早起きが苦手という人は多いですよね。
「前の日から早起きしなければとわかっていても、つい寝坊してしまう」
「早起きすると頭がボーっとしたままで、仕事が進まない」
「夜型の生活が変えられなくて困っている」
実は、こうした悩みの原因は「体内時計」にあります。1日24時間という地球の自転に合わせた物理的な時計と、自分の中にある時計がズレてしまい、「時差ボケ」の状態になってしまっていることが原因なのです。
これを解消するには、ふだん私たちが身の回りにある時計の時間合わせをするように、自分の中にある体内時計も時間合わせをすればいいのですが、問題はその方法です。
ここでは、まず体内時計とは何かということを解説し、早起きが無理なくできるように自分の体内時計を調節する方法を紹介します。
目次
1 明日から早起きする方法 | 体内時計とは?
1-1 誰もがもっている脳の中の時計
1-2 人によって違う周期
1-3 時間を合わるのは網膜に入る光
1-4 夜モードになるメラトニン
1-5 朝モードになるセロトニン
1-6 体調を決める体温リズム
1-7 朝型人間と夜型人間の違い
2 明日から早起きする方法 | 体内時計をコントロールする10のコツ
2-1 9時までに朝日を浴びて深呼吸する
2-2 朝食はハムエッグにバナナを添える
2-3 香りで体内リズムを安定させる
2-4 朝、コンビニに入る
2-5 90分のリズムでワーク&レストする
2-6 直感や暗示を大切にする
2-7 カーテンは遮光しない明るい色にする
2-8 寝る2時間前からは強い光を浴びない
2-9 寝る前の長風呂は避ける
2-10 長いレム睡眠中に目覚める
まとめ
1 明日から早起きする方法 | 体内時計とは?
人間の生活のリズムを作り出しているのが体内時計です。人間だけでなく、動物や植物ももっているので「生物時計」とも呼ばれます。
「リズム」という言葉を聞くと真っ先に音楽を想像する方が多いでしょう。「リズム」には、音楽や文学などに使われる「律動」という意味以外に、「強弱、明暗、遅速などの周期的な反復」という意味があります。
人間の体内で行われている周期的な反復といえば、心臓の鼓動と呼吸があります。そのほかにも、睡眠と覚醒のリズムや体温のリズムなど、いろいろな体内リズムがあり、それらのベースになっているのが体内時計なのです。
1-1 誰もがもっている脳の中の時計
人間の体内時計は、左右の大脳半球の間に位置して自律神経の調整を司る「視床下部」にある、「視交叉上核」という小さな領域にあると考えられています。
動物や植物は、地球の自転周期である約24時間に合わせて活動します。これを日周期性と呼び、自然条件の下では24時間の周期を繰り返します。
暗い室内に植物や動物を移しても、この日周期性は失われません。しかし、その周期は正確に24時間を刻まなくなります。毎日決まった時間に輪に乗って回すよう習慣づけたハツカネズミの実験では、次第に決まった時間から遅れていくことが確認されたのです。
これは、本来ハツカネズミのもっている体内時計が24時間よりも長い周期であるために、外界の24時間周期からズレていくことが原因なのです。人間が脳内にもっている体内時計も、ハツカネズミと同じ構造と考えられています。
1-2 人によって違う周期
昼と夜がある自然条件下ではない状態で、生物時計が刻む自律リズムは「概日リズム」と呼ばれます。人間の概日リズムは人によって違い、平均すると約25時間とも、24.18時間ともいわれています。
寝る前に消灯し、起床すると照明を点けることが許された実験では約25時間、昼夜も一定の照明の下で行った実験では24.18時間となったので、昼と夜がある自然条件下では約25時間と考えてもいいでしょう。
どちらにしても、概日リズムは少しずつ遅く起きて遅く寝るようにズレていくのです。人間の概日リズムが地球の自転周期よりも長い理由は、遺伝的に長い体内時計をもった人間が自然淘汰の結果残ったのではないか、と考えられています。
それでは、24時間より長い周期の体内時計を脳内にもつ人間が、なぜ毎日同じ時間に起きて同じ時間に寝るという自然条件に合った生活ができるのでしょうか?
それは体内時計が、外界の昼と夜の周期で補正されるからなのです。
1-3 時間を合わるのは網膜に入る光
体内時計は身の回りにある時計と同じように、時間を合わせ直すことができます。これを「同調」と呼び、その要因を「同調因子」と呼びます。
体内時計の最大の同調因子は「光」です。外界の光を遮断した実験で概日リズムが遅れてくるのは、そのためです。
視交叉上核にある体内時計が時刻合わせを行うしくみは、眼球内の網膜が感知した光が電気信号に変換されて脳に伝わるからです。
朝が来て明るくなると、概日リズムの周期が24時間30分の人も、25時間の人も、26時間の人も、みな体内時計をリセットするので、1日24時間の周期に合わせた生活ができるのです。
1-4 夜モードになるメラトニン
早起きに大きな影響を与えているホルモンが2つあります。ひとつは、睡眠を促進する「メラトニン」というホルモンです。
メラトニンは、脳内のほぼ中央にある「松果体」という分泌器官でつくられ、心拍数や血圧、体温を低下させて睡眠を促進する働きがあります。
メラトニンが分泌されるのは、朝起きて太陽の光を浴びてから約16時間後です。朝6時に太陽光を浴びると、16時間後の夜10頃から脈拍や体温が下がり始めて、眠る準備態勢に入るのです。
メラトニンの分泌がうまくいかないと睡眠障害を起こすので、健全な生活は送れません。また、分泌量も年齢とともに減り、高齢になるとなかなか眠りにつきにくくなります。
メラトニンの分泌を抑制して、体内時計を調整するために必要な光は、2500ルクス程度とされてきました。これは晴れた日の窓際くらい強い光です。
最近の研究では、一般的な室内照明の明るさである300~500ルクス程度でも体内時計に影響があるとする報告も出されていますが、メラトニンを分泌させるには、朝起きて光を浴びることが重要なのです。
1-5 朝モードになるセロトニン
メラトニンが睡眠を促進する「夜モードのホルモン」であるならば、自律神経のバランスを整えて脳や身体を活性化させる「セロトニン」は「朝モードのホルモン」といえます。こちらも、気持ちのよい早起きに欠かせないホルモンです。
脳内で分泌される神経伝達物質のセロトニンの量は、太陽の光が眼球に入ると増えます。
交感神経と副交感神経という自律神経のどちらを優先させるかというンコトロールをしているセロトニンによって、昼間はいきいきと活動し、夜はぐっすりと眠ることができるのです。
朝、太陽の光を浴びると、体内時計をリセットすると同時に、メラトニンの分泌を止めて、セロトニンの分泌を高める刺激を自分に与えることができるのです。
1-6 体調を決める体温リズム
体内時計は、体温リズムをコントロールする役目ももっています。メラトニンが多く分泌されると体温が下がり、少なくなると体温は上がります。
基礎体温とは、目が覚めてすぐに測る体温で、起きている間でもっとも低い体温です。健康な人は、起きてから3時間ほどで1日の最高体温に近い温度まで上昇し、37度を超えていることが多くなります。その後、就寝2時間くらい前から体温が下がり始め、自然と眠くなります。
体調の悪い人は、起きてからの体温上昇がゆるやかに夜まで続き、最高体温も36.5度です。就寝前になってもなかなか体温が下がらないので、寝付けない状態になり、したがって早起きがつらくなるのです。
1-7 朝型人間と夜型人間の違い
朝型人間の最高体温は午後5時、最低体温は午前1時です。一方、夜型人間の最高体温は午後9時、最低体温は午前6時と、最高最低の体温差が小さいという統計があります。
朝型人間でも、体調を崩すと、最高体温と最低体温の振幅は小さくなることが知られています。
体温リズムと睡眠リズムの周期がズレると、なかなか寝付けなくて、朝起きても体温があまり上昇しないので、眠い状態が続きます。
無理なく早起きができるようになるには、体温リズムの振幅が大きな朝型人間を目指して、体内時計をコントロールすればいいのです。
2 明日から早起きする方法 | 体内時計をコントロールする10のコツ
ここまで解説してきた体内時計の特性を理解してうまく利用すれば、無理なく気持ちのよい早起きができるようになります。
そこで、普段の生活の中で実践可能な10のコツを紹介しましょう。
2-1 9時までに朝日を浴びて深呼吸する
遅くても午前9時までに太陽の光を浴びて、窓を開けて深呼吸をしましょう。
太陽の光を浴びながら大きく3~4回の深呼吸をすることで、脳に溜まっていたメラトニンを消してセロトニンを活性化させると同時に、脳や内臓を活性化させる酸素を体内に取り込むのです。
メラトニンの分泌が始まる16時間後は、午前9時から計算すると翌日午前1時となり、早起きのための早寝には遅くなってしまいます。午前9時から仕事を始める生活では、午前6時から7時くらいに起きて朝日を浴びるようにしましょう。
また、晴れた日と雨の日では太陽光線の明るさが違います。雨や曇りで暗い朝は、蛍光灯やLEDのスタンド照明などに顔を1分間近づけてみてください。これだけで驚くほど効果があります。
2-2 朝食はハムエッグにバナナを添える
食事でセロトニンを活性化させることができるので、朝食をしっかり食べるというのは、早起きの重要なポイントです。
セロトニンの原料は「トリプトファン」という必須アミノ酸です。これは体内で生産されないので、食べ物からとらなくてはいけません。
トリプトファンと「ビタミンB6」が合成されるとセロトニンが生まれます。この2つを含む食べ物には、牛や豚の赤身肉、牛乳、卵、チーズ、バナナなどがあり、トリプトファンを脳内に届けるためには炭水化物も必要です。
これらから考えられる、セロトニンを活性化させる朝食メニューは次のようになります。
・ハムエッグ
・牛乳
・バナナ
決して特別なメニューではありませんから、実践してみましょう。
2-3 香りで自律神経のリズムを安定させる
香りの効果を活用して、朝は交感神経を刺激してスッキリ目覚め、夜は副交感神経を刺激して快適な睡眠をとりましょう。
体温リズムや睡眠リズムを整えることで、自律神経のリズムを安定させられることはすでに解説しましたが、補助的に自律神経を刺激して安定させることも可能です。
その刺激法のひとつが「香り」です。
朝はグレープフルーツなどの柑橘系の香りで、気持ちを明るく切り替えて心も体もリフレッシュ。夜はラベンダーなどフローラル系の香りで、神経の緊張や不安をやわらげてリラックスしましょう。
2-4 朝、コンビニに入る
通勤では、家を出たらできるだけ早くコンビニに寄りましょう。コンビニの店内は、目の高さの照度が1500~2500ルクスもあります。
最近は照明器具が蛍光灯からLEDに変わる店舗が増えていますが、照度が同じでもLEDの強い光は体内時計に与える影響が大きくなっています。
とくに雨や曇りの日は、照明に白色LEDを使っているコンビニに寄って体内時計をリセットしましょう。休みの日は、起きたらすぐに行くのが効果的です。
逆に、夜のコンビニは注意が必要です。寝る前にコンビニの強い光を浴びると、メラトニンの分泌が低下してしまいます。帰宅途中にコンビニに寄り、立ち読みなどで長居するのはやめましょう。
2-5 90分のリズムでワーク&レストする
少し働いたら少し休むという効果的なワーク&レストは、90分間仕事をしたら休息を入れるという周期が、体内時計にかなったものです。
睡眠中は、ノンレム睡眠(熟睡眠)の後に、レム睡眠(短い浅睡眠)がある約90分の周期を繰り返します。気持ちよく早起きをするためには、この90分周期をうまく利用して3時間、4時間半、6時間、7時間半という睡眠をとる必要があります。
この90分周期は、睡眠中だけでなく覚醒中もあると考えられています。ただし、この周期には90分から110分くらいまで個人差がありますから、自分の周期を見つけて、ワーク&レストや睡眠に活かしましょう。
2-6 直感を大切にする
無意識と意識を結ぶ「直感」を大切にしましょう。いつもより早い時間でも「なんか今日は眠いな」とか、「もう寝たい」と感じたら、早く身体を休めたほうがいいのです。
また、ストレスが原因で、体内時計から発進されるリズムが不調をきたすことがあります。毎朝ばかりでなく、こうした不調のときもリズムの調整は無意識のうちに行われます。
体内時計のシステムは、DNAに書き込まれている遺伝的情報や、生まれてからの経験など様々な意識にのぼらない情報からつくられているのです。
人間は無意識で体内時計の針を見ています。「直感」は体内時計からの伝言だと思ってください。
2-7 カーテンは遮光しない明るい色にする
睡眠をとる部屋のカーテンは、朝の光が差し込むように白、イエロー、オレンジ系などの明るい色にしましょう。
遮光カーテンや、黒、グレーなど光をさえぎるものだと朝になっても部屋は暗いままなので、脳はまだ夜だと勘違いしていてメラトニンが分泌され続けます。
まぶたを通して網膜で感知された光はメラトニンの分泌を抑え、身体が少しずつ朝モードへと変化するのでスッキリと起きやすくなるのです。
気持ちよい早起きをするためには、少しでも早く朝になったことを脳に知らせてやり、体内時計をリセットする準備を整えましょう。
2-8 寝る2時間前からは強い光を浴びない
就寝の2時間前からは、LEDや蛍光灯などの強い光を感知しないようにしましょう。パソコンやスマートフォンのモニターも同様です。
強い光は交感神経を活性化させてしまいますから、ゆっくりと睡眠状態に入ることができなくなってしまいます。
2時間前からは、部屋の照明をオレンジ系の間接照明などやさしいものにしてリラックスします。
1時間前からは、さらに照度を落してメラトニンの分泌を高め、気持ちをゆったりと落ち着けていくのです。
読書が好きでもここまで。静かな旋律の音楽や香りで、脳に睡眠の準備をさせましょう。
2-9 寝る前の長風呂は避ける
寝る前の長風呂は、体温がなかなか下がらずに睡眠の妨げになります。
人間は体温が下がり始めると眠くなります。たとえば午後9時にメラトニンの分泌が始まる人は、2時間ほど熱の放出が続き、11時頃に体温が下がり始めます。
眠りに入ると体温はさらに下がり、午前4時から5時くらいにもっとも低くなって上昇を始め、目覚める頃に少し高い状態に戻るのです。
とくに冬はお風呂でゆっくりと温まりたくなるでしょうが、その場合は早めに入浴を済ませるのがいいでしょう。
2-10 長いレム睡眠中に目覚める
目覚ましは、4セット目以降のレム睡眠中にセットしましょう。
ノンレム睡眠とレム睡眠は90分周期で繰り返すといいましたが、実は睡眠が長くなるほどレム睡眠の時間が長くなるという特性があります。
眠りについて最初の90分は、ノンレム睡眠85分の後に5分間のレム睡眠があるだけですが、2周期目には10分、3周期目には20分、4周期目には30分という具合に増えていきます。
睡眠は小分けにせず、一度に長時間の良質な睡眠をとり、狙いやすい最後のレム睡眠中に的を絞って起きればいいのです。
ノンレム睡眠中は全身の機能を低下させて、脳細胞の修復が行われます。脳が伝達神経もレベルダウンさせているので、この間に目覚ましが鳴ってもなかなか起きられませんし、無理に起きれば身体にとって危険な状態になります。
レム睡眠は、ノンレム睡眠中に低下した体温、心拍数、血圧などを戻して生体を維持する時間なのです。
まとめ
無理なくスッキリと早起きをするためには、体内時計が司る体温や睡眠のリズムが大きく関係していることをおわかりいただけましたか。気持ちのよい早起きは良質の睡眠がもたらすものです。
よく言われることですが、良質な睡眠とは何時間の睡眠なのでしょうか。
もちろん個人差はありますが、理想的な睡眠時間は、90分×5セットの7時間半というデータがあります。死亡率やアルツハマー病の原因、ダイエットなど多くの観点から、7時間半という睡眠時間を理想的とする結果が出ているのです。
早起きが苦手という人は、7時間半の睡眠をとり、朝の光を浴びて体内時計をリセットする生活に切り替えてみたらいかがでしょうか。
【参考資料】
『体内時計を調節する技術』(フォレスト出版・2011年)
『明日から「朝型人間」になる!』(ソフトバンククリエイティブ・2012年)