仕事をしているのだ」という感覚をもたせることです。
命令ではなく、自分で決めた仕事をやっているという自律感は、大きなやる気を生み出すのです。「給料をもらっているのだから、会社の命令に従いなさい」などと言ってしまう上司に、部下のモチベーションを高めることはできません。
1-3-2 有能感を育てる
「自分は会社の役に立つ能力をもっている」ということに気づかせ、仕事を楽しいものだと感じさせることです。自分が成長していると感じているときは、仕事が楽しくなります。
1-3-3 信頼関係をつくる
「あの人の役に立ちたい」と、部下から慕われるリーダーになることです。
人間には、損得勘定を抜き抜きにして「好きな人の役に立ちたい」と思うものです。自分が我慢をしたり、損な役回りを演じることになっても、信頼する人のためであれば、人は喜んで自己犠牲を払うものです。
部下から慕い尊敬されることは、彼らのモチベーションアップに欠かせません。
2 部下のモチベーションを上げるための3つのシーンと20のコツ
ここからは、部下のモチベーションをアップさせる、もしくは低下させないためのポイントを「叱る」「褒める」「教える」という3つのシーンに分けて解説します。
上司は、部下にいつも見られています。日頃から、部下に真似られても大丈夫な行動をとっていますか?ほかにも、ひとりの部下への態度を、部下たちが見ていることも忘れないようにしてください。
2-1 「叱る」シーン
「愛情をもって叱る」とはどういう叱り方でしょうか。それは、「部下が現在よりも成長することを願いつつ、現状の問題を指摘する」ことです。
モチベーションを上げるコツ1 メールで叱らない
メールは言葉のニュアンスや喜怒哀楽の感情が伝わりにくいので、「怒」のメールを送ってはいけません。
叱ることに慣れていないと、部下に嫌われるのが嫌で、ついメールで叱ってしまいがちです。
しかし、きついことを言ったつもりはなくても、受け取った側がとてもきつく感じてしまうケースが多いのです。だから、メールの文字で叱られると、しばらく立ち直れないくらい落ち込んでしまうこともあります。
嫌われることを恐れてはいけません。叱るときは本人に直接会って、面と向かって叱りましょう。
モチベーションを上げるコツ2 叱るときはすぐ叱る
叱るときには、「前から言おうと思っていたけど」ではなく、「今、気づいたけれど」と切り出しましょう。
「前から言おうと思っていた」と言われた部下は、「なんでもっと早く言ってくれなかったのだろう。もしかしてずっと前から嫌われていたの?」と考えます。これはショックが大きいですね。
プラス面を指摘するときは、「前からいいと思っていたけど」でいいのですが、マイナス面を指摘するときは、「今」にします。実際には前から感じていたことでも、「今、気づいたけれど」と言えば、相手は「自分には挽回するチャンスがある」と前向きになれるのです。
モチベーションを上げるコツ3 場所を変えて叱る
部下を叱るときは、自分のデスクではなく、会議室など普段はあまり使わない特別な場所にしましょう。
上司がいつも自分のデスクに呼びつけて部下を叱っていると、部下にとってそこは不快な場所になってしまいます。ある感情を引き起こすモノや音、場所などを「アンカー」と呼びますが、部下の頭の中では、「あなたのデスクは不快な場所」というアンカーが打ち込まれるのです。そうなると、部下は心の扉を閉じてしまいます。
一度否定的なアンカーが打ち込まれると、肯定的なアンカーに変えるためにはとても時間がかかります。
モチベーションを上げるコツ4 「叱る」と「怒る」の違い
「叱る」とは、その失敗から何を学んだかを認識させる行為です。相手のことを思い、愛情をもって相手の考え方や態度を改めてもらうのです。
一方「怒る」とは、自分のイライラや不快な感情で相手を相手にぶつける行為。相手への思いやりはなく、自分のための行為でしかありません。
感情的になって怒ると、相手は委縮してしまいます。そして、委縮はモチベーションの減退を招くのです。
モチベーションを上げるコツ5 人格を否定しない
人格を否定することは、上司であっても決して許されません。叱る対象は部下の考え方や行動であり、人格そのものではないからです。
「君はどうしてこんなミスを犯すんだ!どこかおかしいんじゃないか?」
「いつもボーっとしているばかりで、仕事をする気があるのかね?」
上司からこんな言い方をされたら、間違いなく部下は落ち込みます。それだけでなく、仕事に対する意欲が減退し、感情的なしこりを残すことにもなりかねません。
モチベーションを上げるコツ6 笑顔でしめくくる
叱った最後は笑顔でしめくくって、「叱るのはこれで終わり」という認識をもたせます。笑顔は気まずい雰囲気を解消し、「次は期待しているよ」というメッセージにもなります。
部下の気持ちを前向きにさせる会話で締めることも大切。叱られた内容をしっかりと受け止めてもらうためのフォローです。
叱ったあとの上手なフォローは、褒め言葉以上の効果をもたらすこともあります。
2-2 「褒める」シーン
褒めることによって人は動きます。
「やって見せ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」というのは山本五十六の有名な言葉ですが、実はこの言葉には続きがあります。
「話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず」「やっている 姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず」まさに内部的道義づけの3原則を指摘する言葉ですね。「褒める」「ねぎらう」ことによって、部下の意欲はさらに向上するのです。
モチベーションを上げるコツ7 部下の短所を長所に変える
短所を指摘しても人は育ちません。長所を見つけて褒めて伸ばしましょう。
短所は長所よりも目につきやすいものですが、裏返せば長所ともなるケースが多いのです。部下の短所を長所にするアドバイスをして、いい面を引き出すのが上司の務めです。
短所と長所は表裏一体です。例えば、
・頑固 → 意志が強い
・なれなれしい → 親しみやすい
・協調性に欠ける → 自分の考えをもっている
・優柔不断 → 慎重
と言った具合に、ポジティブに考えましょう。
モチベーションを上げるコツ8 プロセスを認める
結果を褒めるだけでなく、プロセスを認めていることも伝えましょう。
仕事の報告を受けるときなどは、ついつい結果だけに注視しがちですが、部下は結果に至るまでのプロセスを評価してほしいと思うものです。
プロセスの中には、部下本人が成長していくためのヒントが隠されているもの。結果をもちろん大事ですが、それとは別にプロセスも評価しましょう。結果が望ましいものでない場合も、努力のプロセスは認めるのです。
モチベーションを上げるコツ9 自己重要感を感じさせる
「自分は会社に必要とされている」という自己重要感を感じさせます。有能感と似た感情ですが、自己重要感は自分自身の存在意義を感じるものです。
頑張ることによって褒められる → 自己重要感を感じて自信がつく → さらなる頑張りを促進する……
というサイクルができ上がります。部下にやる気を出させたいのなら、まず自己重要感を感じさせること。その仕事にやりがいを感じれば、自然とやる気が湧いてくるのです。
モチベーションを上げるコツ10 タイミングを外さない
タイミングを外さないのは、褒めることの基本です。時間が経過してしまうと、記憶も薄らぎ、褒められても実感が湧きません。
何がしかの結果を出した直後は、部下本人も達成感に浸っていますから、一緒に喜ぶことができます。部下は上司との連帯感を実感して、自信につながるのです。
モチベーションを上げるコツ11 原則は1対1
褒めるときは、原則として1対1にしましょう。
一般的には人前で褒められるのはうれしいことで、それを見た人も「自分も頑張ろう」という気持ちになります。
しかし、中には嫉妬心や不満を持つ人もいて、妬みやイジメの原因になってしまうこともあるのです。部下に対する配慮を欠かさないようにしましょう。
本人に直接言うとお世辞や建前っぽく思われそうなことは、人を介して伝えた方が効果的な場合もあります。
モチベーションを上げるコツ12 具体的に褒める
どこが、何が、といった具体的なポイントを示して褒めましょう。
B. 「今日の会議での発言、家族の話で始まって、世界的な視野で締めくくるという構成がよかったよ」
AとB、どちらが嬉しいでしょう?
具体的な事柄を褒めるためには、部下の言動に気を配っていなければいけません。日頃から部下を観察することが大事です。
モチベーションを上げるコツ13 感謝の言葉を添える
最後に「ありがとう」という感謝の言葉を添えて、自分の気持ちを伝えましょう。
褒めることが部下のモチベーションアップにつながるとわかっていても、褒め言葉が見つからないときもあります。
そんなときには、無理やり褒め言葉を並べるよりも、「ありがとう」で素直に感謝の気持ちを表すのがベターです。
感謝の気持ちは、「どうも」や「いいね」といった言葉で代用してはいけません。「ありがとう」「ありがとうございます」は、心が通じ合う特別な言葉なのです。
2-3 「教える」シーン
従業員を育てるのは、経営者、管理職の仕事です。まず、あなたが「なぜ、なんのためにその仕事をするのか」ということを理解していることが重要です。
セミナーや研修に頼っていては、部下のモチベーションを高めることはできません。日々の業務の中にこそ、部下を育てる有効な機会がたくさんあるのです。
部下に愛情をもって育てようと思えば、人任せにはできないはずです。
モチベーションを上げるコツ14 力を抜いてもいいところを教える
頑張る人ほど、できるだけ無駄なエネルギーを省くよう指導します。
真面目な人ほど、頑張れと言われたら100%の力で頑張ります。ところが頑張りすぎて空回りしてしまい、効果が上がらず、くじけてしまうケースがあります。
途中でくじけてしまったのでは、達成感も充実感も味わうことができず、モチベーションは低下します。力の配分を教えるのも上司の義務です。
モチベーションを上げるコツ15 作業と仕事の違いを教える
会社においては、「つまらない仕事」も「意味のない仕事」も存在しないことを教えます。どの仕事が欠けても会社や顧客に迷惑がかかり、損失を出すことを理解させます。
仕事を単なる作業と勘違いしている人間は、仕事に価値を見出せませんから、達成感や充実感を感じることもできません。「仕事」は「作業」の結果生み出された価値や意味であることを教えます。
モチベーションを上げるコツ16 仕事をする意味を教える
仕事は自分のためであると同時に「誰かのため」にあること、報酬はお金だけでなく、世の中に役に立てたときに感じる「よろこび」や「働きがい」があることを教えます。
人間は物事に意味を見出そうとします。人生の中の長い時間を費やす「仕事」を生活の手段やお金のためだけだと考えていたら、いつか虚しくなるときが来ます。
私たちは、生きていく上で大きな恩恵をほかの人や社会から受けているということを教えて、自分が社会にできることは何なのかということを考えさせるのです。
モチベーションを上げるコツ17 今やっている仕事の意味を教える
なぜそのような仕事をする必要があり、その仕事をすることにどのような意味があるのかをしっかり説明しましょう。
「なぜ自分は、こんな雑用しかやらせてもらえないのだろうか」というのは、新入社員にありがちな悩みです。この疑問を自分の中で解決できずに抱き続け、会社を辞めてしまう若者もいます。
「まず雑用を経験して仕事の末端まで知ってもらう」「会社の全体像をつかんでもらうために、まず現場を経験してもらう」、こういった会社なりの事情、形態、方針などを踏まえた説明があれば、自分のやっている仕事の意味を知り、将来への希望がもてます。
モチベーションを上げるコツ18 会社のことを教える
会社の由来や創業時の理想などを理解させて、自社商品の知識を深めてもらいます。
自社の商品の良さを理解して愛することは基本。「商品」とは、有形無形にかかわらず「お金をいただいて提供しているもの」です。
商品を理解していなければ、心からお客さまに勧めることはできません。自社商品の知識を深めるためには、製造工程などとともに、創業者の思いや会社の歴史を知ることが欠かせません。
自社の存在価値を知ることは、仕事のやりがいにつながるのです。
モチベーションを上げるコツ19 自分の将来像を描かせる
ライフプランシートを作成し、入社時と毎年2回書いてもらいます。仕事だけでなくプライベートも含めて、6カ月後、1年後、3年後、5年後、10年後、20年後というように、人生の目標を書き出してもらうのです。
実現可能な夢や目標はモチベーションを上げるだけでなく、生きていく上での推進力となります。夢や目標を書くと、その人間は目標に向かって行動するようになるのです。
モチベーションを上げるコツ20 失敗から学ばせる
「失敗から学び取る」という意識づけをしましょう。
仕事上での失敗は誰にでもあることですが、失敗を叱るだけでは部下の成長は望めません。失敗という結果の処理だけを指示していては、その部下がまた同じ失敗を繰り返すことになります。
部下が自分で考え、原因を見直して、再発防止の方法論を自覚することが重要なのです。そのためには、上司が「部下の失敗は会社が成長するチャンス」と考えられる度量をもたなければいけません。
あとがき
上司のちょっとした言動が、部下にやる気をアップさせたり、減退させたりすることが確認できたかと思います。
部下のモチベーションアップを考える前に、ます自分自身がやる気になっているときの状態をよく考えてみましょう。「やる気」の正体がわかってくるはずです。
無気力になってしまっている部下がいたら、自分がやる気を失ったときのことを振り返って救いの手を差し伸べましょう。部下のモチベーションアップは、あなた自身のモチベーションアップにもつながるのです。
【参考資料】
『モチベーション次第で部下は伸びる』(西村美紀代・ぱる出版 2009年)
『部下の「やる気」を育てる!』(小林英二・ディスカヴァー・トゥエンティワン 2008年)
『あの人の下なら、「やる気」が出る。 モチベーション・リーダーになる50の具体例』(中谷彰宏・ダイヤモンド社 2006年)
















