現在、会社を経営している、あるいは経営に深く関わっている方で、会社の「資金繰り」に頭を悩ませているという方は少なくないでしょう。
特に、中小企業の場合、資金繰りはかなり深刻な問題です。窮地に陥ると、冷静さを失い、だんだんと歯車が狂っていき、気がついたらどの金融機関からも見向きもされなくなっていた―。
そんな状態になってしまう危険性と常に隣り合わせでやっていると、ついつい目先の資金欲しさで色んな話に飛びついてしまいやすいもの。
しかし、ちょっと待ってください。経営者が会社の存続のために良かれと思ってやったことが、あなたの会社を自滅させてしまうことがあるのです。
ここでは、140億円という巨大な負債を返済して会社を再建させたという経験を持つ経営アドバイザー・三條慶八氏の著作『あなたの会社のお金の残し方、回し方』(フォレスト出版)から、経営者が資金繰りに際して「やってはいけない10のこと」をご紹介します。目先の話に飛びつく前にぜひご一読ください。
目次
1 資金繰りでやってはいけないこと | 金融機関編
1-1 「保証協会付融資」に頼らない
1-2 政府系金融機関からは借りない
2 資金繰りでやってはいけないこと | 口座編
2-1 法人取引銀行の借入口座をメインの個人口座と同じにしない
2-2 会社の借入銀行口座を入金口座にしない
2-3 手形は借入口座で振り出さない
3 資金繰りでやってはいけないこと | 銀行編
3-1 銀行が紹介する認定業者に気をつける
3-2 経営改善計画を信用してはいけない
3-3 バンクミーティングの罠にはまらない
4 資金繰りでやってはいけないこと | 融資編
4-1 金利を恐れず、目一杯まで借りておく
4-2 共同担保でお金を借りない
まとめ
1 資金繰りでやってはいけないこと | 金融機関編
資金繰りをどうにかしなければと焦ると、目の前にやってきた融資の話にすぐに飛びついてしまいたくなるのが人情というもの。しかし、金融機関選びを間違えてしまうと、予想外の窮地に陥ってしまうこともあります。
ここでは、できるだけ頼らないほうがいい金融機関とは何か、そしてそれはなぜなのかをご紹介します。
1-1 「保証協会付き融資」に頼らない
あなたは、「信用保証協会」という機関を御存知でしょうか。銀行などの市中金融機関から、中小企業が融資を受ける場合に、その債務を保証してくれる機関のことです。そして、この信用保証協会が債務を保証した融資のことを「保証協会付き融資」といいます。
企業規模の小さい中小企業の場合、経営リスクが大きいため大企業に比べると融資が受けにくいというデメリットがあります。しかし、そんな中小企業でもスムーズに資金を調達できるよう、信用保証協会がサポートしてくれるというわけです。
しかし、この保証協会付き融資に、頼り切ってはいけません。なぜなら、あなたの会社が金利を返済できなくなった時、保証協会付き融資は民間サービサー(債権回収業者)に債権を売却しないからです。
信用保証協会をはさまずに直接銀行から融資を受ける「プロパー融資」なら、返済できなくなったときに債権が民間サービサーに売却され、その際、債権は圧縮処理されます。そのため、返済できなくなったとしても、最終的には債権額の数%の金額で債務を処理することが可能となり、それによって再起・復活の道が見えてくるようになるのです。
ところが、保証協会付き融資の場合、返済ができなくなってもそのような債権の圧縮処理が行われないため、債務者は延々と少額返済を強いられることとなるのです。
残債完済のために毎月数千円、数万円の返済を余儀なくされ、二度と復活できなくなってしまった中小企業の元社長はゴマンといるのです。
融資を受けるなら、できる限りプロパー融資を受けられる道を模索しましょう。そうでないと、最悪の場合、再チャレンジの道が閉ざされてしまいます。
1-2 政府系金融機関からは借りない
日本政策金融公庫などのいわゆる政府系金融機関は、民間金融機関に比べて「金利が低い」ことで知られています。そのため、融資を受ける際に、ほとんどの方が心理的に「借りやすい」と感じ、安易にすがろうとしがちです。
しかし、ちょっと待ってください。実は、政府系金融機関も、あなたの会社が返済できなくなったときに、民間サービサー処理をしない、つまり債権の圧縮処理をしないのです。
政府系金融機関から借りて返済に行き詰まった場合、自己破産などの法的処理をしない限り、債権・債務はゼロにはならないし、延滞金もどんどん加算されていきます。
債務は債務のままいつまでも残りますから、もし経営に失敗したら再チャレンジの芽はほとんどなくなると思っていいでしょう。
政府系は確かに「蛇口はゆるい」のですが、一度借りて返済できなくなると今度は「袋小路」に入って出ることができなくなるのです。
政府系から借りることは、こういった大きなリスクがあるということを理解しておくべきでしょう。
2 資金繰りでやってはいけないこと | 口座編
銀行などの金融機関から融資を受けるにあたり、自社の資産を守るために気をつけなければならないことはいくつもあります。
銀行は、あなたの会社を守ってくれる正義の味方というわけではありません。表では良い顔をしていても、裏ではあなたの会社に貸したお金を回収するために、いろいろな策を巡らしているものなのです。
ここでは、そういったリスクから自社を守るために、口座に関する絶対にやってはいけないことをご紹介します。
2-1 法人取引銀行の借入口座をメインの個人口座と同じにしない
社長の個人口座を、会社の取引銀行に作っている経営者は大勢いるでしょう。しかも、たいていの場合は、メインの個人口座だったりします。当然ながら、その銀行内部の人間は、その個人口座のお金の出入りを完璧に把握しています。お金の出入りということは、それはすなわち社長の活動履歴そのものであり、手の内を全て見せてしまっていることにもなります。
「銀行員がこちらの活動履歴をすべて掴んでいるなんて、個人情報保護の観点からいってあり得ないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、それはあまりにも人が良すぎます。行内の業務に関していえば、彼らに個人情報を保護しようというつもりはないと考えたほうがいいでしょう。
そして、自社が融資を受けている銀行に、経営者自身が自らの資産状況を全てさらけ出してしまっていると、時に痛い目に遭うことがあります。債務を返済して欲しい銀行からすると、その会社の経営者がいくらの資産を持っているかを知っていれば、いかようにも取引を持ちかけることができるからです。
例えば、「現在、債務超過になっていますが、定期預金として入れていただいている1000万円を返済に回していただいたら、新しい融資を検討してもいいですよ」と持ちかけられて実際にそうしたところ、あとで融資のことは頬被りされてしまったという人もいるくらいなのです。
わざわざ銀行に弱みを握らせるようなことはせず、個人口座と借入口座は別の銀行にするようにしましょう。
2-2 会社の借入銀行口座を入金口座にしない
これも前項で紹介したことと、同じことです。
会社の入金口座と、融資の借入銀行口座を同じ銀行にしてしまうということは、すなわち「売掛金のリストを相手先の銀行に差し出してしまう」ことを意味しています。
その銀行は、あなたの会社がどこから入金があるかを全部調べ上げてリストを作ることができ、返済が行き詰まった場合、いざとなればその売掛金を差し押さえようとしてくるでしょう。
これは、会社が所有する不動産の家賃収入の入金口座などにも同じ事が言えます。銀行は、あなたの会社にどれだけの家賃収入が「いつ」振り込まれるのかを掴んでしまいます。そうなれば、「いつ」差し押さえるのがベストかといったことまでわざわざ教えてしまっていることになります。
なるべく入金口座は借入銀行口座とは別にし、できるだけ分散させるようにしましょう。
2-3 手形は借入口座で振り出さない
建築業者などには、手形で取引している会社が多いのですが、そのうちかなりの数の会社がその手形を借入銀行で発行しているのです。
これも、前項までの説明の通り、できれば避けたいやり方です。手形商売自体がリスキーであることに加え、借入銀行と返済をめぐって対峙しているときには、その銀行によってとどめを刺されることがあるからです。
借入銀行で手形を発行してしまうと、入金されたタイミングでそれを抜かれて返済に充てられてしまい、一気に倒産へと追い込まれることがあるからです。
借入銀行と手形の一体化は、できるだけ避けておくほうが無難です。
3 経営者が資金繰りでやってはいけないこと | 銀行編
さて、資金繰りに頭を悩ませている人々が、必ずお世話になるといってもいいのが「銀行」です。しかし、前項で銀行を信用しすぎることの危うさに触れたように、借入先の銀行との付き合い方には要注意です。
ここでは、資金繰りを乗り切るにあたって、銀行とどのように付き合えばいいのかを見ていきましょう。
3-1 銀行が紹介する認定業者に気をつける
会社の経営が上手く行かなくなってくると、銀行は認定機関を紹介してくることがあります。返済のリスケや支援を行うためには、その認定機関の指導を受けながら「経営改善計画」などを作成する必要があるというのです。
これは、一見「救いの手」であるように見えます。経営が苦しくなっている企業へ、銀行の方から業者を紹介してくれ、経営状態を再建するための知恵を貸してくれるというのですから、すぐに飛びつきたくなる人もいるでしょう。
しかし、これもちょっと待ってください。その認定業者が必ずしもあなたの会社の味方とは限りません。銀行がわざわざ認定機関を紹介してきた場合、それは銀行側の「隠密」のような存在かもしれません。彼らは銀行員に代わってあなたの会社の資産状況をはじめとするさまざまな情報を手に入れようとする可能性があるのです。
認定業者を懐に入れてしまったことが、ゆくゆくは命取りになる。そんなことを避けるためにも、経営改善計画を作ってもらいたい場合は、自社に理解のある、銀行の息がかかっていない業者を探すことが必要です。
3-2 経営改善計画を信用してはいけない
前項で紹介した「経営改善計画」というもの自体、すぐに信用してはいけません。名前の聞こえはいいものの、実際には名ばかりの計画でしかない場合があります。
まず、認定機関に務めているのは、「事業」の経験、ましてや「事業再生」の経験をほとんど持っていない士業の人々です。実際に会社を経営していたことがあるわけでも、その経営を自ら先頭に立って再建させたことがあるわけではありません。
しかも、そうした人たちが銀行とつながっていたらと考えるとゾッとします。彼らの口にする「経営改善計画」は、銀行が絵を描いた「借入金返済計画」でしかないかもしれないのです。
口では経営を改善するといいながら、銀行にお金を返すことだけを第一義に考えて行動されては、会社が経営危機を乗り越え将来大きく発展する芽が摘まれてしまうかもしれません。
3-3 バンクミーティングの罠にはまらない
複数の銀行から融資を受けている場合、メインの銀行が「バンクミーティング」と呼ばれる会合を開いてほしいと要求してくることがあります。
バンクミーティングとは、銀行がリスケを行う際に、融資をした全ての銀行の担当者が集まり、リスケについての打ち合わせを行うことを言います。
このバンクミーティングによって、融資を行っている複数の銀行はリスケに関する要望を述べ合い、意見交換や質問を交わしていくのですが、このことが会社にとってアダとなるケースがあるのです。
単なる打ち合わせならば別に問題はないのですが、複数の借入銀行が一堂に会したのをきっかけに、「結託」してしまうことがあるからです。
こちらが、銀行ごとに違う言い分を話していた場合、結託されたことによってそれは全て露見してしまいますし、5行から借りていた場合、それまで個別の銀行と「1対1」の関係だったものが、気がつけば「1対5」という圧倒的に不利な立場に立たされることになってしまいます。
できることなら、バンクミーティングの開催は回避しつつ、銀行ごとに「Aさんはこうしてくれたのに、なぜそちらはこうしてくれないんですか」などと器用に立ち回ることが大切です。
銀行同士が結託してしまうと、会社の動向が全て筒抜けになって自由な身動きが取れなくなり、最終的にこちらの意見が全く通らなくなることがあるのです。
4 資金繰りでやってはいけないこと | 融資編
これまで正しいことだと思っていたことが、実は結果的に会社の首を絞めてしまうことだったということはよくあります。ことお金のことに関しては、多くの方が色々な勘違いを抱えたまま、生きています。しかし、会社のこととなれば「勘違いだった」では済まされません。
最後に、いざ融資を受けるとなった段階でついつい犯しやすい2つのミスについて紹介します。
4-1 金利を恐れず、目一杯まで借りておく
いざ銀行から融資を受けられるとなったとき、あなたは限度額ギリギリまで借りますか? それとも、「金利が大きくなるから」と考えて余裕を持って返済できる額しか借りないでしょうか?
多くの方が、後者を選んでしまっていますが、ちょっと待ってください。もし、あなたがこれから融資を受けるようでしたら、できれば前者を選択しましょう。
資金を分厚くすることができるなら、金利を支払ってでも手元現金は分厚くしておくに越したことはないのです。限度額ギリギリまで借りるのはもちろん、例えば2行に融資を申し込んで2行とも承諾の返事が得られた場合でも、どちらか1行から借りるのではなく2行両方から借りましょう。
そんなことをして大丈夫?という声が聞こえてきそうですが、むしろそうしないほうが心配です。
不測の事態というものはいつか必ずやって来ます。それは天変地異かもしれませんし、金融危機かもしれません。ある時を境にパッタリと銀行がお金を貸してくれなくなる、そういうことはいつ起きてもおかしくはないのです。
金利が高いのは確かに苦しいかもしれませんが、手元現金がなくなっては元も子もありません。会社が黒字でも資金が尽きてしまえば、その会社は終わりなのです。
ですから、どんな不測の事態が起きても乗り越えられるように、手元現金はできるだけ分厚くしておきましょう。金利にビビって借りる額を小さくしたことが、あなたの会社の命取りになる可能性を考慮にいれてください。
4-2 共同担保でお金を借りない
銀行から融資を受けるのに、会社が所有している不動産を担保に入れるという方は多いと思います。
しかし、気をつけなければならないのが「共同担保」です。共同担保とは、同一の債権の担保として2つ以上の不動産に抵当権を設定すること。
例えば、1億円の融資を受けるときに、5000万円の価値があるA物件と同じ5000万円の価値があるB物件のそれぞれに5000万円ずつ担保を設定するのではなく、融資1億円に対してA・B両物件を共同で担保に設定することを言います。
この共同担保は、できるだけ回避してください。なぜいけないのかというと、1億円の融資に対してそれぞれ5000万円の価値を持つA・B両物件を共同担保にした場合、銀行は両物件それぞれに1億円の根抵当権を設定します。ということは、他の銀行から見たときに、その両物件にはすでに担保余力が残っていないと判断されてしまい、それ以上担保を設定しようとはしてくれないからです。
それなら5000万円分くらい返してしまえばいいのではないか?と思う方もいるかもしれません。しかし、借りた1億円のうちの5000万円をすでに返済している場合でも、両物件に1億円の根抵当権がついた状態は維持されてしまうのです。
これでは、担保余力があるのにそれを使えないという事態に直面してしまいます。
ですから、1億円の融資を受けたい場合には、A物件で5000万円、B物件で5000万円というふうに別々に担保設定をしてもらいましょう。
そうすれば、5000万円を返済した場合、どちらかの担保が外れるので再びその物件を担保にして融資を受けられるようになるのです。これから融資を受けようとする方はぜひ気をつけてください。
まとめ
会社を経営している多くの方にとって、資金繰りは大きな悩みの種。とはいえ、美味しい話に考えもなしに飛びついてしまうと、自分の会社を危機的な状況に追い込んでしまうこともあります。
【参考書籍】
『あなたの会社のお金の残し方、回し方』(三條慶八著・フォレスト出版)