決算書と呼ばれるものは、正式には「財務諸表」を指します。財務諸表は諸々の表で構成されていいますが、主なものとしては「損益計算書」と「貸借対照表」があります。
多くの人がチェックするのは、会社の“利益”がわかる「損益計算書」ではないでしょうか。経営判断をする上で、「貸借対照表」の出番は、実はそれほど多くないというのが現状です。あまりチェックしないから、見方もよくわからないという人も意外と多いようです。
今回は、財務も経理もあまり良く分かっていないけれど、起業するのでいろいろ知っておきたいという方に、分かりやすく基礎知識としてご紹介していきます。
目次
1 貸借対照表とは
1-1 バランスシートという呼び名が意味すること
1-2 貸借対照表の3つの要素
1-3 貸借対照表が読めるとこんなことが分かる
1-4 貸借対照表で知っておくべき3つの指標
1-5 貸借対照表では見えない価値とは
2 融資したくなる貸借対照表とは
2-1 借入金のない会社はない
2-2 銀行がチェックすべき決算書のポイント
2-3 注目されるキャッシュフロー計算書
2-4 融資したくない決算書のポイント
3 貸借対照表と資金繰りの関係
3-1 資金繰りが悪いとはどんな状態?
3-2 なぜ資金繰りが悪くなる?
3-3 使える資金があることがポイント
まとめ
1 貸借対照表とは
「貸借対照表」の読み方や、見るべきポイントを見ていく前に、まずは貸借対照表とは何かというところからはじめていきましょう。
1-1 バランスシートという呼び名が意味すること
貸借対照表は大きく分けて3つのグループから成り立っている、とてもシンプルな構成なのです。その3つのグループとは、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」になります。
貸借対照表を読むときに「右側、左側どっち?」なんて会話を耳にしたことはありませんか? 左側が「資産の部」、右側が「負債の部」と「純資産の部」になります。つまり、
という計算式が成り立ちます。左側と右側と呼ばれるそれぞれの合計額は一致するようになっているのです。
貸借対照表とは略してB/Sなどと表記されたり“ビーエス”と呼ばれています。Balance Sheetの略です。つまり左側と右側の合計額が一致することは、バランスが取れた状態であるということを意味しているのです。
最初に覚えるときには左側、右側といった覚え方でも◎ですが、起業して経営者となり外部に向けて決算書を提示するようになるのであれば、ここで、正しい呼び名を覚えておきましょう。
会計上のルールとして、左側を「借方(かりかた)」、右側を「貸方(かしかた)」と言います。左側、右側のバランス、つまり、借方と貸方が対象になっている、バランスが取れていることが、貸借対照表という名前の由来です。
1-2 貸借対照表の3つの要素
貸借対照表がどのようなものか分かったところで、今度は貸借対照表を構成する3つの要素について詳しくチェックしていきましょう。
1-2-1 資産の部
資産の部に含まれるのは、「現金」「預金」「売掛金」「商品」「車両」「建物」などです。厳密には違いますが、イメージとしては、売ればお金になるものです。現金や、現金になり得るものの総称を、資産と呼びます。
現金に近いものから並んでおり、下に行けば行くほど現金化がしにくいものという感覚で見てみましょう。資産の部もさらに分類されます。現金、または1年以内に現金化されるものを「流動資産」、それ以外のものを「固定資産」と呼びます。
1-2-2 負債の部
資産と呼ばれる部分はちょっとウキウキしますが、今度は負債の部について見ていきます。「将来返すべきもの、支払義務のあるお金」、これが負債の部に該当するものです。
資産の部と同様、さらに分類されます。1年以内に返済しなければならないお金は「流動負債」、それ以外は「固定負債」と呼びます。
1-2-3 純資産の部
「純資産の部」に当たるのは、会社を運営するための元手となったものと、運営することで得た利益の蓄積です。その大部分は、株主から提供される資金つまり、資本金になります。この部分に関しては、基本的には返済義務のないお金を意味します。
1-2-4 3つの構成要素が示すこと
貸借対照表を構成する3つの要素がどのようなものかを理解したところで、それが何を意味するのかという点を見ることにしましょう。
資金の調達方法が分かるのが、「負債の部」と「純資産の部」のグループです。調達した資金の運用方法がわかるのが、「資産の部」になります。
実際に具体的な数字で考えてみましょう。簡単な数字を使うので分かりやすいかと思います。
銀行からの融資で資金調達した金額・・・200万円
合計300万円
これが手元にあるとします。300万円のうちの200万を使って営業に使う車、営業車を購入、残りの100万円を運転資金として現金で手元に残すとします。この場合、
現金100万円 + 車両200万円 = 300万円
「負債の部」 + 「純資産の部」
借入金200万円 + 資本金100万円 = 300万円
という数式が成り立ちます。銀行からの借入金と自己資産の合計300万円で資金調達をし、200万円の車両と手元現金100万円で運用が行なわれているという構成になります。
1-3 貸借対照表が読めるとこんなことが分かる
ここまででだいぶ「貸借対照表」について理解できたと思います。基本を抑えたところで、起業した経営者が「貸借対照表」を読めた方が良いというのは、どうしてなのか、改めて考えていきたいと思います。知らないより知っていた方が良い、そういったレベルの話ではありません。
会社が倒産しないために必要なことは「資金繰り」です。何かの理由があり、一時的に赤字状態になったとしても、資金がうまくまわっていれば、その赤字をカバーできる資金があれば、倒産は避けられます。
利益は出ているし、見た目は黒字で潤っているという状態でも中身を見てみると、過度な設備投資や無理な投資などで資金がない、黒字倒産を招いてしまうことになるのです。「損益計算書」で分かることは結果としての損益です。
「貸借対照表」で分かることは、
(2)将来的にいくらの支払が発生するのか
(3)事業をスムーズに進めていくために使える投資金額はどのくらいなのか
という点です。貸借対照表で会社の現在、将来残るお金や投資への配分等が読み取れるというわけです。
1-4 貸借対照表で知っておくべき3つの指標
さらに具体的に「貸借対照表」のどの部分を見るべきなのかを知っておきましょう。会社を立ち上げて経営者となるのであれば、会社の安全性を見るために最低限知っておくべき指標です。指標は3つあります。
1-4-1 自己資本比率
自己資本比率とは、会社の中長期的な安全性を見ることができる指標になります。総資本(総資産)のうちのどの程度が自己資産でまかなわれているかを示しています。
パーセンテージは業種によって安全ラインが変わってくるものですが、一般的にはこの数値が15〜20%であれば、比較的安全であるといえます。安全ラインは業種によって違いますが、要注意ラインは業種に関わらず10%を切ったときです。マイナスになってしまえば、債務超過の状態になります。会社としてはとても危険な状態です。
1-4-2 流動比率
流動比率は短期的な安全性を見るための指標になります。流動負債は1年以内に返済しなければならないお金です。流動負債が大きくなってくると資金繰りが悪くなります。最悪の場合は倒産ということもあり得ます。
1年以内に現金化される可能性のある「流動資産」がどれだけ「流動負債」を上回っているのかを調べることがポイントとなります。その指標となるのが「流動比率」です。一般的なパーセンテージとして、120%を上回っている状態であれば比較的安全であるといえます。
1-4-3 手元流動性
耳慣れない言葉ですが、経営者として気をつけるべき指標がこれになります。倒産の危険度を表す指標です。即現金化が可能な資金が、月商×何ヶ月分あるのかを見るのです。
何ヶ月分というとかなり大きく感じるかもですが、目安としては会社を立ち上げ、軌道に乗って来たなという時期で1.7ヶ月分ほどあれば安全である=倒産の心配はないと言える数値になります。
即現金かできそうな資金はどのようなものを指すのか。手元現預金、すぐ売却できそうな資産、そして、すぐ借りられそうな資金、これらの合計を月商で割れば数値の算出ができます。
1-4-4 3つの指標に優先順位はある?
ここまで見てきたチェックすべき3つの指標に優先順位をつけるとすれば、
となります。手元にある動かせる資金がなくならないように管理することが大切です。基礎知識編では、最低限この3つの指標を覚えて、経営判断の材料に使ってみてください。
1-5 貸借対照表では見えない価値とは
貸借対照表は、経営判断をする上で大切な情報がたくさんつまっている重要な書類です。会社にたくさんお金をもたらす資産、これが良い資産であると言えます。貸借対照表には無形資産は計上されません。目に見えない資産=重要ではないということではありません。
数字では表すことができない、手に取ることができない無形資産がどれだけの価値を会社にもたらすのかということは、貸借対照表に出ていなくても理解しなければなりません。
2 融資したくなる貸借対照表とは
会社を経営していく上で借入は欠かせません。その借入の際に、「貸借対照表」は判断材料のひとつとなります。金融機関が資金を融資知るときにチェックするのは、自己資本。
自己資本が少なければ、会社の経営は安定しません。倒産する可能性が高くなるので、金融機関も融資を控えるようになるのです。
2-1 借入金のない会社はない
自社の収益だけでは資金が足りないときには、銀行からの借入で資金調達し、経営を行なっていきます。この銀行からの借入金は「他人資本」と呼ばれます。
バブル経済崩壊以降は、融資が難しくなったと言われています。融資を希望する会社に対して、金融機関は「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の提出を求めるのが一般的になったのです。
2-2 銀行がチェックすべき決算書のポイント
では実際に、銀行は決算書のどの部分をチェックして融資をするかしないのかを決めるのでしょうか?銀行がまずチェックするのは、貸借対照表の純資産部分です。つまり、自己資本がどの程度充実しているのかという点を見るのです。
そこで必要になるのが「自己資本比率」の算出です。自己資本比率が極めて小さい会社や自己資本率がマイナスの値になっている会社は、もはや自分の力ではどうにもできない会社です。他人資本に頼った不安定な経営しかできないと見てよいでしょう。つまり、倒産がちらついている危険な状態なのです。
融資は返済能力のある会社に対して行なうものです。資金繰りが苦しい状況でさらに借入をしたいというケースには、融資は控えるのが当然の流れ。借入を行なわなければ経営が成り立たない様な会社には、返済をする余裕はないはずです。
2-3 注目されるキャッシュフロー計算書
最近特に注目されて来ているのが「キャッシュフロー計算書」です。フリーキャッシュフローが多い会社であれば、借入金の返済は可能と見なされます。フリーキャッシュフローの作成そして開示は、義務付けられてはいませんが、銀行から融資を受ける際には提出を求められるのが一般的となっています。
2-4 融資したくない決算書のポイント
融資をしたくないと思わせてしまう決算書のポイントを簡単にまとめてみます。
◆売掛金ばかりが増加している
◆残高照明がついていない
◆会社は債務超過、個人に資産も残っていない
◆税金を支払っていない
◆自己資本比率が低い、もしくはマイナス
◆土地、投資有価証券に大きな含みゾンがある
などです。まだまだNGポイントはありますが、当てはまるものがあり、その理由付けができないようであれば、融資は難しいと言えるでしょう。
3 貸借対照表と資金繰りの関係
貸借対照表は資金繰りにおいて重要な役割を果たしています。経営者にとって資金繰りは一番大切な仕事といっても過言ではありません。いつも資金繰りのことで頭がいっぱいという経営者の方は多いはずです。資金繰りと貸借対照表の関係を見ながら、貸借対照表の重要性を確認していきましょう。
3-1 資金繰りが悪いとはどんな状態?
資金繰りが悪いとは、支出に必要な現金が十分にない状態を指します。資金繰りが悪い状態にならないために作成するのが資金繰り予定表です。
資金繰りに余裕がないときはもちろんのこと、資金繰りの改善を考えるとき、また経営向上のための判断を行なう際にも役立つので、もし、作成していないのであれば今すぐ作ることをおすすめします。
3-2 なぜ資金繰りが悪くなる?
資金繰りが悪くなる理由にはいくつかありますが、ひとつは収入を得るために支払う支出があり、その支払に充てるためのお金がまだ手元にない状態です。支払と入金にタイムラグが生じることにより資金繰りが悪くなることがあります。
タイムラグを加味した上での資金繰りを考える必要があります。支払とは単に売上を得るための仕入などの買掛金だけではありません。借入金の返済や、従業員の給与等も支払に入ります。つまり、収入を得るためには、それなりの支出が伴うということになることを意味しています。
3-3 使える資金があることがポイント
「貸借対照表」には、会社がどのようにお金を調達し、どのような形で保有しているのかを示す財務諸表です。どのようにお金を調達するのか、それが負債と資本。どのような形で保有するのか、それが資産を表します。
つまり貸借対照表を見れば、その会社がどのような経営をしているのか、どのような経済状況なのかということが分かるのです。
資金繰りという点から言うと、当然のことですが、資産としての現預金がたっぷりとあれば理想的です。しかし、何もしなくてもお金が出るというくらい会社経営には支出が伴います。
現預金以外の資産は、現状動かせるものではないお金(=キャッシュ)なので、直近の必要な資金としてはカウントできないのです。支払のために動かせるお金がない状態では、資金繰りはマイナスへと向かっていきます。売掛金も同じです。現状はまだ現金化されていないので、資金繰り上ではプラスの要因にはならないのです。
支払は現預金で行なうものです。会社を立ち上げたばかりの実績のない会社であればなかなか交渉が難しいかもしれませんが、支払にも時間の余裕を持たせる買掛金を取り入れるようにするのが理想的です。
とはいえ、それは時間的猶予のためのもの。支払は確実に発生します。しかし時間的に余裕ができることで、売掛金が現金化されるのを待つことができます。資金繰りがスムーズにそして楽になるというわけです。
資金繰りを良くするための方法としては・・・
◆売掛金が現金になるまでの時間はできるだけ短く設定
◆売掛金の回収は確実に行なう
◆短期借入などを有効活用する
◆利益を確実にしっかりと出すことで自己資本を充実化させる
などです。基本的な流れを作ることが、資金繰りをスムーズに行なうためには必要となります。貸借対照表臭い手は、借方では上の部分、つまり現金に近い部分を重視して、貸方では下の部分を重視するという感覚でバランスさせていくことが重要なポイントとなります。
ここまではあくまで一般論です。会社の業種、規模、今後の売上の見込みなどによって対応方法は変わってきます。しかし上記で述べたことは、バランスシートの基本、バランスを保つための基礎知識なので、資金繰りの基本形として覚えておく必要があります。
まとめ
資金繰りに悩むあまりに、いつもは見えているものが見えなくなるという状況にだけは陥らないように。会社の問題点は、決算書の中に数字としてしっかりと表れています。
「貸借対照表」の読み方、示すものをしっかりと理解して、会社経営をしていきましょう。
迷ってしまったら、専門家に相談して、書類を見て分析してもらい、的確なアドバイスをもらうことも検討しましょう。少し料金が必要になりますが、理由も分からずダラダラ続けることで負債が増えたなどということにならないようにすることが大切です。
【参考図書】
「ポケット図解 キャッシュフロー計算書がよ〜くわかる本」(秀和システム)
「実学入門 経営がみえる会計―目指せ! キャッシュフロー経営」(日本経済新聞社出版社)
「図解と設例で作成法を学ぶ これならわかるキャッシュ・フロー計算書」(日本実業出版社)
「マンガで入門! 会社の数字が面白いほどわかる本」(ダイヤモンド社)