会社設立の際に必要な手続きのひとつが「法人登記」です。
法人登記は法律で義務付けされており、自社の概要を広く一般に公表し、法人として公的に認めてもらう制度になります。
また法人登記を行うことにより、法人登記の正式な証拠となる「登記事項証明書」を法務局で発行することが可能です。
今回は株式会社のケースにスポットを当てて、法人登記の入門編、基礎知識をまとめてみたいと思います。
目次
1 法人登記とは
1-1 登記はなぜ必要なのか
1-2 登記に記載する事項について
1-3 やるべきことは何か
1-4 法人登記が完了するまでにかかる日数
1-5 法人登記にかかる費用
1-6 法人登記は自分でやるべきか、専門家に依頼すべきか
2 法人登記までに行うべきこと
2-1 会社を設立する
2-2 定款を作成する
2-3 資本金の払込
2-4 登記申請をする
3 法人登記の方法と必要な書類
3-1 定款
3-2 資本金の払込を証明する書面
3-3 株式会社設立登記申請書
3-4 就任承諾書
3-5 印鑑届出書
3-6 役員の印鑑証明書
4 法人登記が必要なとき
4-1 住所変更をしたとき
4-2 役員変更をしたとき
4-3 法人を解散するとき
5 法人登記情報はこんな風に活用される
5-1 法人登記にはさまざまな情報が記載されている
5-2 法人登記情報を活用する
5-3 法人登記情報からわかること
6 法人登記に使う住所について
6-1 コワーキングスペースが人気の理由
6-2 バーチャルフィスとの違い
6-3 コワーキングスペースのメリット
まとめ
1 法人登記とは
法人登記は法律で義務付けされています。自分の会社の概要について一般に広く公表し、法人として公的に認めてもらう制度、それが法人登記です。
法人登記は、法律で義務付けられていることからも分かるように、速やかに行わなかった際には、罰則として過料を納める必要が出てきます。過料の金額は、ケースバイケースです。裁判所で決定されることになっています。
法人登記を行うことで、法務局で「登記事項証明書」が発行できるようになります。登記事項証明書は、法人が正式に登記を行っている証拠となる書面です。
法人登記を行っていれば、銀行からの借入、取引先など対外的な信用度がアップするというメリットがあります。法人登記を行っていない場合は、印鑑証明の発行はできません。
1-1 登記はなぜ必要なのか
事業を行う上で、取引先の情報というのはとても大切です。それが新規の取引先ならなおさらです。インターネットの普及により、情報収集は手軽に出来るようになりましたが、取引先の情報という点で考えると、情報収集には限度があります。
そのため、あらかじめ一定の重要な事項を公示することにより、取引を促進させること、それが商業登記(法人登記、会社登記)の基本的な考え方なのです。
会社設立時に、一定の事項が登記されるのですが、設立以降に発生した登記事項の変更に関しては、法律上変更が義務付けられているので、常に会社の最新情報が一般的に公示されているという状態にあるのです。
1-2 登記に記載する事項について
法人登記においての登記事項は下記のようになっています。変更が生じた際には速やかに変更手続きをするのを忘れないこと、これが注意点です。
■商号(会社の名前)
■本店の住所
■資本金の金額
■発行可能株式の総数
■発行する株式の内容
■取締役の氏名
■公示方法について
などです。記載すべき事項は、会社の形態によって変わってくるので、モレのないようにするためには、定款の作成を専門家に相談することもひとつの方法です。
1-3 やるべきことは何か
手続きはとてもシンプルです。必要書類を作成し、添付、そして登記申請書を法務局へ提出すれば完了です。
法人登記は面倒な印象がありますが、この流れを見ると、簡単そうに感じますよね。
ステップとしてはシンプルなのですが、作成する書類が少し手間がかかるものが多いというわけです。
1-4 法人登記が完了するまでにかかる日数
法人登記申請は、書類に不備がなかった場合には、またあったとしてもスムーズに補正が完了すれば、7〜10日程度で完了します。登記が完了すると登記簿謄本を取得することが出来ます。
登記簿謄本を使ってさまざまな届出したり申し込みを行うことになるので、申請の段階で補正がたくさん発生しないようにきちんとした書類作りをすることが大切です。
1-5 法人登記にかかる費用
登記手続きを行う際には、特許免許税の納付が必要になります。取締役の変更登記が発生すれば、変更の度に費用が発生します。
資本金の金額が1億円以下の会社であれば10,000円、それ以上であれば30,000円かかります。その他、新株予約権を発行する場合には90,000円など、1回の変更にかかる費用が数万円単位で飛んでいきます。
登録免許税はかなり負担になるので、どうやったら少しでも節約することができるのかを調べておきましょう。例えば、変更はなるべくまとめるなどの工夫が出来る場合には、一緒のタイミングで変更登記を行えば良いのです。
一緒にできるものばかりではありませんが、少しでも負担を少なくするようにしていきたいものですよね。
1-6 法人登記は自分でやるべきか、専門家に依頼すべきか
会社設立の際には手間も時間もかかります。事業スタートに向けての準備もたくさんあります。そのような状況の中で、慣れない書類作り、しかも間違いがないようにしなければいけないものであれば、負担はかなりかかるものです。
資金に余裕があるのであれば、専門家に外注するという方法もあります。見積もりや相談は無料というケースも多いので、相談してみるのもひとつの方法です。費用はかかっても、時間と手間が省けるとなれば、そのコストが見合うものであるかどうかを検討してみるものいいでしょう。
2 法人登記までに行うべきこと
法人登記を行う前に、やっておくべきことを見ていきましょう。
2-1 会社を設立する
まずは、会社の設立です。会社の設立には発起設立と募集設立の2種類がありますが、耳馴染みのない単語という人もいるでしょう。少し、内容を説明したいと思います。
まず発起設立。こちらは、設立者やその家族などが資本金を自ら出して設立するという方法です。一方、募集設立とは、株主となる人を募集する方法です。発起人以外にも株主になってもらうという目的があります。一般的に多いのは、発起設立での会社設立です。
2-2 定款を作成する
定款とは、会社の憲法とも言われている、とても大切な書類です。会社のルールを決める上で、とても重要な役割を果たします。記載すべき事項は下記になります。
■商号(会社の名称)
■事務所の所在地
■設立時社員の氏名または名称および住所
定款は、法人であれば必ず作成する必要があります。株式会社の場合には、この定款を認証してもらうという作業が発生します。認証は公証役場で行われます。
2-3 資本金の払込
定款が認証されたら、会社の出資金の払込を行います。ここでの注意点は、誰がいくら払込をしたのかを分かるようにすることです。そのためには、個人名義が通常の明細に印字されるように、払込をする必要があります。
法人名義の銀行口座については、法人登記が完了しないと作成できないので、出資金の払込は、会社の代表取締役の口座に振込みます。
後日、登記所に払込があったことを証明する書面を提出するので、誰がいくら払い込んだのかということはとても重要な明細になります。
2-4 登記申請をする
定款を作成して、出資金の払込が完了したら、いよいよ法人登記の申請です。法務局で法人登記の申請を行った日が会社の設立日となります。会社の設立年月日にこだわりたい場合には、注意が必要です。
3 法人登記の方法と必要な書類
法人登記の申請の際には、準備すべき書類がたくさんあります。会社の形態や状況に応じてその中身は少しずつ違いますが、基本的に必要になる書類は以下の通りです。
3-1 定款
「2-2 定款を作成する」で作成した定款です。
3-2 資本金の払込を証明する書面
「2-3 資本金の払込」で作成した書面です。
3-3 株式会社設立登記申請書
申請書はいくつか様式があります。発起設立なのか、募集設立なのか、取締役を設置するのかしないのかなどで違いがあるのです。
しかし、どの種類であっても作成はそれほど難しくありません。書式は、法務局の窓口で直接入手することもできますが、法務省のサイトからのダウンロードも可能です。
3-4 就任承諾書
1人だけでの会社の場合、発起人だけが取締役になる場合、定款に署名押印をするので、就任承諾書を改めて作る必要はありません。
必要になるのは、発起人以外の人間が取締役になる場合です。取締役が承諾したことを証明する大切な書面です。
3-5 印鑑届出書
会社の実印を作るための書類になります。
3-6 役員の印鑑証明書
印鑑証明は役員全員分必要になります。印鑑証明書の役割は、印鑑が登録されている実印であることを書面で証明することです。実印とは、きちんと申請をして受理されている印鑑のことを指します。
印鑑証明書で注意しなければいけないのは、有効期限があることです。発行日から3ヶ月以内が有効期限になっています。有効期限切れの証明書では効力がないので、注意しましょう。
4 法人登記が必要なとき
法人設立のとき以外にも、法人登記は必要になります。具体的にどのようなときに法人登記が必要なのでしょうか。
4-1 住所変更をしたとき
会社が引っ越しをした場合など、本店が移転することで住所変更となったときには、法人の登記のし直しが必要です。
会社の情報は常に最新情報でなければいけません。変更が発生した際には速やかに変更登記を行いましょう。
4-2 役員変更をしたとき
役員が変わったときにも法人登記を行います。辞任するケース、新たに就任するケースなど、変更の理由はさまざまですが、変更が発生したらすみやかに変更登記をしましょう。
4-3 法人を解散するとき
あまり考えたくはないですが、法人の解散時にも登記が必要になります。
5 法人登記情報はこんな風に活用される
登記した法人情報はどのように使われるのか、どんな役目を果たすのかについて、見ていきましょう。
5-1 法人登記にはさまざまな情報が記載されている
登記を行うと、法人や企業は広く世の中にその存在を認めてもらえるようになります。取引の主体となって企業活動を行うことが可能になるのです。登記は法人登記、商業登記などと呼ばれています。
登記の内容は、法人や企業の名称や商号、事業の目的、本店や事務所の所在地、発行している株式について、取締役や理事などの役員などです。これらの登記情報は、手数料を払うことで誰でも閲覧が可能です。
5-2 法人登記情報を活用する
法人登記の活用例の代表的なものと言えば、企業との取引開始の際に企業情報を確認することです。対象となる企業が、取引相手としてふさわしいかどうかを見極める手段のひとつとなります。
個人で言えば、住民票や戸籍といったところです。安全でスムーズな取引を行う際に有効活用ができます。
5-3 法人登記情報からわかること
法人登記情報からその企業のさまざまな状況を確認することができます。登記情報は変更がある度に登記変更の手続きをします。その履歴は、謄本上に残ります。
例えば、謄本に住所変更の情報がずらりと並んでいる登記簿をみたら、みなさんはどう感じますか?なぜこんなに引っ越しをしているの?とその引っ越しの理由について知りたくなるものです。
事業が大きくなるにつれて、広いオフィスに引っ越しているというケースでは気になりませんが、もし引っ越しの理由が分からない住所変更だとしたら、どんな会社なの?と少し怪しさすら感じてしまうかもしれません。
事業目的もチェックされる項目のひとつです。現在行っている事業にまったく関連していない事業が記載されていたら、一体何をしたい会社なのか?と気になります。
また、役員に関する事項に関しても、チェックされることが多いです。例えば、同じ時期に何人も辞任していたり、解任されていたりする場合には、会社の構成について疑問が出てきます。
このように登記は単なる形式的なもののように感じますが、実はこんな使い方、チェックのされ方をしているのです。見られ方が分かれば、作るときの参考になりますよね。
6 法人登記に使う住所について
法人登記に使用する住所の重要性というのは、前述で述べた観点からもお分かりいただけたでしょう。
最近はオフィスの形態も変わってきました。オフィスを借りたり、自宅で登記をしたり、さらにはレンタルオフィスやバーチャルオフィスまで登場しています。その中でも、特に注目され、人気を集めているのがコワーキングスペースです。
6-1 コワーキングスペースが人気の理由
コワーキングスペースは、オフィスを借りること、自宅を登記すること、レンタルオフィスを使うこと、バーチャルオフィスを利用すること、このすべての方法の良いとこ取りをしたスタイルとして注目を浴びています。
会社の登記を行うと、そこに記載された住所は会社と見なされ、どんな場所で登録していても営業などがやってくることがあります。法人登記をする際の選択肢は、つい最近までは、「自宅」もしくは「オフィス」しかありませんでした。
「自宅」を登記することのメリットは、賃料がかからないということです。しかし、会社として登記されれば、情報は公開されるので、個人情報が漏れるということにつながります。
一方で「オフィス」を借りて登記をする場合には、個人情報は守られることになりますが、毎月の賃料が発生します。起業する際には、なるべく初期費用はかからないようにしたいものです。節約のために自宅にするか、個人情報の保護のためにオフィスにするか、悩ましいところでもあります。
さらに、マンションなどの賃貸契約では、会社としての登記は禁止とされているケースもあります。自宅で登記をした場合には、引っ越しをすれば法人登記内容に修正が発生するので、印紙代が数万円発生することになります。
そこで、最近注目を浴びているのが、法人登記が可能なスペース、コワーキングスペースです。コワーキングスペースは注目されていますが、まだ浸透はしていないので、どんなサービスなのかを簡単にご紹介しましょう。
コワーキングスペースとは、レンタルオフィスの一種です。通常のレンタルオフィスは、ひとつの場所を小さくいくつかに区切って個人事業主などに貸し出している形をとっています。
コワーキングスペースは、空間を区切りません。イメージとしては、スペースの真ん中に大きなデスクをおいて、そのデスクを囲むようにして、輪になってそれぞれが自由に仕事をしているというスタイルです。
コワーキングスペースとは、“co-working space”です。この単語を見れば、オフィスの中のイメージも湧きやすいのではないでしょうか?
6-2 バーチャルオフィスとの違い
法人登記をする際には、バーチャルオフィスを使うというサービスもあります。登記のためだけにバーチャルオフィスを使用するというケースも多いですが、信用性に掛けるというデメリットもあります。
もちろん、すべての会社がそうであるというわけではありません。比較的新しい形態の会社であれば、バーチャルオフィスでの登記については気にならないということもありますが、取引先相手として、バーチャルオフィスを使用していることが与えるイメージというのは、考えておいた方が良いでしょう。
基本的には、バーチャルオフィスでの法人登記はおすすめしません。
コワーキングスペースは、バーチャルオフィスよりはコストがかかりますが、実際に存在するオフィスを登録するので、比較してみれば安心度は高くなると言えるでしょう。ただし、あくまでも参考までというくらいのおすすめ度です。
6-3 コワーキングスペースのメリット
参考程度にと紹介しましたが、コワーキングスペースのメリットをまとめておきます。
メリット1 価格が安い
まず、何と言っても価格が安いことがおすすめポイントです。オフィスとして使用せずに、法人登記だけで利用しても元が取れると感じるでしょう。最近出来たスタイルなので、きれいであるというメリットもあります。
利便性が高い場所にある場合も多いので、便利な場所でキレイという理想的なオフィスが手に入ります。みんなでシェアするので、情報交換の場所として利用できるのもうれしいポイントです。
メリット2 オーナーがいるので安心
オーナーが存在するので、何かと頼りになって安心です。
メリット3 登記許可は取得済み
登記許可取得済みなので、スムーズに法人登記をすることができます。
賃貸マンションなどでは、法人登記が禁止されているケースも多いので、高い家賃を支払っていても自宅を法人登記に出来ないことが多いのですが、コワーキングスペースは、オーナーに許可を得ているので、法人登記をしてもトラブルになりません。
まとめ
法人登記は、会社設立においてとても大切な手続きです。法人登記することで、会社の信用度は一気にアップします。法人として事業を拡大していくためにも、信用度というのはとても大切なポイントになります。
法人の形態はいくつかあり、準備する書類、申請に必要な手続きなども少しずつ違っています。自分がどのように事業を展開していきたいのかをしっかり吟味して、適切な形態を選び、法人登記を完了させて、起業を成功させましょう。
【参考図書】
「らくらく株式会社設立&経営のすべてがわかる本」(あさ出版)
「オールカラー 一番分かる会社設立と運営のしかた」(西東社)
「ダンゼン得する 知りたいことがパッとわかる 会社設立のしかたがわかる本」(ソーテック社)