手軽に体幹を鍛える方法があったら知りたいですよね?
体幹とは、頭と腕と脚を除いた胴体のことで、体の中心となる部分です。身体を支えている体幹のゆがみは、頭痛、肩こり、腰痛にはじまる様々な体調不良の原因になります。体幹を鍛えた結果、
・頭痛や肩こり、猫背や腰痛が解消した
・血液循環が改善されて基礎代謝が上がり、太りにくい体になった
・深層筋を強化することで内臓の働きが活発になった
といった効果が報告されています。
体幹を強くして、スポーツなどのパフォーマンスを上げるという話もよく聞きますよね。
「でも、厳しい筋トレはなかなか続かない」と思っている人もいるでしょう。しかし、そうした不安は払拭してください。ここでは、意識的に姿勢を整えることによって、体幹が強化できる方法を解説します。
目次
1 正しい姿勢とは
1-1 美しい姿勢と正しい姿勢の違い
1-2 問題点が多いモデル姿勢
1-3 正しい姿勢の3つの条件
1-4 健康になる正しい姿勢の特徴
2 体幹を鍛える方法ー7つのポイント
体幹を鍛える方法1 背骨
体幹を鍛える方法2 仙骨
体幹を鍛える方法3 股関節
体幹を鍛える方法4 首
体幹を鍛える方法5 肩
体幹を鍛える方法6 腰
体幹を鍛える方法7 呼吸法
まとめ
1 正しい姿勢とは
体幹を鍛えるために「姿勢を整える」「姿勢を正す」といった場合、どのような姿勢を目指せばいいのでしょう。
背筋が伸びている姿勢でしょうか?
目的を明確にする必要がありますね。
体幹を鍛える7つのポイントを解説する前に、「正しい姿勢」の定義を明らかにしましょう。
1-1 美しい姿勢と正しい姿勢の違い
一般的に正しい姿勢といった場合には、「見た目が美しい」ことを重視しがちです。しかし、「ムリがない」「体に良い」という要素も大切です。
正しい姿勢の定義は条件や目的によって変わってきます。
・表現したい演技などが際立つことを目的とする「役者にとっての正しい姿勢」
・パソコン仕事を続けても疲れにくいような「デスクワークにとっての正しい姿勢」
それぞれ、正しいと判断をするポイントが違いますよね。
美しい姿勢と正しい姿勢は一致しないといいうことなのです。まずはしっかりと、この区別を理解しましょう。
1-2 問題点が多いモデル姿勢
例えば、見た目がいいモデル姿勢は、体に良い姿勢ではないケースが多いのです。
モデル姿勢に多いのは、背筋を伸ばした軍隊式の直立不動姿勢で、大きく胸を張るのが特徴です。胸を張る姿勢には、次のような問題点があります。
・胸を突き上げた姿勢を維持するので常に背筋に力が入っており、背中に痛みを抱えやすい。
・胸を突き上げることによって胸が圧縮された状態になり、呼吸が浅くなる
1-3 正しい姿勢の3つの条件
「体に良い」正しい姿勢の条件は、次の3点です。
●疲れにくいこと
長い時間とる姿勢なので、体に優しく楽でなければいけません。人に見られていなくても、自然にその姿勢でいたいと思えるような姿勢です。
●特定な部分に過剰な負担がかからないこと
全身で負担を分散していなければいけません。
●動きやすいこと
全ての動作がムリなく始められなければいけません。
1-4 健康になる正しい姿勢の特徴
前項の条件を満たして体幹を強化することができる正しい姿勢は、次のようなものです。
・見た目はすらっと自然で美しい
・目線を正面にすえた状態で頭が身体に乗っている
・背中はゆったりとしたS字カーブを描き、お腹は軽くひきしまった状態
・肩からは力が抜けていて、腕の重さを感じ取れる
・下半身はほぼ垂直
具体的にどの部位をどうすればよいのかということは、次の章で解説します。
2 体幹を強くする7つのポイント
体幹の強化には、腹筋や背筋など体幹の筋肉を鍛える方法があります。しかし、筋肉の強化は時間がかかりますし、トレーニングを続けなければ衰えてしまいますから、ハードルが高いです。
その点、姿勢を整えて体幹を強化する方法は、気軽に始めることができて、日頃から正しい姿勢を意識することさえ忘れなければ、誰でも続けることができます。
さらに、体幹を支えている深層筋(身体の表面近くではなく骨に近いところにある筋肉)を鍛えることもできます。
ここからは、「背骨」「仙骨」「股関節」「首」「肩」「腰」という体幹の部位に「呼吸法」を加えた7つのポイントで体幹強化の方法を解説していきます。
2-1 背骨
姿勢を整えるために最も重要となるのが背骨です。身体全体の柱であり、脳から伸びる中枢神経の通り道でもあります。
2-1-1 背骨の構造
人間の背骨は、上から7つの頸椎、12の胸椎、5つの腰椎、仙椎、尾椎で構成されています。全体的にゆるやかなS字カーブを描いて、身体にかかる重力を逃がす構造になっています。
胸椎のカーブがゆるんで大きくなった状態が「猫背」で、呼吸が浅くなる、血流が滞るといった悪影響をもたらします。
また、腰椎のカーブがゆるんで大ききなった状態が「反り腰」で、腰まわりの筋肉を緊張させる原因になります。
2-1-2 背中側の筋肉を使うと有利
正しい背骨のカーブを維持できると、神経や血管が余計な圧迫を受けなくなり、頭蓋骨の位置も正常に保てるので、筋肉にムリな負担をかけません。
背筋を伸ばして正しいカーブを維持できると、体幹にある筋肉のうち、腹筋側よりも背筋側を意識して使うようになります。
腹筋側の筋肉群と背筋側の筋肉群は、どちらかに力を入れるともう片方には力が入らなくなる「拮抗筋」という関係にあります。そして、腹筋側よりも背筋側の筋肉のほうが3倍の厚みをもっています。
ですから、背中の筋肉を意識して使ったほうが効率的なのです。
背中の筋肉を活性化させることによって、首から腰にかけての深層筋を強化することもできます。
2-1-3 背筋を伸ばすトレーニング
正しい背骨のS字カーブは、壁を背に立ってかかとを壁に着けたときに、臀部(お尻)の出っ張り部分、胸椎の出っ張り部分、後頭部が壁に着く状態です。
この状態から、首と腰の後ろにできるすき間をゆっくりとつぶす動作を繰り返します。
2-1-4 仰向けに寝て行うトレーニング
仰向けに寝たら、立って行うときと同様に、首と腰の下にできるすき間をゆっくりとつぶすようにして数回繰り返します。
両腕は上げていても腰の方へ下ろしていても構いません。
2-2 仙骨
仙骨は骨盤の中心にある逆三角形の骨です。
2-2-1 上半身と下半身のつなぎ目
仙骨の上には背骨が乗って上半身を支えており、仙骨(腸骨・恥骨・坐骨の3つの総称)の左右を挟むように寛骨があります。
この逆三角形の骨は上半身と下半身をつなぐ位置にあって、上半身の重さを脚に伝えると同時に、脚の力を上半身に伝える重要な役割を担っています。
2-2-2 仙骨が締まると腰の反りがよくなる
仙骨と寛骨の関節は、骨盤の動きにおいて重要な役割をもっています。
身体が立った状態で仙骨が仰向くと骨盤の上部が開いて下部が閉じます。仙骨がうつ伏せの方向へ傾くと、逆に骨盤の上部が閉じて下部が開きます。
この、仙骨を仰向けて骨盤の下部を締める状態が、「仙骨を締める」という状態です。
仙骨を締めると、腰の可動域が狭くなって安定します。関節には可動域が広ければ構造的に弱く、狭ければ強いという特性があります。
ギックリ腰のほとんどは、仙骨を締めていない状態で腰に大きな負担をかけた場合に起こります。
2-2-3 身体を支えるための腹圧が高まる
仙骨を締めることによって、お腹部分の深層筋を強化することができます。
お腹の周りをぐるりと囲んでいる腹横筋、上側の横隔膜、下側の骨盤底筋群に囲まれた空間を「腹腔」といいます。
腹腔の内圧を「腹圧」と言います。腹圧を高めると、身体を内側から支える力が強くなり、体幹強化につながるのです。
2-2-4 仙骨を締めるトレーニング
仰向けに寝て、お尻の下にたたんだタオルなどを入れて両ヒザを三角に立てます。
両腕は上側にあっても腰側にあっても構いません。
この状態で腰の下にできるすき間をゆっくりとつぶす動作を数回繰り返します。
2-3 股関節
骨盤は、仙骨と寛骨で構成されます。
股関節は、寛骨の左右にある臼状のくぼみに、大腿骨の先の丸い骨頭が斜め下からはまっている部分です。
2-3-1 直立歩行に重要な股関節
人間が直立歩行できるようになったのは、脚を前後左右に振ったり、内外にひねったりできる可動域の広い股関節のおかげです。
大腿骨が骨盤の真下からつながっていないのは、人類の祖先が4足歩行していた名残りと言われます。
直立2足歩行に欠かせない人間の股関節と仙骨は連動していおり、股関節周りの筋肉には体幹に影響するものがたくさんあります。
2-3-2 仙骨の締めで強化されるお尻の筋肉
大腿骨の骨頭を支えている筋肉のひとつである臀筋(お尻の筋肉)は、歩行に大切な筋肉です。
仙骨を締めると臀筋を強化するこができます。大腿骨を骨盤に引きつけ、つながりを強くして固定することになるので、体幹が強化されるのです。
2-3-3 腸腰筋も強化して骨盤を立てる
仙骨を締めると、背骨と大腿部をつなぐ腸腰筋も強化して太くすることができるので、内臓が持ち上がり、ウェストが細くなります。
また、腸腰筋と太もも裏側のハムストリングという拮抗筋の働きがよくなるので、脚をスムーズに動かすことができるようになります。
さらに、骨盤が立った状態になって体幹が安定します。
2-4 首
首には多くの筋肉がついていて、それらが連動することによって、いろいろな方向に顔を向けることができるようになっています。
首は細い部位ですから、それぞれの筋肉は大きくありません。しかし、そこで約5kgもの重さがある頭部を支えているのです。
2-4-1 正しいアゴの引き方
正しい姿勢として、「アゴを引いた姿勢」がよく示されますが、間違ったアゴの引き方をしている人が多くいます。
正しいアゴの引き方は、頸椎全体を後ろに引く姿勢です。
首の後ろを膨らませるイメージで、背中のもっとも後方に張り出している胸椎の中ほどを胸側にへこませます。このとき、両肩が上がらないように意識してください。
アゴが正しく引けた状態を「首を後ろに固定」した状態と言います。
2-4-2 首を後ろに固定して首と肩の骨格を整える
首を後ろに固定することによって、背骨の上半分を整えることができます。上半身の軸が立って、体幹が強化されるのです。
首を後ろに固定すると、アゴを引かずに首を前に出している状態よりも首の可動域がせまくなったことを実感するでしょう。しかし、首がしっかりと安定する状態になり、動きも力強くなります。
頭が背骨によって正しく支えられる位置にくるので、首の筋肉にかかる負担が減り、首や肩のこりが解消します。
2-4-3 首を後ろに固定すると呼吸の効率が上がる
首を前に出した状態で呼吸をすると、胸部前面と腹部の筋肉が使われますが、首を後ろに固定した状態では、背中全体の筋肉を使うことになります。
呼吸は生きていればずっと続けるわけですから、この違いは体幹部の筋肉の強化に大きな差となって表れます。
腹筋側よりも背筋側の筋肉は3倍も厚いのですから、呼吸の効率も上がります。
2-5 肩
肩は、人間の複雑な手の動きにもっとも大きく関係する部位です。肩関節や肩甲骨が揺らぐと腕や手は機能を十分に発揮できなくなってしまいます。
2-5-1 腕を支える肩関節と肩甲骨
肩の関節は、上腕骨の骨頭が肩関節のくぼみに横からはまっている構造です。股関節と同様に可動域が大きな臼状の関節です。
肩甲骨は肩関節と三角筋という筋肉でつながっていますが、胴体とつながる関節は鎖骨とつながる部分のみで、ぶら下がっているような構造です。
それなのに腕を支える土台となっているのですから、肩関節や肩周りの筋肉には大きな負担がかかります。
2-5-2 肩甲骨を外に開いて腕の可動域を広げる
関節の可動域が狭ければ構造的に強くなるのですから、肩関節を強くして体幹を安定させるためには、意識的に肩関節の可動域がもっとも狭くなるようにしてやればいいのです。
肩を前に出しながら下に力を加えると、背中の肩甲骨が外に開いた状態になります。これが肩関節の可動域がもっともせまい状態です。
2-5-3 肩甲骨を開くときのポイント
肩甲骨を開くときには、重要な3つのポイントがあります。
(2)肩が上がらないように、肩甲骨を骨盤に向けておろすイメージで行ってください。
(3)必ず両肩を同時に行ってください。
2-6 腰
腰には、もっとも下の胸椎である12番から腰椎の3番を中心として前後左右に曲げたり、伸ばしたりひねったりする動きがあります。
この部分を強化することにとって、自分の体重をしっかり支えられるようになり、体幹のブレがなくなります。
2-6-1 体幹を強化する腰の固定とは?
首と同じように腰も固定することによって、可動域を狭くして構造的に強化し、脚の力をロスなく上半身に伝えることができるようになります。
首の後ろ固定で上半身の背骨を安定させ、仙骨の締めで骨盤を中心とした背骨を安定させただけでも体幹は強化されますが、さらに腰を固定することによって、体幹全体を一体化させて鍛えることが可能になります。
2-6-2 腰を固定させる方法
腰の固定は次のような順序で行います。
(2)重心を落とすようなイメージで腹圧を高めます。
(3)腰のもっともくびれた部分を後ろへ膨らませます。
腰の固定は慣れないとなかなか意識することが難しいかもしれません。その場合は、7つめのポイントである「逆腹式呼吸」先に習得すると、早く意識できるようになるでしょう。
2-7 呼吸法
呼吸が体幹の強化に与える影響はとても大きなものです。
呼吸には体幹にある多くの筋肉が使われるので、呼吸を見直すことによって深層筋の強化を図ることができます。
2-7-1 胸式呼吸と腹式呼吸と逆腹式呼吸の違い
日常生活では横隔膜を弱く動かすだけの呼吸で済みますが、緊張したり少し運動をしたりすると、横隔膜とともに首や胸周りの筋肉を使って酸素を多めに取り込むようになります。これが「胸式呼吸」です。
もう少し酸素を取り込む必要がでてくると、肩を上下させて筋肉を大きく動かす「肩呼吸」をするようになります。
激しい運動などでさらに酸素が必要になると、横隔膜をとても大きく上下に動かす「腹式呼吸」をするようになり、横隔膜が大きく下がるので腹圧が上がるようになります。
一般的な腹式呼吸は息を吸うときにお腹が膨らみ、吐くときにへこみますが、吸うときにお腹をへこませ、吐くときに膨らませるのが「逆腹式呼吸」です。
2-7-2 逆腹式呼吸の効果と方法
逆腹式呼吸は、胸式呼吸と腹式呼吸を合わせたものです。
胸式で息を吸って胸を膨らましてお腹をへこませ、吐くときは下腹部にむかってゆっくり肺の中の空気を落とすようなイメージで、胸をへこませながらお腹を膨らませます。
この呼吸法を「首の後ろ固定」「肩甲骨を開く」「仙骨を締める」と同時に行うと、吐くときに腹圧が高まって肛門が締まり、腰が固定されることが実感できるようになります。
体幹の深層筋を強化し、東洋医学で重視される「丹田」の開発も可能になる逆腹式呼吸は、姿勢を整えることによる体幹強化を完成させる切り札といえます。
慣れるまでは体幹の各部位を意識してゆっくり行ってください。最終的には1分間に100回のスピーディーな逆腹式呼吸をめざします。
まとめ
体幹を鍛える方法6の「腰の固定」と体幹を鍛える方法7の「逆腹式呼吸」は習得するまでに時間がかかると思いますが、あきらめずに軽い気持ちで続けてください。
それ以外の5つのポイントを毎日意識するだけでも、姿勢は十分に改善されて体幹を鍛えることができます。
知らぬ間に頭痛や肩こりから解放され、心肺機能や血液循環といった基礎代謝がアップすることでしょう。
体幹の強化には、ストレスを解消して精神を安定させる効果もあります。体幹を鍛えて柔軟な心と身体を手に入れましょう。
【参考資料】
『頭を5cmずらせば腰痛・肩こりはすっきり治る!』(角川マガジンズ・2012年)
『7つの意識だけで身につく強い体幹』(BABジャパン・2015年)