精神的に不安定な時期は誰にでもあるものですよね。
女性の場合は生理中や妊娠中、男性の場合は過労や職場環境の変化があった時などに多くなるようです。
子供の世話で疲れる時期も精神が不安定になりやすい時です。
精神的に不安定とは、英語で「be emotionally unstable」。
「emotionally」は感情的に、「unstable」は不安定という意味です。
精神的に不安定になるということは、感情が不安定になるということなんですね。
ここでは、なぜ感情が不安定になるのか、感情が不安定になるとどのような弊害が表れるのかということを理解して、不安やイライラを解消する方法、うつ病を予防するための見分け方などを解説します。
精神的に不安定な時を乗り越えるヒントとして参考にしてください。
目次
1. ストレスを理解する
1-1. ストレスは脳が身体を守る防御反応
1-2. ストレスと闘っても勝てない
1-3. 「快」の刺激でストレスを忘れる方法
2. 不安を解消する
2-1. 願望を満たす方法を考える
2-2. 自分ができることに目を向ける
2-3. 自分を大切にする方法
3. イライラを解消する
3-1. イライラが起こる5つの原因
3-2. 自律神経を理解する
3-3. 副交感神経を高める方法
4. うつ病を見分ける
4-1. 思考に表れる特徴
4-2. 行動に表れる特徴
4-3. 身体に表れる特徴
まとめ
1. ストレスを理解する
感情が不安定になるとストレスに悩まされる人が多くなりますよね。
精神的に不安定な時はストレスを溜めやすいのです。
現代はストレス社会だといわれるようになってから、企業や学校でもストレスチェックやストレスケアに力を入れるようになりました。
重度のストレスが心と身体に引き起こす弊害は、社会問題にまで発展してしまったからです。
精神が不安定なことによって抱えてしまうストレスは、うつ病や不安障害といった精神障害ばかりでなく、様々な内臓疾患やがんの原因にもなるので、習慣的なストレスケアが欠かせません。
そもそもストレスとは何なのか?
その原因やしくみを理解しておきましょう。
1-1. ストレスは脳が身体を守る防御反応
人間は、外部からの刺激を「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」という五感で受けます。
受けた刺激は、神経細胞を電気信号として伝わり、脳へと届けられ、記憶と照らし合わされてから、扁桃体という部位で「快か不快か」「好きか嫌いか」「美味しいか不味いか」「楽しいかつまらないか」といった判断が行われます。
ここでマイナスの感情が起こると、脳は自分の身に迫るであろう危機から身体を守ろうとしてホルモンを放出する命令などを出し、筋肉を緊張させ、心拍や呼吸を早めて酸素をたくさん体内に取り入れ、瞳孔を開き、臨戦態勢をつくるのです。
これが、本能的な非常事態への対処である「ストレス反応」と呼ばれるもの。
全身が強張るのですから、この状態が続くと疲労し、さらに続けば全身の各部位で異常をきたすことになります。
心と身体は切り離して考えられるものではありません。
精神的に不安定であることから体調を崩したり、逆にストレス反応で体調を崩すことによって、精神が不安定になることも多いのです。
1-2. ストレスと闘っても勝てない
よく使われる言葉に、「ストレスに負けない精神をもとう」「ストレスに負けない身体をつくろう」というものがありますよね。
でも、これは大きな間違い。
ストレスは負けるから弊害が大きくなるのでもなければ、勝つことができるものでもないのです。
ストレスの原因になっているマイナスの刺激は「ストレッサー」と呼ばれますが、これは自分の意思とは関係なく降り注ぐものなので、なくしたり消したりすることはできません。
「ストレス解消」という言葉がありますけれども、正確にいうと、これも間違いなのです。
ストレス反応は本能的な防御反応であり、勝とうとか向き合おうと考えればストレッサーから離れることができなくなって、さらなるストレスを生むことになってしまいます。
意識的に忘れようとしても同じことで、結局はストレッサーを思い出すことになるので、ストレスを重ねてしまうのです。
1-3. 「快」の刺激でストレスを忘れる方法
それでは、ストレスを軽減するにはどうしたらよいのかといえば、プラスの感情がわく刺激を自分に与えればいいのです。
扁桃体でプラスの判断がされるような刺激、「心地よい」「好き」「楽しい」「うれしい」「美味しい」という感情が起こる刺激です。
具体的にいうと、気持ちいいことや楽しいことをする、美味しいものを食べるということになるのですが、重要なポイントは「没頭」や「熱中」。
趣味に没頭したり、楽しいことに熱中したりすると、脳はストレスやストレッサーのことを忘れてしまうのです。
心地よいことや楽しいことをやめたら、またストレッサーを思い出すのではないかと思われるかもしれませんが、ストレス反応のピークは6秒後だといわれており、それ以降はゆるやかに収まっていくので、ストレスから意識をそらすことが大事。
ストレスを抱えそうな環境にはできるだけ身を置かないことや、どんなこともプラス思考で自分に都合よく考えることも、ストレスを減らして精神的に不安定にならないことにつながります。
2. 不安を解消する
精神的に不安定な時は、不安になりやすいですよね。
多少、不安な気持ちになっても、後を引かなければ問題ないのですが、不安な気持ちから離れられなくなると不安障害と呼ばれる精神障害に陥ることになり、さらに悪化すれば恐怖心へと進行してしまいます。
ストレスと同じように、不安も大きくならないうちに芽を摘み取っておくことが大事。
不安な感情が起こるしくみを理解して、小さなうちに摘み取るテクニックを身に着けましょう。
不安は、その原因と向き合わなければ消すことができません。
不安が大きくなるのではないかと感じても、勇気をもって自分の心の中を直視する必要があります。
自分が不安になるときのことをよく思い出してみてください。
2-1. 願望を満たす方法を考える
人はなぜ不安になるのでしょうか。
それは、願望が達成できない心配や、願望を裏切られる心配から起こります。
理想と現実のギャップが怖いのです。
物事が「こうなってほしい」「こうならないと困る」という願望、または誰かに対して「こうあってほしい」「こういう人だ」という願望ですね。
心配や不安の裏には、必ずこういった願望が隠れています。
まず、自分と向き合って、不安のもとになっている願望が何か探り出しましょう。
願望が見つかったら、今のままでその願望を満たす方法を冷静に考えてみます。
それが見つかれば不安は解消されますよね。
しかし、簡単に実現できないから不安になっている場合が多いわけです。
このままでは不安の原因になっている願望を満たすことができない。
そう思ったら、何かを少し変えて満たす方法を考えてみましょう。
外的な要因や相手のことは変えられないのですから、自分が変わるしかありません。
100%から70%というように願望のハードルを少し下げてみる、1度にゴールまで考えず、達成点を小刻みに設定してみるといったことですね。
2-2. 自分ができることに目を向ける
人生で目的を持つことはとても大事なことで、生きがいにもつながります。
人生を豊かなものにするために目的があって、達成すべき願望=目標があるのです。
ここで重要なのは、達成可能な目標でなければいけないということ。
子どもの頃に描いていた「夢」と、大人の人間が生きていく上での目的や目標は違います。
実現できる可能性がないに等しいような夢を追いかけていても、限りある人生の時間をムダにしてしまいますよね。
自分にできることとできないことの見極めが必要なのです。
ネコが塀にジャンプするときに、自分が飛べる距離かどうかを判断するのと同じだと思っていいでしょう。
自分にはこの距離が飛べないという判断ができなければ、最悪は命を落とすこともあるわけです。
「これは自分に達成できる願望ではない」という判断を下せるかどうかが、大事なんですね。
自分にできない物事ではなくて、できる物事に目を向けて生きることがプラス思考につながります。
2-3. 自分を大切にする方法
精神を安定させるために大事なことは、「いかにして自分を気持ちよくさせるか」ということだといえます。
「いかにしてプラス思考にもっていくか」といい換えてもいいでしょう。
目標のハードルを下げても、設定を小刻みにしても、重要なのは達成すること。
願望を達成することによって生まれる達成感や充実感を感じることです。
ひとつひとつの達成感は小さくても、それを重ねながら生きることが、自分を大切にする秘訣です。
決してぬるま湯の中で生きるということではありません。
ちょっと頑張れば達成できる願望、自分のエネルギーをそこに集中すれば達成できる目標、という適度なストレスをともなう願望を達成することが、不安の解消につながるのです。
3. イライラを解消する
イライラは怒りの感情によって起こるもの。
怒りもマイナスの感情ですから、身体はストレス反応を起こすことになります。
昔から「喜怒哀楽」といわれるように、怒りは人間の自然な感情のひとつで、なくすことはできません。
内に秘めた多少の怒りは、エネルギーとなってプラス思考へとつながる場合もあるのです。
しかし、精神的に不安定な時は、怒りの感情をコントロールすることができなくなり、人間関係を悪くしたり、余計なストレスを溜めてしまいがち。
イライラが起こるしくみと、怒りの感情を鎮める方法を紹介しましょう。
3-1. イライラが起こる5つの原因
イライラのもとである怒りの感情は、次の5つの要因によって生まれるといわれます。
① 精神的に不安定な時
② 体調が悪い時
③ 想定外のことが起こった時
④ 辛い環境にいる時
⑤ 自信がもてない時
こうしたことをすべてなくせばイライラをなくすことができるのでしょうけども、ストレッサーと同じように自分の意思とは関係なく降る注ぐことも多いので、ゼロにすることは不可能でしょう。
現実的に考えると、できるだけこうした要因を少なくして、感情をコントロールできるようになることがイライラを解消する最善策だといえます。
怒りの感情をコントロールするテクニックは、「アンガーマネジメント」という分野で研究されており、具体的な方法がいくつか紹介されているので、ぜひそちらも参考にしてください。
ここでは、イライラと相関関係にある自律神経について解説しましょう。
精神が不安定になると自律神経が乱れ、自律神経が乱れると精神のバランスも崩れます。
自律神経を整えることによって、感情のコントロールもしやすくなるのです。
3-2. 自律神経を理解する
自律神経は、心拍、呼吸、血圧、体温、消化吸収といった生命維持に欠かせない身体機能をコントロールしているシステム。
活動モードをつくる交感神経と、リラックスモードをつくる副交感神経が、常に6:4程度の割合で働いており、どちらかが優位になるようになっています。
交感神経は、心拍や呼吸を増やして血圧を高め、消化吸収機能を低下させます。
これはストレス反応で起こる身体の変化と同じですが、ストレス反応は「ストレスホルモン」と呼ばれるホルモンを放出させることによって、交感神経を高めて臨戦態勢をつくるのです。
ですからストレス過多になるということは、自律神経のバランスが崩れて交感神経が優位の状態を続けてしまうわけですね。
こうなると身体は疲労し、感情のコントロールもしにくくなって、イライラも多くなります。
ですから、精神の安定を求める場合には、身体に逆の効果を及ぼす副交感神経を優位にする必要があるのです。
3-3. 副交感神経を高める方法
自律神経自体は意識的にコントロールできるものではありませんから、自分で交感神経を優位にしたり副交感神経を高めたりということはできません。
しかし、ストレスが起こると交感神経が高まるように、意識的にリラックスすることによって副交感神経を優位にもっていくことは可能です。
副交感神経を高めるポイントは、セロトニンという神経伝達物質を増やすことにあります。
神経細胞と神経細胞の間で信号を伝える物質のひとつであるセロトニンは、幸福ホルモンと呼ばれる体内物質のひとつで、精神の安定に深くかかわっています。
睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの材料になるので、昼間にセロトニンを多くつくっておけば、睡眠の質も上がることに。
セロトニンを増やす方法には、心地よいことや楽しいことをするのが一番で、具体的には緑の中へ行って樹木が放出するフィトンチッドと呼ばれる物質を浴びる、息が乱れない程度の軽い有酸素運動をする、ストレッチで緊張している筋肉を伸ばす、マッサージやツボ刺激で血行を改善する、半身浴をするといったことなどがあげられます。
自分がリラックスできる手段を多くもっている人が、イライラを解消するのも上手い人だといえますね。
4. うつ病を見分ける
精神的に不安定な時期が続き、「うつ病」を患ってしまう人が増えています。
うつ病の原因は、神経伝達物質が上手く働かないことにあるといわれています。
かつては、「甘え」だとか「弱い人間だ」という言葉で済まされていた症状が、うつ病によるものだというケースが増えているのですから、症状が出はじめたら早めに見極めることが大事ですね。
自分で改善できない場合には、医療機関を受診しなければいけません。
ただし、こうした症状は自分で気づかないことも多いので、家族や職場の同僚の言葉に助けられることも多いもの。
日頃から、気づいたことをいってもらって、素直に受け入れる気持ちをもつことが大切ですね。
4-1. 思考に表れる特徴
不安やイライラといった感情に表れる症状は悪化すると、憂うつ感が続く「抑うつ状態」や、物事に興味や喜びを失う傾向が表れます。
女性は、急に化粧やオシャレをしなくなったら要注意といわれます。
思考に表れる症状には、物事を悪い方へ悪い方へと考える「マイナス思考」、物事に白黒をつけたがる「白黒思考」や、「完璧主義」、被害妄想などがあります。
また、「自分はダメな人間だ」「自分は弱い人間だ」「自分は負け組だ」などと必要以上に自分を過小評価する傾向が表れるのも、うつ病の特徴です。
4-2. 行動に表れる特徴
行動に表れる症状には、「無気力」や「意欲の低下」によって会社や学校に行かなくなる、家事が手につかなくなるというケースが多く、悪化すると布団から出てこなくなってしまうこともあります。
傍から見ると、動作が緩慢になって注意力が低下することも特徴。
仕事をテキパキとこなしていた人間のペースが急にゆるくなる、話し方がゆるくなって声が小さくなる、会話をしても的外れな返答が多くなるといった症状は赤信号です。
自己嫌悪がひどくなることが多いのも、言動に表れる特徴のひとつです。
4-3. 身体に表れる特徴
身体に表れる症状としては、自律神経が乱れて身体機能に悪影響を及ぼす「自律神経失調症」がよく知られています。
動悸や不整脈、頭痛やめまい、血流悪化による肩こりや腰痛、大量の汗をかくといった症状が代表的なものです。
また、睡眠障害や食欲減退もうつ病の症状としてよく見られるものですから要注意。
若い層には、稀ではありますが過食の症状が現れることもあります。
まとめ
精神的に不安定であることを自分で意識しているケースは、比較的軽症だといえます。
ここで紹介したセルフケアで改善できる人が多いでしょう。
問題が大きいのは、自分でわかっていない間に精神が不安定になり、うつ病などを発症してしまうケース。
精神障害の多くはこのパターンです。
こうした危機を予防するためには、日頃からのストレスケアが欠かせません。
ひとつでも多く自分にプラス刺激を与える手段と、どんなことが起きても受け入れられるプラス思考を積極的に身に着けましょう。
【参考資料】
・『割り切り力のススメ』 仲宗根敏之 著 廣済堂 2017年
・『不安にならない技術』 和田秀樹 著 宝島社 2016年
・『「いつもの不安」を解消するためのお守りノート』 勝久寿 著 永岡書店 2017年
・『対人関係のイライラは医学的に9割解消できる』 松村浩道 著 マイナビ出版 2016年
・『ニュートン別冊 現代人をむしばむ五つの大病』 ニュートンプレス 2018年