イライラや不安を体質や性格のせいにして、あきらめてしまっていませんか?
現代は脳疲労の時代と言われます。過度なストレスや無理のある生活習慣が原因となって自律神経のバランスを崩し、イライラで悩む人が激増しています。
イライラをなくすためには疲労した脳を回復させて、自律神経の乱れを解消しなければなりません。
自律神経は自分の意志どおりにはならない神経ですから、自律神経失調症になってしまうと回復には時間を要します。ですから重度な症状を招く前に、脳疲労を解消させる必要があるのです。
ここでは、脳疲労を回復させる簡単なストレッチと、脳疲労を防ぐ生活習慣を解説します。
目次
1 脳疲労とイライラの関係
1-1 イライラの原因となるストレス刺激
1-2 脳疲労とホメオスタシス
1-3 イライラ解消のカギとなる脳幹
2 脳の疲れを取るストレッチ
2-1 脳の疲れを取る「ホメオストレッチ」とは
2-2 脳の疲れを取る症状別ストレッチ
脳の疲れを取る症状別ストレッチ1 物忘れ
脳の疲れを取る症状別ストレッチ2 決断不足
脳の疲れを取る症状別ストレッチ3 緊張
脳の疲れを取る症状別ストレッチ4 他人の言動
脳の疲れを取る症状別ストレッチ5 不安
脳の疲れを取る症状別ストレッチ6 思い通りにいかない
脳の疲れを取る症状別ストレッチ7 逃避願望
脳の疲れを取る症状別ストレッチ8 思考の低下
脳の疲れを取る症状別ストレッチ9 目の疲れ
脳の疲れを取る症状別ストレッチ10 胃腸の痛み
3 脳の疲れを取る食事法
脳の疲れを取る食事法1 禁止を禁止する快食療法
脳の疲れを取る食事法2 お腹がすいたときに食べる
脳の疲れを取る食事法3 好きなものを満足するまで食べる
脳の疲れを取る食事法4 最後まで楽しく食べる
脳の疲れを取る食事法5 甘いものも思う存分食べる
4 脳疲労を防ぐ生活習慣
4-1 快適スイッチを見つける
4-2 時間の流れを感じる
4-3 動物的な感覚を磨く
4-4 人間関係のストレスを回避する
あとがき
1 脳疲労とイライラの関係
イライラの原因はストレスです。
野生動物は敵に遭遇すると、素早く反応するために血圧が急上昇し、血液中のブドウ糖も急増してエネルギーが溜まり、戦闘または闘争の姿勢をつくります。
戦闘に勝って敵を追い払うか逃走して安心すると、血圧は下降し、急増したエネルギーは運動によって消費されるので、筋肉の緊張もゆるみます。
動物の場合はこうしてストレス状態から解放されます。しかし人間は、ストレス状態になっても戦闘したり逃走したりすることがなかなかできません。対象が社会の構造や人間関係といった複雑な要因にあるからです。
ストレス状態が続くと、脳や身体を疲れさせてイライラ状態になるのです。
1-1 イライラの原因となるストレス刺激
人間の体には、外部の環境が変わっても身体の内部環境を一定に保って生命を維持しようとするしくみがあります。
この機能はギリシャ語の「ホメオ(一定)」「スタシス(状態)」を組み合わせて「ホメオスタシス(恒常性維持機能)」と呼ばれます。
・内分泌ホルモン系ではホルモンの分泌を促す
・筋肉系では筋肉を緊張させたりゆるめたりする
・免疫系ではウィルスや細菌を叩く
これら4つの内部環境を変化させることによってホメオスタシスは機能していますが、過度なストレス刺激によって機能が低下すると内部環境のバランスが崩れてしまいます。
バランスが崩れたときの最初のサインがイラッとする感情なのです。
1-2 脳疲労とホメオスタシス
常に体が安定した状態を維持するためには、イライラしたら脳の疲れを解消してホメオスタシスを機能させなければいけません。
イラっとする感情は、脳が「このままではいけない」と教えてくれているサインですから、そのサインを感知したらイライラを解消すればいいわけです。
健全な状態では、イライラのサインを受け取るとホメオスタシスが機能して、ストレス刺激の要因となっている外部環境に適応しようとします。
しかし、このサインを放置するとアラームが鳴りっぱなしの状態になり、脳が疲れて内部環境のバランスは崩れていくのです。
1-3 イライラ解消のカギとなる脳幹
ホメオスタシスのカギを握るのは、脳の中でも大脳の下側にある脳幹と呼ばれる部分です。脳幹を常に活性化させていれば、ストレスに負けず、イライラしない生活が送れるようになります。
間脳、中脳、橋(きょう)、延髄からなる脳幹は、生命活動の中枢を担い、身体の姿勢、生きる意欲、好奇心、探求心などと深いかかわりをもちます。
ストレス状態が続いて脳幹に疲労が蓄積すると、ホメオスタシスの機能が低下して「やる気」「意欲」「行動力」などが損なわれてしまします。
2 脳の疲れを取るストレッチ
脳幹の活性化にもっとも関係が深い筋肉は「抗重力筋」と呼ばれる筋肉です。
抗重力筋とは、重力に対抗して身体を支えている筋肉です。打表的なものは、背中(脊柱起立筋)、お腹(腹直筋)、お尻(大臀筋)、太ももの前(大腿四頭筋)、ふくらはぎ(下腿三頭筋)の5カ所。
人間は大きな脳を支えて二足歩行するために抗重力筋が発達しました。脳が疲れてくると抗重力筋が衰えるというように、両者は密接な関係にあります。
2-1 脳の疲れを取る「ホメオストレッチ」とは
筋肉から神経でつながっている脳に働きかけて、ホメオスタシスの機能を活性化させるストレッチを「ホメオストレッチ」と呼びます。
ストレッチとはいっても、筋肉を伸ばすことを目的とする一般的なストレッチとは違い、脳を活性化させて人間が本来もつ力を引き出すことが目的となります。
ホメオストレッチをすると、脳内麻薬とも呼ばれるベータ・エンドルフィンが脳内に分泌されてリラックス状態になり、イライラは解消されます。
2-2 脳の疲れを取る症状別のストレッチ
ひと口にイライラと言っても、その原因となるストレスを招くものにはいろいろな状況や環境があります。症状によってストレスが脳のどの部分を疲労させているのかを知り、その部分に働きかけるストレッチをしてみましょう。
ここで紹介するものはひとりですぐに始めることが可能で、そのほとんどが1分もあればできるものばかりです。仕事中の休憩時間や家事の合間に試してみてください。
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ1 物忘れ
物忘れがひどい、やる気が起こらない、腰痛といった症状が原因のイライラには、
・大腰筋(背骨と脚の付け根をつなぐ深層筋)
・腸骨筋(骨盤と脚の付け根をつなぐ深層筋)
をストレッチします。
② 顔を向けている方の膝下と反対側の脚を平行に保ち、膝が90度になるようゆっくりと脇に近づける
③ 筋肉の抵抗が強まったら5秒キープ、元に戻して反対側も行う
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ2 決断不足
迷って決められない、自分の意志で決められないといった症状が原因のイライラには、
・腹直筋(腹部前面にある筋、よく言う「シックスパック」のこと)
をストレッチします。
② そのまま膝を顔に近づけて10秒キープ、3回繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ3 緊張
面接や試験のなどに貴重してしまい実力を発揮できない、冷静になれなくて集中できないという症状が原因のイライラには
をストレッチします。
② 1カ所あたり5秒キープしてふわりと離し、3回繰り返す
③ 反対側も同じことを繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ4 他人の言動
人間関係がうまくいかない、人に対して感情的になってしまうという症状が原因のイライラには、
をストレッチします。
② そのまま左ひじを脇腹に近づけるようにして体を横に倒し、10秒キープ
③ 3回繰り返したら反対側も同じ要領で繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ5 不安
自分が信じられず不安、自分を責めてしまうという症状が原因のイライラには、
・腹直筋(腹部前面にある筋、よく言う「シックスパック」のこと)
をストレッチします。
② 枕を腰の下に異動させて同様に60秒キープ
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ6 思い通りにいかない
仕事などが思い通りにいかず、自分だけが大変だと感じてしまう症状が原因のイライラには、
をストレッチします。
② 息を吐きながらうつ伏せに戻り、3回繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ7 逃避願望
なにもかも投げ出して逃げたくなる、問題から目をそらしてしまうといった症状が原因のイライラには、
をストレッチします。
② そのまま上半身を前に倒して10秒キープ、3回繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ8 思考の低下
ぼーっとして思考が進まない、いいアイデアが浮かばないといった症状が原因のイライラには、
・肩や上腕、背中の筋肉群
をストレッチします。
② スッと力を抜いて3回繰り返し、反対側も同じ要領で繰り返す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ9 目の疲れ
眼の疲れによる頭痛、液晶画などを長時間見て疲れたといった症状が原因のイライラには、
をストレッチします。
② 腕を前に伸ばして指先を30秒見たら、自分の周りで一番遠くにあるものを30秒見る
③ 瞬きをしながら目を右回りで3周ぐるぐる回し、左回りでも3周回す
●脳の疲れを取る症状別ストレッチ10 胃腸の痛み
胃腸が痛む症状が原因のイライラには、
をストレッチします。
② おへその周りを60度ずつ移動させながら同じことをして一周する
3 脳の疲れを取る食事法
五感に働きかける脳疲労解消法の中で、もっとも簡単に始められるのが「快食療法」です。
「療法」などと呼びますが、とても簡単です。
お腹がすいたときに、好きなものを好きなだけ美味しく食べる。ひと言で表すとそれだけなのです。
脳の疲れを取る食事法1 禁止を禁止する快食療法
「快食療法」で守らなければいけないのは、以下の2点です。
・自分にとって心地よいことをひとつでも始めること
禁止を禁止することは大脳新皮質の負担を減少させ、心地よいことをするのは大脳旧皮質の回復につながります。
嫌なことはしない、嫌いなものは無理して食べないというのが禁止の禁止。そして、健康に悪い習慣であろうが、好きなら続けるのです。簡単に聞こえますが、理性にとらわれているとなかなか難しいものです。
脳の疲れを取る食事法2 お腹がすいたときに食べる
1日3食という概念を捨ててください。朝・昼・晩と決まった時間に食べる必要もありません。
お腹がすいたら食事をするというのが本来の食事法なのです。自然界に太った動物がいないのは、お腹がすいたら食べるという本能に従っているからです。
「快食療法」は、乱れてしまった人間の習慣を本能に近づけるものなのです。
脳の疲れを取る食事法3 好きなものを満足するまで食べる
お腹がすいたら、好きなもの、食べたいものを食べます。「これでいいか」ではなく、「今日はこれが食べたい!」と思ったものを食べた方が食事は楽しいに決まっています。
「健康のためにガマン」なんて必要ありません。「腹八分目」も必要ありません。心ゆくまで食べて満足感にどっぷりつかってください。
満足感が高ければ高いほど、脳は活性化します。
脳の疲れを取る食事法4 最後まで楽しく食べる
食事を始めたら、味覚に集中します。他のことを考えたりせず、美味しさだけを徹底的に楽しむのです。
テレビを見ながらなどの「ながら飯」も、できればやめたほうが効果的です。周りの人にも一切気を使わないで最後まで楽しみましょう。
一緒に食事をする家族などには、事情を説明して「食べ過ぎじゃないの」などと言われないような環境を作っておきましょう。
脳の疲れを取る食事法5 甘いものも思う存分食べる
食後にはデザートを好きなだけ食べましょう。とくに甘いものは少量でも充足感を増すので、脳に与える満足感も大きくなります。
甘いものが好きだったらたっぷり食べます。「こんなにたべてしまった」というような罪悪感はいけません。罪悪感を持つとストレスが溜まり脳は疲れてしまいます。
どうしても罪悪感をもつようでしたら食べないことです。なにも悪いことなどしていないのですから「美味しかった! ごちそうさま!」と口に出して脳に満足感と幸福感を味あわせましょう。
4 脳疲労を防ぐ生活習慣
ここからは、生活の中に五感で脳を活性化させる習慣を取り入れて、脳疲労を防ぐ方法を紹介しましょう。体の内面を充実させて生活の中に余裕を作り、心と体を自由にすることが目的です。4つのキーワードを解説します。
4-1 快適スイッチを見つける
日頃から自分にとって快適なことを用意しておいて、必要となったときに「快適スイッチ」を押せるようにしておきます。
楽しいことをやっていれば能率も上がるし、疲労も少ないのですが、どんなことでもも楽しいと思って取り組めるかといえば、なかなかそういうわけにはいきません。
「快適」の入り口は、自然に触れて季節の匂いを嗅ぐ、空を見上げて子どもの頃に見た雲を思い出す、小鳥のさえずりに耳を傾ける、というようなちょっとしたリラックスにあります。自転車でも散歩でもドライブでも、自分なりにリラックスして脳を切り替えられる方法を見つけるのです。
わざわざ新しいことを始めなくても、通勤を散歩にしてしまっても、軽い運動にしてしまってもいいのです。「健康のために」とか「脳疲労のために」などと考えると余裕がなくなってしまいますから、気持ちいいことをするようにしましょう。
いくつも「快適スイッチ」があれば、遊び心をもって仕事や家事をすることができます。要は、気持いいことをして満ち足りた生活を送るということなのです。
4-2 時間の流れを感じる
現状を冷静に把握して落ち着き、できることから行動を起こすことによって、時間の流れを意識しながら快適に生活できるようになります。
時間に追われて生きている現代人は、なかなか時間の流れを感じる余裕をもてません。
具体的な方法としては、
眼を閉じて聴覚に集中してもいいですし、じっと動かず皮膚の感触に集中してみるのもいいでしょう。五感を研ぎ澄ませ、ひとつでも解放できるように集中してみましょう。
自分自身が見えなくなってきたと思ったら、休憩して一歩退いてみます。気持ちに余裕が生まれて進むべき道が見えてくるものです。
自分にあった休憩の取り方を見つけると、時間的な余裕を手に入れることができます。
4-3 動物的な感覚を磨く
「視覚」「嗅覚」「聴覚」「味覚」「触覚」の五感に積極的な働きかけをすることで、脳疲労を防ぎます。
情報があふれた現代は、直観で物事を判断する能力を低下させます。
人間が本来もっている本能や感覚を磨けば、楽しく生き生きとした生活を送れるようになり、結果として脳疲労を防ぐことができます。
・視覚には美しいものや景色を見るアートセラピー
・聴覚には好きな音楽を聴くサウンドセラピー
・触覚には手当てを効果的に用いるタッチセラピー
味覚にかんしては食事法のところで解説します。
4-4 人間関係のストレスを回避する
相手のことを肯定して好きになり、相手に応じた距離感を保つことで、よい関係が築けるようになります。
現代人が抱えるストレスの最大の要因が人間関係にあります。しかし、自分の意識を少し変えるだけで人間関係が楽になることも多いのです。
まず自分を好きになること。飾らないありのままの自分を受け入れるのです。自分を好きになって自分の良さがわからなければ、他人の良さを認めることは難しいのです。
次に、相手の言動をすべて受け入れてみましょう。相手の意見が間違っていると思っても、まず受け入れて肯定してから自分の意見を述べるようにします。異なる意見をもっているからこそ、お互いに刺激し合えるいい関係になるのです。
そして、相手との距離を急いで縮めないことです。お互いに理解を深めていけば、自然と少しずつ距離は縮まっていくものです。
あとがき
いかがですか。どれも簡単にできることじゃありませんか?脳疲労を予防する生活習慣をつくって、日々のストレスにはホメオスタシスの機能維持で対処する。これが脳の疲れを取る理想的な生活です。
「脳の疲れをとらなければ」などと思うこと自体がストレスになるわけですから、ストレッチにしても気持ちいいからやる、生活習慣にしても楽しいから始める、という考え方が大事なのです。
結局、昔から言われるように笑顔を忘れず、毎日を楽しんで生きることが一番の健康法なんですね。
【参考資料】
『脳の疲れをとるストレッチ』(扶桑社・2014年)
『脳疲労に克つ』(角川SSコミュケーションズ・2008年)